最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

エレナの魔法

「いやぁぁ！お父さん！」

　エレナは狂ったように悲鳴をあげると、父のなきがらに駆け寄って行った。

「ガイオさん！タップお願い！ガイオさんを助けて！」
『無茶言うな！首と胴体離れてんだ。即死だよ』

　プリシラのせいだ。プリシラが判断を誤ったせいで、最悪の事態を招いてしまった。

　エレナは、転がった父の頭部を持ち上げ、胴体にくっつけた。

「お父さん！お父さん！死んじゃ嫌！生きて！私をひとりぼっちにしないで！」

　エレナの悲痛な叫びは、地下道の通路中にこだました。プリシラもタップもマージもトビーも、何も言えずに押し黙っていた。エレナにかける言葉が見つからなかったからだ。

　プリシラが石だたみの床を見つめていると、辺りが明るくなっている。何の光だろうと見上げると、エレナが輝いていた。エレナはひたすら父のなきがらに声をかけていた。

　お父さん、死なないで。生きて。

　エレナがまとう光はガイオのなきがらをも巻き込んだ。魔力だ。魔力の感知が弱いプリシラにもよくわかった。

　エレナはものすごい魔力を放出しているのだ。プリシラが抱いているタップが息を飲むように言った。

『すげぇな、あの小娘。ものすごい魔力だ』
「エレナは歌っていないわ。でも魔法を使っているの？」
『歌を歌う。というのは、あの小娘が無意識に自分につけている制御装置なんだろう。言霊の魔法は、言った事が現実になっちまう。腹が減った、りんご食いてぇと呟いたら、空からりんごが降ってきたなんて困るだろ。だから小娘は無意識のうちに歌を歌わなければ、魔法は発動されないと思っているんだ』
「・・・。じゃあ、エレナはガイオさんを蘇らせようとしているの？」
『ああ、もし小娘の親父が蘇ったら、世界のことわりを違える事になる』

　エレナの放出した魔力は渦をまき、固まっていった。魔法の光は眩しいほど輝き、パンッと弾けた。

　プリシラが眩しさにつむっていた目を開くと、エレナが父親におおいかぶさるように倒れていた。

「エレナ！」

　プリシラはエレナとガイオの側に駆け寄ってから、驚きの声をあげた。何とガイオの頭部と胴体はつながっていたのだ。父親におおいかぶさっているエレナは、どうやら気を失っているようだ。

「ガイオさん！ガイオさん！」

　プリシラはガイオの肩をゆすって声をかけた。ううん、とガイオはうめいてからパチリと目を開けた。

「あれ、ここが天国か？ん、あんた天使か？」

　ガイオはプリシラを見て不思議そうに呟いた。

「違いますよ。何寝ぼけてるんですか。ガイオさんは生き返ったんですよ！エレナの魔法で」

　ガイオはそこで、自分の上に寝ているエレナに気づき、エレナを抱きしめて叫んだ。

「エレナ！エレナ！」

　ガイオは目を覚まさないエレナの名前を悲痛な声で呼んだ。プリシラは腕の中のタップに言った。

「タップ。エレナの状態を診て？」

　プリシラがタップをエレナの顔に近づけると、タップは彼女の頬にちょこんと顔を押しつけて言った。

『大丈夫だ。小娘は魔法を使いすぎて気を失っているだけだ。魔力が回復したら目を覚ます。だが、もう死者蘇生なんておかしな魔法は使わせない事だな。次にやって、小娘が無事だとは断言できねぇ』

　プリシラはタップの言葉を注意深く聞いてからガイオに伝えた。

「ガイオさん、安心してください。エレナは魔法を使いすぎて気を失っているだけです。魔力が回復すれば意識を取り戻します。だけど、もう死んだ人を生き返らせるような強力な魔法を使わせないでください。次このような事があれば、エレナにどんな異常が起きるかわかりません」

　ガイオはハッとした表情になり、娘を強く抱きしめながら、一言わかったと答えた。