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父母

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 プリシラは自分の住まいであるパルヴィス公爵家の屋敷にいた。プリシラは普段、マージ運送会社の一室で寝起きしていたが、月に数回ほどパルヴィス公爵の屋敷で過ごすのだ。

「プリシラ、王都で有名なドレスのデザイナーを呼んでいるの。これからドレスを作るために採寸してちょうだい?」

 母である公爵夫人はニコニコと嬉しそうに言った。

「お母さま、私に新しいドレスは必要ありません。この間作っていただいたドレスで充分です」

 プリシラは、パルヴィス公爵家の養女になってから、たくさんのドレスを作ってもらった。今着ている赤いドレスもその一つだ。プリシラの苦言もどこ吹く風で、公爵夫人は答えた。

「あら、この間作ったのは普段着のドレスよ?これから作ってもらうのは舞踏会用のドレスなの」

 公爵夫人は、突然できた養女のプリシラが可愛くて仕方ないらしい。事あるごとにドレスを作り、プリシラを着せ替え人形にして喜んでいるのだ。

 だがプリシラは知っているのだ、パルヴィス公爵家の台所事情を。パルヴィス公爵の長患いのため、医者や薬代の料金がかさんでいるのだ。

 パルヴィス公爵家はプリシラに金を使っている場合ではないのだ。それにプリシラは、つつましやかな生活に慣れている。召喚士養成学校時代、学費は両親に払ってもらったものの、そのほかの教材代や成長するにしたがっての衣類の資金が無かった。

 雑費の資金は、魔法学校に行っている姉のエスメラルダが、親からもらった金を半分プリシラに渡してくれるのだ。

 プリシラはその金をありがたく受け取り、教材代に使った。衣類はそれまで自分が持っていた服を修善して使っていた。だが成長期のプリシラはどんどん身長が伸び、服がつんつるてんになってしまった。

 見かねた友達のチコとサラが、自分のお古をプリシラにくれた。プリシラは彼女たちの服をありがたく着させてもらった。

 このような生活を続けていたため、プリシラには物欲というものが無かった。プリシラだとて若い娘だ。素敵なドレスを着たり、美しい宝石のついたアクセサリーを身につければ嬉しい。だがそれだけだ。実母のようにドレスや宝石を買い漁り、ベルニ子爵家の財産をひっ迫させる事は愚かな行為だと考えている。

 プリシラはため息をついてから母に言った。

「お母さま。それではお母さまの若い時のドレスを私にくださいませんか?私の身体に合わせてリメイクしますから」
「だめよプリシラ!ドレスには流行があるの。プリシラが笑い者になってしまうわ」
「笑いたい方には笑わせておけばいいのです。私は以前に流行ったドレスを着て、新たな流行を自分で作ります。ですから、デザイナーの方には謝ってお帰りいただいてください」

 パルヴィス公爵夫人は、しゅんと落ち込んでしまった。母には申し訳ないが、これ以上散財させるわけにはいかない。

 パルヴィス公爵は妻の肩を抱きながら、彼女をなぐさめるように言った。

「母さん。プリシラがそういうならば仕方ない。母さんの若い頃のドレスをプリシラに見せてあげなさい。ところでプリシラ、わしの知り合いの宝石商を呼んでいるのだ。プリシラの気にいる宝石がきっとあるだろう。見てみなさい」

 プリシラは深いため息をつきながら父に言った。

「お父さま。宝石はお母さまのものをお借りしますから必要ありません。宝石商の方にはおわびを言って帰ってもらってください」

 プリシラの両親はがっくりとうなだれてしまった。
 
 
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