最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

脅威

　リベリオが晴れない気持ちのまま、飛行魔法でデムーロ伯爵家の屋敷に戻ろうとしていると、目の前に何かがあった。空中にいるから鳥だろうか。だがその物体は、空中にとどまっている。

　リベリオは何だろうと近づいてみると、それは女性だった。真っ黒なドレスに身を包んだ美しい女性だ。

　彼女は風浮遊魔法を使って空にとどまっているのだ。彼女もきっと魔女なのだろう。

　空で出会って無視をするのは気が引けたので、リベリオは声をかける事にした。

「やぁ、お嬢さん。空の散歩ですか？」

　黒衣の魔女はギロリとリベリオをにらんで答えた。

「散歩なんて気分じゃないわ。私はとってもイライラしているの」

　魔女はこれだから嫌だ。魔女は気位が高くて、ごう慢な女性が多い。リベリオは魔女とは遊びでも付き合わないと決めていた。このまま通り過ぎるのも気が引けるので、リベリオは会話を続けた。

「どうして気分がすぐれないのですか？」
「貴方を待っていたからに決まっているじゃない」

　黒衣の美女は、右手を振るような仕草をした。攻撃魔法を発動させたのだ。リベリオはとっさに風防御呪文を唱えて、風防御ドームを自身の周りにまとわせた。

　その直後、リベリオの身体に激しい衝撃を感じた。魔女が強力な炎攻撃魔法を放ったからだ。

　リベリオは驚きのあまり、ぼう然と黒衣の魔女を見ていた。彼女の攻撃魔法の威力ももちろんだが、彼女は呪文の詠唱無しで強力な魔法を使ったのだ。

　一つのエレメントしか操れないエレメント使いならば、呪文の詠唱無しで魔法を発動させる事は可能だ。

　しかし魔法使いは、火、水、風、土の四つのエレメントを操らなければいけない。そのため呪文は不可欠なのだ。

　リベリオは魔法の素早い発動には、呪文の短略化が必要だと考え、呪文の詠唱を短くするように工夫している。だから黒衣の魔女の攻撃にも耐えられたのだ。

　相手の魔法使いが攻撃魔法を使った時、のんびり防御魔法の呪文を唱えていたら間に合わない。

　黒衣の魔女は呪文を唱えず、簡単な手の仕草で魔法を発動させているようだ。とんでもなく強い魔女だ。だがリベリオは黒衣の魔女とは初対面だ。

　リベリオの頭にある疑問が浮かんだ。強い魔女が何故リベリオを襲ったのかという疑問だ。怨まれる事など、身に覚えがありすぎて、どれだかわからない。

　リベリオの一存で別れた女性が怨みに思って、魔法使いの殺し屋でも雇ったのだろうか。

　黒衣の魔女が誰のさしがねがはっきりさせなければいけない。