最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

トビーの冒険6

　トビーは空を飛んでいた。だが自身の風魔法ではない。職場の後輩であるプリシラの契約霊獣タップの背中に乗っているのだ。

　タップは牛よりも巨大な大きさになって、トビーとゴンザ、そしてプリシラを乗せて飛んでいるのだ。

　タップの背中はふわふわして、乗り心地が良かった。トビーは叔母のマージが作ってくれたチキンソテーの入ったサンドイッチをかじっていた。

　マージが急いで作ってくれたのだ。ゴンザは血を作るために食事が必要だ。だがゴンザは、空を飛ぶ事が怖いようで、先ほどからトビーの腰にしがみついて震えている。

　トビーは空を飛ぶ事が日常だから、恐怖を感じないが、初めて空を飛ぶ者にとっては恐怖らしい。

　ゴンザの後ろには、プリシラが乗っていて、ゴンザが落ちないように支えている。

　トビーはため息をついてからゴンザに言った。

「ゴンザのおっちゃん。ちゃんとサンドイッチを食べろよ。元気になれないぞ？」
「ああ、そう思うんだが。なんせ空を飛ぶのは初めてでな。食べ物がのどを通らないんだ」
「ゴンザさん。飛ぶ速度を落としましょうか？」

　心配したプリシラが提案するが、ゴンザはかたくなだった。

「いや、お願いです。このまま飛んでください」

　短い会話で、ゴンザは落ち着いたらしく、抱きしめているトビーに話しかけた。

「トビー。トビーのお父さんも配達の仕事をしているのかい？さっきは会社にいなかったけど」
「俺、父ちゃんいない。俺が生まれてすぐ死んだんだって」
「・・・。それはすまなかった。言いづらい事を言わせてしまったな。だけどトビーには、優しいお母さんと美人なお姉さんがいるものな？」
「マージおばちゃんは、俺の死んだ母ちゃんの姉だ。プリシラは会社の従業員だよ」

　トビーを抱きしめているゴンザの身体がこわばった。きっとトビーを傷つけたと思ったのだろう。トビーは自分の腰に回されているゴンザの手をポンポンを叩いて言った。

「大丈夫、ゴンザのおっちゃん。俺気にしてない」
「・・・、トビー。だけどな、君のおばさんと、このお嬢さんは心からトビーの事を大切に思ってくれているんだぞ？」

　そうなのだろうか。そうだったらいいな、とトビーは思った。叔母のマージは、一人ぼっちになってしまったトビーを引き取ってくれた。

　トビーが一人になっても働けるように、仕事まで用意してくれた。トビーはマージにとても感謝している。トビーは大きくなったらマージにたくさん恩返ししたいと考えている。

　プリシラは零細企業のマージ運送会社に入ってくれた従業員だ。プリシラと出会ってまだ日は浅いが、トビーはプリシラが大好きになった。

　優しくて、トビーの事をとても可愛がってくれる。それに、プリシラはトビーの風魔法の先生なのだ。トビーはプリシラの事をとても尊敬している。

　ゴンザの後ろにいるプリシラがトビーに声をかけた。

「私もゴンザさんの言う通りだと思う。マージさんは、トビーの事を本当の子供のように可愛いと思っているわ。それにね、私はお姉ちゃんしか家族がいないから、トビーが弟だったらとっても嬉しいわ」

　プリシラのあたたかな言葉に、トビーはドキリとした。プリシラがトビーの姉になってくれる。トビーはとても嬉しくなった。

「仕方ねぇなぁ。プリシラは危なっかしいから、俺が弟になって守ってやる」
「うふふ。ありがとう、トビー」

　トビーを抱きしめているゴンザが、大きな手でトビーの頭を撫でてくれた。

「良かったなぁ。トビー」

　トビーは何だか恥ずかしくなって、フンッと鼻を鳴らした。