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エスメラルダの困惑

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 エスメラルダはとてもイライラしながら空を飛んでいた。妹のプリシラにちょっかいを出す女ったらしを成敗してやったのに、ちっとも気分が晴れないからだ。

 プリシラに言い寄る不届きな男は、デムーロ伯爵を名乗る、リベリオという青二才だ。

 リベリオの事を調べたが、とてもおぼこいプリシラの相手には相応しくない男だった。

 手を出した女は数知れず、女性の地位や立場、職業も多岐にわたっていた。女優に歌姫、町娘に貴族の娘、どの娘も皆美しい娘ばかりだった。

 交際している期間はごくわずかで、あっという間に別な女性に手を出す始末。プリシラもきっと遊ばれて捨てられるに違いない。

 エスメラルダは可愛い可愛いプリシラを守らなければいけないのだ。プリシラが召喚士養成学校に通っている時も、プリシラの友達のチコとサラをおどして約束させていたのだ。

 プリシラに言い寄ろうとする男がいれば、すぐに知らせるようにと。チコとサラは優秀な内通者だった。学年の先輩、クラスメイト、後輩と、プリシラに想いを寄せる男子生徒をエスメラルダに教えてくれた。

 エスメラルダはちょくちょく召喚士養成学校に出向いては、プリシラに懸想する男どもに、ちょっかいを出さないようくぎを刺していた。今回も、リベリオという若造を脅せばすぐに終わると思っていた。それなのに、リベリオはエスメラルダの脅しにも屈せず、あろう事かプリシラを愛していると宣言した。

 エスメラルダは頭に血が上って、予定以上の強力な魔法でリベリオを叩きのめしてしまった。おそらく死んではいまい。これでプリシラの事を諦めてくれればよいが、油断はならない。

 エスメラルダはリベリオとの魔法戦で驚いた。リベリオはエスメラルダほどの潜在魔力は無いが、センスのある魔法使いだった。

 エスメラルダは魔法学校に通っている時、いつも呪文の長さが気になった。悠長に呪文など唱えていては、敵にやられてしまうではないか。

 魔法学校で教える魔法は、どんな魔法使いでも再現できるように、歴代の魔法使いたちが作ってきた呪文だ。そのため、もっと短い呪文で魔法を発動させるならば、自身でオリジナルの魔法を考えなければいけない。

 エスメラルダは在学中呪文を縮める努力を惜しまなかった。そこで参考にしたのが風のエレメント使いである妹の風魔法だ。

 エスメラルダが自宅の屋敷に戻ると、プリシラは練習した風魔法を披露してくれた。その時プリシラは呪文を唱えていなかったのだ。

「プリシラ。魔法を使う時、何故呪文を唱えないの?」
「?。魔法を使う時、呪文が必要なのですか?お姉さま」

 プリシラはエスメラルダの重たい教科書を空中に浮かべながら、不思議そうに首をかしげた。
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