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木箱の中身

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 プリシラが黙々と考え続けていると、突然突風が吹いた。タップが少しだけバランスを崩し、プリシラたちは大きく傾いた。プリシラは慌てて木箱を抱き込んだ。

『わりぃ、皆大丈夫か?』
「ええ、私たちは大丈夫。タップは?」
『問題ねぇ。飛ばすぞ』

 プリシラが木箱を抱き込むと、中身が小刻みに震えている気配がする。プリシラは木箱の中身に安心してもらえるように、小さな声で呟いた。

「ごめんね?怖かった?もう大丈夫。私がしっかりささえているわ?」

 木箱の中身の震えは少しずつ止まったが、次第にすすり泣きが聞こえてきた。口を押さえて声がもれないようにしているようだが、もう我慢の限界のようだ。プリシラはタップに言った。

「タップ、地上に降りて?」
『んっ?何だプリシラ、便所か?』
「違うわよ。下に降りてほしいの」

 タップはゆっくりと地上に着地してくれた。トビーはプリシラの行動をいぶかるように見ていた。

 プリシラは地面に降りると、タップの背中から浮遊魔法でゆっくりと木箱をおろした。木箱には鉄の鍵が取り付けられていた。プリシラは木箱に向かって話しかけた。

「これから木箱を開けるわ?自分で開ける?それとも出られなければ私が鍵を壊しましょうか?」

 プリシラの言葉にトビーはギョッとした顔をして叫んだ。

「何言ってんだよプリシラ!奴が言ってただろう!この箱を開けたら、マージおばちゃんの命は無いって!」

 プリシラはトビーを真剣な目で見つめて言った。

「トビー、私たちは配達屋よ?配達屋はお客さまの本心を届けるの。あの人の本当の願いを」
「あいつは客なんかじゃねぇ!おばちゃんを傷つけようとする悪い奴だなんだよ!」
「あの人はどうしてそこまでしなければいけなかったのか考えて?トビーがマージさんを心から大切に思うように、あの人はこの木箱の中に入っているものがとっても大切なの」

 プリシラの言葉が終わらないうちに、ギィッと木箱のふたが開いた。やはり鉄の鍵は見せかけで、中から開けられる仕組みになっていたのだ。

 中から見事な銀髪の美しい少女が顔を出した。歳の頃は十五、六歳くらいだろうか。瞳はグレーで、マージを人質にとった男と髪の色や瞳の色、面差しが似ていた。きっと血縁なのだろう。

 トビーは箱から出てきた少女を見て叫んだ。

「何だよ!お前!何で隠れてんだよ!荷物のフリしやがって!もしマージおばちゃんに傷一つつけてみろ!あの男をぶっ殺してやる!」

 トビーの剣幕に、銀髪の少女はシクシク泣き出した。

「お、お父さんはそんな事しない。お父さんは、とっても優しいの、私のために、やってる、の」
「優しい奴がおばちゃんに刃物なんて向けるかよ!」

 やはりあの男は少女の父親だったのだ。プリシラは、少女につかみかかろうとするトビーを抱きとめた。

「トビー、落ち着いて。私たちで考えるの。この子とお父さんがどうしたら幸せになれるかって」
「はぁ?!悪い奴は幸せになんかなっちゃいけねぇんだよ!悪い奴は騎士団に捕まって一生牢獄の中なんだよ!こいつを船にほっぽったら、マージおばちゃんを助けて、奴を騎士団にしょっぴいてやる!」

 プリシラは驚いた、誰にでも優しいトビーが手がつけられないほど怒っているのだ。プリシラはトビーの怒りの原因が痛いほどわかった。プリシラは、今にも少女にとびかかろうとするトビーを、後ろから優しく抱きしめた。

「トビー、大丈夫。マージさんはきっと無事よ?」
「・・・。俺、マージおばちゃんしかえねぇんだよ。プリシラは姉ちゃんになってくれたけど、俺の他に家族いるしさぁ。俺、おばちゃんがいなくなったら、本当の一人ぼっちになっちまう」

 トビーはプリシラに振り向いた。トビーは泣いていた。大きな瞳からポロポロと涙をこぼしていた。トビーは不安だったのだ。マージがいなくなってしまう事が。

 プリシラは正面からトビーをだきしめて言った。

「大丈夫よトビー。マージさんはトビーとずっと一緒。私だってこれからもずっとトビーのお姉ちゃんよ?」
「・・・。うん、」

 トビーはプリシラの腕の中でシクシク泣き出した。プリシラはトビーが落ち着くまでずっと抱きしめていた。


 
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