最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

プリシラ怒る

　プリシラの真っ青な顔をみた見たリベリオが、安心させるように言った。

「大丈夫だよ、プリシラ。これから水のドラゴンであの建物に突っ込む。魔法制御の結界が破壊されればお姉さんの魔力はある程度戻るだろう」
　　
　プリシラは青ざめながらうなずいた。水のドラゴンは何のためらいもなく頭から建物の三階の壁をぶち抜いた。

　プリシラはタップを抱いたまま、ドラゴンが開けた穴の中に滑り込んだ。

「お姉ちゃん！」

　プリシラは我が目を疑った。誰よりも強く美しい姉のエスメラルダが、両手を高く釣り上げられていたからだ。エスメラルダの前には人相の悪い男が立っていた。

　エスメラルダの顔を見ると、頬が赤く腫れ上がり、鼻血まで出していた。プリシラは身体中の血液が、サァッと下がったように感じた。これはこれまでに感じた事のない怒りの感情だ。腕の中のタップが言った。

『悪魔姉ちゃんケガさせられてるじゃねぇか。おい、プリシラ。あの男殺っちまうか？』
「・・・。タップ、お願い。私にやらせて？」
『おうおう、ずいぶんと怒ってんじゃなぇか。プリシラ』
「うん。これまで感じた事がないくらい、怒ってる」
『もしプリシラが危険になったら俺が割り込むからな？ケガすんじゃねぇぞ？』
「ありがとう、タップ」

　タップは自分の翼をパタパタさせ、プリシラの腕の中から離れた。プリシラはエスメラルダと男に視線を移すと、低い声で言った。

「お姉ちゃん、そのケガ、どうしたの？貴方がお姉ちゃんを殴ったの？」
「だとしたら何なのだ？小娘風情が」

　男はプリシラが年若いのでみくびっているようだ。

「よくも私の綺麗なお姉ちゃんの顔を傷つけてくれたわね？私は貴方を絶対に許しません！」

　男は素早く呪文を唱えると、攻撃魔法をプリシラに放った。攻撃を察知したプリシラはすぐに風防御魔法を張った。

　男の魔法の威力はすさまじく、プリシラの作った透明な壁に容赦なくぶち当たる。となりに飛んでいるタップがのんびりしながら言った。

『プリシラ、そろそろ防御壁が壊れるぜ？どうすんだ？』
「大丈夫よ、タップ。私に考えがあるの。タップは自分の身を守ってね？」
『そんじゃお手なみ拝見といくかな？』

　タップは自分に風の防御ドームを張った。これでタップの身は安全だ。プリシラの目の前の壁はビシビシと音を立てて割れ始めた。

　プリシラは防御壁が壊れる寸前、自らに浮遊魔法をかけた。天井すれすれまで浮き上がって下を見ると、男がキョロキョロと辺りを見回していた。

　プリシラは手の中に小さな風のかたまりを何個も作った。風のかたまりを高速回転させ、男に向かって投げつけた。

　男の身体を風魔法のかたまりが撃ち抜いた。男から勢いよく血が吹き出した。

　プリシラは相手を傷つけたのに、ちっとも後悔の感情はわかなかった。プリシラはすぐに地面に降りると、エスメラルダに向かって駆け出した。

　防御ドームを解除したタップもプリシラに続く。プリシラはエスメラルダの手を拘束している手かせを風魔法で破壊した。

　釣り上げられていたエスメラルダの身体はその場にくずおれそうになった。プリシラはエスメラルダの身体を強く抱きしめた。