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夕陽の浜辺
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プリシラとタップはいつものように仕事を終えて、パルヴィス公爵の屋敷に向かった。パルヴィス公爵に回復魔法をするためだ。
『じじぃの身体はだいぶ回復した。もうそろそろで回復魔法をしまいにしてもいいかもな』
プリシラを乗せているタップが言った。つまりパルヴィス公爵は全快し、もう回復魔法は必要ないという事だ。
プリシラはパルヴィス公爵の全快を喜ぶ気持ちと、寂しい気持ちでいっぱいになった。本来ならば、平民のプリシラは公爵夫妻に会えるはずないのだ。ましてや親しく会話をするなど、あってはならない事だ。
だがプリシラは公爵夫妻と会うたびに、彼らの事が好きになってしまった。これからは、もう会う事もないというのに。
プリシラはタップと共にパルヴィス公爵をたずねると、彼は書斎で事務仕事をしていた。プリシラが入室して、あいさつをすると、公爵は顔をほころばせて迎えてくれた。
「やぁ、プリシラ、タップ。よく来てくれた。サスキアもお茶の用意をして待っているぞ?」
プリシラは感謝の言葉をのべてから、タップにパルヴィス公爵の回復魔法をしてもらった。
「公爵さま、お身体のおかげんはいかがですか?」
「このところ、とても調子がよいのだ。これもプリシラとタップのおかげだ」
「それはようございました。タップがもうしますには、もう公爵さまに回復魔法は必要ないと、」
「そうか。長い間わしの治療をしてくれた事を感謝する」
「もったいないお言葉です」
「プリシラとタップが来てくれなくなると、妻が寂しがる」
「公爵さま、一つお願いがあるのですが」
プリシラの言葉に、パルヴィス公爵は首をかしげた。
プリシラはタップの背中に乗って空を飛んでいた。プリシラだけではない、プリシラの前にはパルヴィス公爵夫妻が乗っていた。
プリシラはパルヴィス公爵夫妻に提案したのだ。海に沈む夕陽を見に行きませんか、と。
プリシラはパルヴィス公爵夫妻と親しくなって、彼らの言う思い出の場所を聞いていたのだ。パルヴィス公爵夫婦が若い頃所有していた別邸の近くの浜辺だ。
別邸は、パルヴィス公爵の体調が悪化してしまったため、手放してしまったというのだ。
別邸のあった場所は、王都から離れているが、風の霊獣であるタップなら、あっという間に到着できる距離だ。
最初は空を飛ぶ事におっかなびっくりだった公爵夫妻は、子供のように声をあげてはしゃいでいた。
しばらく飛ぶと、はるか先に海が見えた。公爵夫人は少女のように、夫を振り返って言った。
「あなた!見て、海よ!」
「ああ。まさか空から海を見る事ができるとはな」
パルヴィス公爵は、はしゃぐ妻がタップから落っこちないようにしっかりと抱きしめて答えた。
プリシラたちは誰もいない浜辺に降り立った。辺りには波の音と、風にそよぐ木々のざわめきしか聞こえなかった。
プリシラはタップに、隠しの魔法を解いて、毛布を一枚出してもらった。だいぶ日が落ちている。これからどんどん気温が下がるだろう。
パルヴィス公爵は毛布を受け取ってはおると、妻を抱き込んだ。二人は微笑みあってから海を見つめた。
ちょうど夕陽が海に没しようとしていた。辺りは淡いオレンジ色に包まれていた。
プリシラはタップを抱いて、公爵夫妻から少し離れた場所で夕陽を見つめた。公爵夫妻を二人きりにしたかったからだ。
『じじぃの身体はだいぶ回復した。もうそろそろで回復魔法をしまいにしてもいいかもな』
プリシラを乗せているタップが言った。つまりパルヴィス公爵は全快し、もう回復魔法は必要ないという事だ。
プリシラはパルヴィス公爵の全快を喜ぶ気持ちと、寂しい気持ちでいっぱいになった。本来ならば、平民のプリシラは公爵夫妻に会えるはずないのだ。ましてや親しく会話をするなど、あってはならない事だ。
だがプリシラは公爵夫妻と会うたびに、彼らの事が好きになってしまった。これからは、もう会う事もないというのに。
プリシラはタップと共にパルヴィス公爵をたずねると、彼は書斎で事務仕事をしていた。プリシラが入室して、あいさつをすると、公爵は顔をほころばせて迎えてくれた。
「やぁ、プリシラ、タップ。よく来てくれた。サスキアもお茶の用意をして待っているぞ?」
プリシラは感謝の言葉をのべてから、タップにパルヴィス公爵の回復魔法をしてもらった。
「公爵さま、お身体のおかげんはいかがですか?」
「このところ、とても調子がよいのだ。これもプリシラとタップのおかげだ」
「それはようございました。タップがもうしますには、もう公爵さまに回復魔法は必要ないと、」
「そうか。長い間わしの治療をしてくれた事を感謝する」
「もったいないお言葉です」
「プリシラとタップが来てくれなくなると、妻が寂しがる」
「公爵さま、一つお願いがあるのですが」
プリシラの言葉に、パルヴィス公爵は首をかしげた。
プリシラはタップの背中に乗って空を飛んでいた。プリシラだけではない、プリシラの前にはパルヴィス公爵夫妻が乗っていた。
プリシラはパルヴィス公爵夫妻に提案したのだ。海に沈む夕陽を見に行きませんか、と。
プリシラはパルヴィス公爵夫妻と親しくなって、彼らの言う思い出の場所を聞いていたのだ。パルヴィス公爵夫婦が若い頃所有していた別邸の近くの浜辺だ。
別邸は、パルヴィス公爵の体調が悪化してしまったため、手放してしまったというのだ。
別邸のあった場所は、王都から離れているが、風の霊獣であるタップなら、あっという間に到着できる距離だ。
最初は空を飛ぶ事におっかなびっくりだった公爵夫妻は、子供のように声をあげてはしゃいでいた。
しばらく飛ぶと、はるか先に海が見えた。公爵夫人は少女のように、夫を振り返って言った。
「あなた!見て、海よ!」
「ああ。まさか空から海を見る事ができるとはな」
パルヴィス公爵は、はしゃぐ妻がタップから落っこちないようにしっかりと抱きしめて答えた。
プリシラたちは誰もいない浜辺に降り立った。辺りには波の音と、風にそよぐ木々のざわめきしか聞こえなかった。
プリシラはタップに、隠しの魔法を解いて、毛布を一枚出してもらった。だいぶ日が落ちている。これからどんどん気温が下がるだろう。
パルヴィス公爵は毛布を受け取ってはおると、妻を抱き込んだ。二人は微笑みあってから海を見つめた。
ちょうど夕陽が海に没しようとしていた。辺りは淡いオレンジ色に包まれていた。
プリシラはタップを抱いて、公爵夫妻から少し離れた場所で夕陽を見つめた。公爵夫妻を二人きりにしたかったからだ。
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