最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

プリシラのわがまま2

　ランチを食べ終わって一休みした後、プリシラはタップにあるものを出してもらった。パルヴィス公爵家の図書室にあった児童書だ。

　パルヴィス公爵家はたくさんの書物を有していて、申請すれば使用人でも書物を読む事ができる。プリシラはパルヴィス公爵家で過ごす時に本を借りているのだ。

「ねぇ、お母さま。本を読んでくださいませんか？」
「ええ、いいわよ。まぁ、懐かしい。エラの子供が小さかった時、よく読んであげたのよ？」

　エラとはパルヴィス公爵家に使える使用人だ。エラの息子も下男として働いている。パルヴィス公爵夫妻は使用人をとても大切にしているのだ。

　プリシラは少し考えてしまった。もしトビーと母親がパルヴィス公爵家で働いていたならば、母親は病で亡くなる事はなかったのではないか。そんな事を考えて、無意味な事だと頭を振った。

　母は穏やかな声でプリシラに童話を読み聞かせてくれた。お姫さまが苦難に立ち向かって幸せになるお話だ。

　プリシラは年老いた母が老眼鏡をかけ、本を読んでいる姿をしっかりと目に焼き付けていた。

　母が本を読み終わると、プリシラは少し眠くなった。母は少し眠りなさいと言って、自分の膝をまくらにするようにうながした。

　プリシラは母の膝の上に頭を乗せると、父親がひざ掛けにしていたブランケットをプリシラにかけてくれた。

　果物を食べ過ぎて転がっていたタップが、プリシラの腕の中に入ってきた。プリシラはタップを抱きしめながら目をつむった。

　まるでプリシラは小さな子供に戻ってしまったようだ。プリシラが小さな頃、両親にして欲しかった事だ。無条件で甘やかして、あたたかなかいなで包んでくれる。

　プリシラはもう大人だ。パルヴィス公爵夫妻も年老いている。これはまるでおままごとのような家族ごっこなのだ。両親に捨てられたプリシラと、子供がいない公爵夫妻の。

　本来ならばこのような遊びはすぐにやめなければいけないのだろう。だけど、少しだけ。プリシラはそう思って、少し涙を流した。

　母がプリシラの頭を優しく撫でてくれる。プリシラはあたたかな気持ちで眠りに落ちた。