最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

ベルニ子爵夫妻

　ベルニ子爵夫妻はウィード城で催される社交界を待ちわびていた。社交界では、多くの貴族たちと出会う事ができるからだ。ベルニ子爵家がこれからも存続していくために、あらゆる手を尽くさなくてはいけない。

　そのためには社交界での人脈作りは不可欠なのだ。この度の社交界は、貴族の令嬢たちの社交界デビューも兼ねている。その事を考えると、ベルニ子爵夫妻は気が重くなった。我が娘エスメラルダの社交界デビューの事を思い出してしまったからだ。

　エスメラルダは我が娘ながら、とても美しい娘だ。だが性格に難があった。

　魔力の量も申し分なく、エスメラルダは素晴らしい魔女に成長した。エスメラルダは魔法学校卒業後、多くの令嬢が行う花嫁修行をほっぽり出して、冒険者という卑しい職業についた。荒っぽい仕事をこなし、大金の報酬を受け取っているようだ。

　エスメラルダが社交界に初めて参加した時、本来ならば純白のドレスを身につけなければならないのに、エスメラルダは白いドレスを嫌がり、自ら真っ黒のドレスを作って、社交界に参加した。

　もちろんエスメラルダは注目のまとだった。悪目立ちしたという意味で。令嬢にとって、社交界とは、未来の伴侶と出会う場でもあった。

　エスメラルダには幼い頃より許嫁がいた。相手は子爵家の次男だった。爵位は長男しか継げないため、次男はどこかの貴族に婿養子に行かなければならない。

　相手方も乗り気だった。だがエスメラルダが激しく反対した。自分と魔法で戦って、勝ったならば結婚しますという提案をした。

　結果はエスメラルダの圧勝だった。子爵家の次男は完膚なきまで攻撃魔法でボコボコにされた。

　婚約者のいなくなったエスメラルダの伴侶をどう探すか。社交界で貴族の殿方にダンスを申し込んでもらうしかない。

　ベルニ子爵夫妻はエスメラルダの社交界デビューに期待した。だが結果は、黒衣のエスメラルダは好奇の目にさらされ、まともな貴族令息は声などかけてこなかった。たまに貴族のドラ息子がエスメラルダにちょっかいをかけたが、エスメラルダは完全に無視を決め込んだ。

　それ以来エスメラルダは社交界を嫌がり、冒険者の仕事が忙しいと言い放ち、中々参加をしなかった。だが新たな令嬢たちの社交界デビューに、ベルニ子爵夫妻は焦り出した。

　エスメラルダに今回だけは社交界に参加しろと無理矢理約束させた。エスメラルダはしぶしぶしょうだくした。

　ベルニ子爵夫妻は、ベルニ子爵家の未来をエスメラルダにたくすしかないのだ。娘はエスメラルダただ一人だから。