最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

リベリオの決断2

　プリシラに警告した貴族たちは、きっとプリシラの事を狙っている男たちだろう。社交界でのプリシラとの最初のダンスをリベリオが務めたから、プリシラを狙う貴族たちから警戒されているのだ。

　リベリオは歯噛みをしたが、事実なので仕方がない。リベリオはチラリとプリシラの表情を見つめた。プリシラは今日も素晴らしく綺麗で可愛い。彼女の表情には、リベリオへの嫌悪は見て取れなかった。

　だからといって、プリシラが浮気性なリベリオを容認しているとは思えない。リベリオはごくりとツバを飲み込んでから言った。

「俺は、これまで付き合って来た女の子たちに謝って回っているんだ」
「謝る？今更ですか？」
「・・・。うん、そうだよね。今更だよね。だけど、俺は新しい一歩を踏み出したいんだ」
「それはとても良い事だと思います」

　プリシラはそう言ってニッコリと笑ってくれた。彼女の笑顔に勇気をもらい、リベリオは意気込んで言った。

「プリシラ！これまで付き合ってきた女の子たち全員に謝罪が済んだら。君に聞いてもらいたい事があるんだ」
「？。はい、今ではなくてですか？」
「ああ」
「はい、わかりました」

　プリシラは微笑んでうなずいてくれた。リベリオは心の中で誓った。すべての謝罪を終えたら、プリシラに告白しようと。

　月日は流れ、リベリオはようやく、これまで付き合った女性たちに謝罪する事ができた。これで心置きなくプリシラに告白できる。

　プリシラは父からの手紙を手渡すと、いつものように鈴の鳴るような心地の良い声で、楽しそうにおしゃべりをしてくれた。

　リベリオはプリシラの可愛さに思わずぼんやりと聞き入ってしまっていた。ハッと気を取り直し、プリシラに言った。

「プリシラ！以前、俺が言った事を覚えているかい？付き合っていた女の子たち全員に謝罪が終わったら、君に聞いてほしいほしい事があるって」
「ええ、そうでしたね。何でしょうか？」

　プリシラは微笑みながら、リベリオの言葉を待っている。リベリオは勇気を振り絞ってプリシラに愛の告白をしようとした。

　そこで突然怖気付いた。もしプリシラに断られたらどうしよう。気まずくなって、もうお茶会にすら来てくれなくなるのではないか。

　これまでリベリオが百万回考えた不安が急に押し寄せてきた。リベリオは身体がブルブル震え、声がしどろもどろになった。

「あ、あの、プリシラ。俺と、俺と、友達になってくれないか！？」

　自分は何を言っているんだ。プリシラに愛の告白をするために文字通り血の滲む努力をしたのではないか。

　リベリオが恐る恐るプリシラの顔を見ると、彼女は驚いた顔をしてから、バラが咲いたような笑顔になって言った。

「ええ、私でよければ喜んで。私、男の人のお友達ができたの初めて」

　プリシラの輝くような笑顔に、リベリオは心が洗われるようだった。友達だっていい。プリシラが側で微笑んでくれるならこんな幸せな事はない、いずれ機会を見て改めて愛の告白をすればいい。

　リベリオはコホンとわざとらしい咳をしてから言った。

「じゃあプリシラ。俺たちはもう友達なのだから、俺にさま付けはもう無し！」
「ええ？！」
「当たり前だろ？友達とは対等な者たちの事を言うんだ」

　プリシラは少し困った顔をしてから、意を決したように言った。

「じゃあ、リベリオ」
「ああ、プリシラ」

　リベリオとプリシラは自分たちの真面目な顔が面白くなって、同時に笑い出した。

　プリシラのねずみは、リベリオたちのやり取りを完全無視してりんごをむさぼり食っていた。