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プリシラとエスメラルダ

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 プリシラはその夜メイド頭のマーサたちのすすめでベルニ子爵家に泊まる事になった。

 マーサはプリシラが戻るまでプリシラの部屋をすぐに使えるように掃除しておいてくれたのだ。

 プリシラは小さな頃過ごした部屋を懐かしそうに見回した。

『ここがプリシラが住んでた部屋か』

 タップは興味津々で室内をパタパタと飛んでいた。プリシラは苦笑してうなずいた。

「そうね、楽しかった事と悲しかった事が起きた場所だわ」
『プリシラ、この部屋が嫌なのか?』
「ううん。だけどね、色んな事思い出しちゃって」

 プリシラはタップに隠しの魔法を解いて出してもらった寝巻きに着替えてベッドに入った。だが中々眠る事ができなかった。

 プリシラは部屋の天井を見上げた。プリシラは幼い頃、この天井を見上げながら何度泣いた事か。

 プリシラはがばりとベッドから起き上がると、枕の側で丸くなっていたタップを抱き上げた。

「タップ、お姉ちゃんのとろこに行こう!」
『ええ?!何で、俺やだよ。プリシラだけ行って来いよ』
「いいじゃない、タップ。私とタップは一心同体なんでしょ?」

 プリシラはブツブツ言っているタップを抱き上げて、となりで寝ているはずのエスメラルダの部屋のドアをノックした。

「お姉ちゃん、起きてる?」

 しばらくして、ネグリジェにショールをはおったエスメラルダが顔を出した。

「どうしたのプリシラ。こんな夜中に」
「えへへ。お姉ちゃん、お願い。一緒に寝ていい?」

 エスメラルダは驚いた顔をしてから、苦笑して答えた。

「しょうがない子ねぇ。いいわよ」

 プリシラはやったと言ってエスメラルダとベッドにもぐりこんだ。タップはプリシラの枕元に丸くなる。

 エスメラルダはプリシラに毛布をかけながら、慈愛のこもった笑みをうかべながら言った。

「プリシラ、自分の部屋にいて嫌な事思い出しちゃった?」

 姉のエスメラルダには何でもお見通しなのだ。プリシラは苦笑しながら答えた。

「うん、ちょっとね。せっかくマーサさんたちが綺麗に掃除をしてくれていたのに。お姉ちゃん、思い出すね。お姉ちゃんが学校から帰って来た時、私いつもお姉ちゃんのベッドに潜り込んでた」
「そうね、私もプリシラがベッドに入ってくるのを待っていたわ。プリシラが来ないと、一人で泣いているんじゃないかって不安で眠れなかった」
「お姉ちゃん・・・、」

 プリシラは幼い頃、姉のベッドに入ってからもよく泣いていた。エスメラルダにはいつも心配ばかりかけていた。プリシラが顔をくもらせると、エスメラルダは明るい笑顔になって答えた。

「でも今は心配していないわ。プリシラはもう泣かない、笑える強さを持っている」

 姉の言葉にプリシラはとびきりの笑顔になった。
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