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パルヴィス公爵

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 プリシラが二の句かつけなくて黙ってしまうと、公爵夫人は苦笑しながら言った。

「ごめんなさいね、プリシラ。せっかくわたくしたちの事を思ってくれたのに。主人はね、もう誰とも会いたくないの。主人の部屋に行けるのはわたくしだけ」

 プリシラは公爵夫人の話しを注意深く聞いていた。どうやら公爵の容態はとても悪いようだ。そして、プリシラは理解した。公爵夫人は一人で公爵を看取ろうとしているのだ。

 公爵夫人の望みは、公爵の病の完治ではない。公爵が苦痛なく天寿をまっとうする事を願っているのだ。

 プリシラは公爵夫人の笑顔をジッと見つめた。彼女は慈愛のこもった笑みを浮かべている。すべてを受け入れた表情だ。プリシラは諦める事ができず、なおも食い下がった。

「奥さま。わたくしの相棒のタップは、高貴な霊獣です。タップなら、公爵さまをお救いする事ができるかもしれません。どうか、わたくしとタップを公爵さまに会わせていただけませんか?」
「まぁ、その子は霊獣なの?なんて可愛らしいの?」

 公爵夫人は少女のように顔をほころばせてから、思慮深い表情になって答えた。

「ありがとう。プリシラ、タップ。だけどこれは主人とわたくしで決めた事なのです」

 公爵夫人は覚悟の笑顔を浮かべた後、ふと眉根にシワをよせ、ひじ掛けにもたれかかってしまった。

「奥さま!」

 プリシラは慌てて公爵夫人に駆け寄った。公爵夫人の顔を見ると、真っ青だった。プリシラは大声で人を呼んだ。メイドたちが何事かと、ドヤドヤと室内に駆け込んできた。

「キャァ!奥さま!」

 二人の若いメイドは、キャアキャアと叫ぶばかりで役に立たない。プリシラはメイドたちに厳しい声で言った。

「私が奥さまを運びます。奥さまの寝室に案内してください」

 プリシラは細心の注意をはらいながら、公爵夫人に浮遊魔法をかけた。公爵夫人はフワリと身体を浮かせた。メイドたちが再びキャァキャァ言っているのを、プリシラは再度厳しくせかした。

 公爵夫人の寝室に到着すると、プリシラは細心の注意を払って、彼女をベッドに寝かせた。プリシラは抱いていたタップをちょこんと夫人の枕元に乗せた。

「タップ」
『おう、任せろ』

 タップはピンク色の鼻で、夫人の頬をツンとつついた。

『このばばぁは心配ねぇよ。疲労と不眠がたたったんだろう』

 タップは公爵夫人に回復魔法をしてくれた。プリシラはタップに礼を言ってから、ホッとした表情の二人のメイドを見た。一人は三十代くらいのメイドで、もう一人は二十代くらいに見える。

 プリシラは三十代のメイドに夫人の介抱を任せると、二十代のメイドに声をかけた。

「ちょっとお話を聞いてもいいですか?」
「はぁい、何でしょう?」

 ありがたい事に、このメイドは口が軽そうだ。プリシラは若いメイドに公爵の事を聞き出そうとした。最初はしぶっていたメイドだが、元々話し好きなようで、しまいにはぺちゃくちゃと話してくれた。

「旦那さまは寡黙でしたが、私たちメイドにもよくしてくださいました。だけどやっぱり奥さまがすごくよい方で、私たちメイドを大事にしてくださるんですよ?」

 若いメイドはちょくちょく話が脱線する。プリシラはうんうんと話しを聞きながら、何度も方向修正をした。


 
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