上 下
122 / 175

エレナの魔法

しおりを挟む
 エレナが歌を歌い終わると、小鳥たちは何事もなかったように空に飛び立っていった。

「エレナ。貴女の歌は、現実になるの?」

 プリシラが上ずった声で聞くと、エレナはさみしそうに微笑んだ。プリシラの膝の上でくつろいでいたタップが口を開いた。

『プリシラ。この小娘の魔法、すげぇぞ』
「すごいのは私にもわかるわ。だけどどこらへんがすごいのかしら?」
『この小娘の歌に魔法がやどっているんだ。つまり言霊だ』
「言霊」
『ああ、古代から言葉には魂がやどる。小娘の歌った歌が現実になっちまう。つまりだ。プリシラが牢屋にぶち込まれたとするだろ?プリシラは風魔法で牢屋の扉をぶっ壊すだろ?小娘は違う。扉を開いて、と歌えばいい。プリシラが牢屋から抜け出した事を悪人が気づけば追いかけてくるだろ?プリシラは風魔法でそいつらを吹っ飛ばす。だが娘は、悪人たちに眠ってと歌えばいい』
「エレナの歌の魔法がすごいのはわかったわ。だけど私の風魔法って、客観的に見ると物騒ねぇ」
『それは仕方ねぇ。プリシラは風のエレメントを使って風の現象を起こしているんだ。だが小娘の魔法はすべてのエレメントの融合、この世のことわりさえねじ曲げてしまえる魔法だ。もし小娘が殺したいほど気に食わねぇ奴がいたとする。小娘はただ歌えばいいんだ。崖に向かってそのまま歩き続けろって。気に食わねぇ奴は勝手に崖から落ちておだぶつだ』
「エレナはそんな事しないわよ!」
『例えばの話だ。小娘はそれが嫌でも、大切な人間を人質に取られたら言う事を聞くだろう?』

 そこでプリシラは思い出した。エレナの父親の事を。エレナの父親は、マージを危険な目にあわせても、エレナを逃したかった。つまり何かから逃げているのだ。プリシラは青ざめた顔でエレナを見つめた。エレナは悲しそうに言葉を続けた。

「お父さんは笛の名人で、私の歌にすぐ伴奏をつけてくれるの。私歌う事が大好き。私はお客さんの前で、たくさんの歌を歌ったわ。お花の歌、小鳥の歌、虹の歌。私が歌う通りに、お花が咲き乱れ、小鳥が遊びに来て、空には大きな虹がかかった。生活は貧しかったけど、私はとても幸せだった」

 そこでエレナは顔をくもらせた。しばらく黙ってから、意を決したように口を開いた。

「だけど、王都に来てから状況が変わってしまったの。私とお父さんは、城下町で興行をしたわ。私たちの芸は城下町で評判になって、貴族さまのお屋敷に招かれたの。貴族さまは私たちの芸をとても気に入ってくださって、しばらく滞在するようにと言ってくれたわ。だけど、」

 エレナはそこまで話すと、顔をゆがめた。目には涙が浮かんでいる。プリシラはタップをトビーに預けると、エレナの側に寄り、彼女の肩を抱いて言った。

「辛い話しをさせてごめんなさいね?ここからは私が話すわ。間違っていたら訂正してね?」

 エレナはプリシラを見てからコクリとうなずいた。プリシラはタップから聞いた言葉を思い返しながら言った。

「貴族さまには考えがあった。エレナの歌の魔法を我が物にする事。エレナが歌えば、どんな事も自分の思い通りになるから」

 エレナはコクリとうなずく。プリシラは言葉を続けた。

「最初は簡単なお願い事。だけど、段々と受け入れ難いお願いをされるようになった。貴女のお父さんは貴族さまに、娘にはこのような歌は歌わせたくないと拒否をした。すると貴族さまは、お父さんを人質にした。歌を歌わないと、父親を酷い目にあわせる、と」

 プリシラがそこまで話すと、エレナは耐えられなくなったようで、小さな子供のように泣き出した。エレナは泣きながら言った。

「ヒック、ヒック貴族さまは、魔法使いを使って、お父さんの首に呪いの首輪をつけたの。もし私が歌を歌わなければ、魔法使いが魔法でお父さんの首を絞める魔法を使うの。お父さんを守りたくて、私、」

 エレナはそこまで言うと、わんわんと泣き出した。プリシラはエレナを強く抱きしめて言った。

「エレナは悪くないわ。悪いのはエレナを利用するその貴族よ!その貴族の名前は?」

 エレナは小さな声で言った。スキーラ子爵と。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界ハーレム漫遊記

けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。 異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...