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パルヴィス公爵とプリシラ

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 プリシラとタップは、パルヴィス公爵の身体の回復のため、仕事の合間をぬって、公爵の屋敷に通った。

 タップの回復魔法のかいあって、パルヴィス公爵の体調はじょじょに回復していった。土気色だった肌も血色がよくなり、こけ落ちた頬も丸くなっていった。

「本当に何とお礼を言えばいいのかしら。プリシラ、タップ、どうもありがとう」

 パルヴィス公爵夫人は、ベッドの横に座り、夫の手を握りしめて言った。

「奥さま。お礼にはおよびません。私もタップも自分にできる事をしただけです」
「いいや。プリシラ、タップ。わしら夫婦が穏やかに暮らせるのも、そなたたちのおかげだ。心から感謝する。近頃は体調もよいので、仕事を再開しておるのだ」

 パルヴィス公爵はウィード国王の叔父にあたる。本来ならばとても重い責務があるのだろう。プリシラは公爵夫婦の感謝の言葉にいたたまれなくなり、話題を変える事にした。

「ウィード国王はパルヴィス公爵さまを信頼しておられるのですね?」
「うむ、兄である先王が亡くなってから、国王の助けになればと考えている。それに、」
 
 パルヴィス公爵は視線を妻に向けて微笑んでから言葉を続けた。

「わしらには子供がいないから、フレドはわしらにとって息子のような存在なのだ」

 フレドとはウィード国王の事だ。パルヴィス公爵夫婦は柔らかな表情をしていた。パルヴィス公爵は妻に一つうなずいてから、口を開いた。

「わしらには魔力が無かった。だから生まれてくる子供も魔力がなければ辛い思いをするかもしれないと考えてな、子供は作らなかった。だが、先王の息子であるフレドは、魔力を少ししか持っていなかった。先王は激しく落胆し、魔力の強い養子を取るか、息子に魔法石を埋め込むか悩んでいた。わしは兄である先王に激しく反対した。その時はすでに、魔法石を埋め込んだわしの身体にも不調が現れていたのだ。わしは先王に、その前の王である父が作った王家の家訓を変えさせる事にした、いや新たな解釈を付け加えたとでもいうかな。その時は父はすでに亡くなっていたから。王家の中に魔力の少ない者が生まれたら、弱いなりに精進するように。魔力の無い者がうまれたら、別の何かを磨いて精進するように、と。その家訓が功を奏して、大臣たちにフレドを次期国王と認めさせる事ができたのだ」

 パルヴィス公爵の話しを聞いていて、プリシラは胸がズキリとした。もし王家の家訓が、王族だけでなく、貴族の間にまで浸透していれば、プリシラは両親に捨てられなかったかもしれない。

 その考えにいたった途端、それまで押さえ込んでいたプリシラの感情があふれ出した。目からはボロボロと涙がこぼれ落ち、プリシラは焦った。目の前にはパルヴィス公爵夫妻がいるというのに。

 ひざの上に乗っているタップは、プリシラを心配してしきりにプリシラの顔を見上げている。プリシラは大丈夫という意味を込めて、タップの背中を撫でるのが精一杯だった。

 公爵夫人はプリシラに駆け寄ると、プリシラの肩を優しく抱いた。

「プリシラ、どうしたの?」
「も、申し訳ありません、奥さま。取り乱してしまいまして」
「いいのよ?ねぇ、プリシラ。何か悲しい事があったの?」

 公爵夫人の優しい言葉に、プリシラはたまらず口を開いた。

「わ、私、両親に、魔力が少ないと言われて、一族の恥だって言われて、捨てられたんです。だから、もし、王族の家訓が、貴族の中にも浸透していたら、私は捨てられなかったのかなって、」
「まぁ!プリシラのような素敵な女の子を捨てるだなんて。なんてひどい事」

 公爵夫人は、プリシラが泣き止むまで、ずっと抱きしめながら背中をさすってくれた。
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