最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

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エスメラルダの願い

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 エスメラルダはプリシラの他に二人の人物がいる事に気づいた。

「プリシラ、この方たちは?」
「お姉ちゃん。こちららパルヴィス公爵さまご夫妻よ?」
「パルヴィス公爵さまご夫妻がどうしてこんなところに?」

 パルヴィス公爵は妻の肩を抱きながら、エスメラルダに言った。

「そなたがプリシラの姉エスメラルダだな。わしらはプリシラに大変世話になったのだ。わしら夫婦には子供がいない、そこでプリシラをわしらの養女にしたいと考えているのだ。エスメラルダ、どうかわしらの願いを聞き届けてくれないだろうか」

 エスメラルダは驚いた顔でパルヴィス公爵夫妻を見てから、片膝をついて低頭した。姉の態度にプリシラは驚いてしまった。

 エスメラルダは唯我独尊で、どんな権力にも屈しない女性だ。ウィード国の王女もつり目よばわりだし、ウィード国王にいたっては、つり目の父親と呼んでいた。そんなエスメラルダがパルヴィス公爵夫妻に頭を下げたのだ。エスメラルダはうやうやしく口を開いた。

「恐れながら申し上げます。わたくしは以前から不思議に思っていたのです。わたくしの両親が何故プリシラを捨てたのか。プリシラは姉の贔屓目を抜きにしても心の綺麗な娘です。そんな娘をどうして捨てる事ができましょう。わたくしはある考えにいたりました。プリシラにとっての両親は他にいるのではないかと。プリシラの事を心から愛し守ってくれる存在がいるのではないか。それがパルヴィス公爵さまご夫妻だと確信いたしました。どうかわたくしの妹を、娘として大切にしてください」

 プリシラは驚いた。姉のエスメラルダはきっと反対すると思っていたからだ。エスメラルダはいつもプリシラに言っていた。お姉ちゃんだけがプリシラの家族だからね。お姉ちゃんがプリシラを守ってあげるからね。

 プリシラは何だか寂しくなって、タップをかかえたまま、エスメラルダに抱きついた。

「お姉ちゃん!私がパルヴィス公爵家の養女になっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだよね?!」

 エスメラルダは優しい笑顔で言った。

「当たり前でしょ?プリシラは、私の可愛い妹よ?それは天地がひっくり返ったかって変わらないわ?プリシラ、パルヴィス公爵さまご夫妻にたくさん親孝行して、可愛がってもらうのよ?」
「うん。お姉ちゃん、ありがとう」

 プリシラはパルヴィス公爵の養女になった。プリシラに、優しい両親ができたのだ。

 プリシラはエスメラルダと別れ、両親となったパルヴィス公爵夫妻を屋敷に送り届けると、すぐさま会社に戻った。

 プリシラはトビーに話さなければいけなかった。プリシラの大切なもう一人の家族に。

 プリシラがタップに乗って、会社に戻ろうとすると、ちょうど仕事帰りで空を飛んでいるトビーと出会った。プリシラはトビーに話したい事があると言って、城下町で一番高い教会の屋根に降り立った。

 眼下にはたくさんの店や住宅が見下ろせる。プリシラとトビーが気に入っている休けいスポットだ。

 プリシラがパルヴィス公爵夫妻の養女になった事を告げると、トビーはあっけらかんと祝福してくれた。

「いいじゃんか、じぃちゃんとばぁちゃんはいい奴らだしな。それに、プリシラはこれからもこの仕事を続けるんだろ?」
「ええ。パル、お父さまとお母さまから、これからも仕事を続ける事を了承してもらったわ。時々、公爵家に行ったり、貴族の行事に参加はしなければいけないんだけど」
「だったら、これまでと変わりないじゃん。プリシラはプリシラだろ?これからも俺の姉ちゃんなんだろ?」
「!。ええ、もちろんよ!私はトビーのお姉ちゃん。あのね、お父さまとお母さまは、本当はトビーを養子にしたかったのよ?でも、トビーにはマージさんがいる。だけどね、トビーが困った時はお父さまもお母さまも、私だって力になるからね?」
「あはは。じぃちゃんもばぁちゃんもそんな事言ってたな。だけど俺、貴族はいいや。じぃちゃんとばぁちゃんと、デムーロのおっちゃんは好きだけど、貴族って嫌いなんだ」

 プリシラが理由を聞くと、トビーは大人びた表情で自嘲気味に笑いながら答えた。

「俺の母ちゃん、貴族の屋敷で住み込みのメイドをしてたんだ。俺も小さい頃一緒に住んでた。主人の貴族は横暴な奴で、俺は大嫌いだった。ある時母ちゃんは病気になった。だけど住み込みで働いているから、働けなくなって屋敷を追い出されたら住む所もなくなっちまう。母ちゃんは病気を隠して必死に働いた。だけど屋敷の主人に病気なのがバレて、母ちゃんと俺は屋敷から追い出された。マージおばちゃんのところにやっかいになった頃には、母ちゃんの病気はとっても悪くなって、死んじゃった」

 トビーの悲痛な過去に、プリシラは言葉を失った。トビーはニッコリ笑って言った。

「だけど俺、デムーロのおっちゃんや、じぃちゃんとばぁちゃんに会って、貴族でもいい奴がいるんだってわかった。プリシラは、俺たち平民の気持ちをわかってくれる貴族になってくれよ」

 プリシラはトビーの言葉を肝に銘じた。
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