上 下
64 / 175

ドリスの覚悟

しおりを挟む
 連合軍のリーダーリリアの降伏により、ウィード国軍は勝利した。ドリスはプリシラとタップの力を借りながら、エルフのリーダーリリアと対話をした。

「ドワーフとエルフの森を略奪しようとして、すまなかった。森を手に入れようとしたのは、わたくしのお父さまのさしがねだ。わたくしはこれからお父さまに、この森から無条件で軍を撤退させ、二度とこの森はおかさないようにと嘆願書にしたためる。お父さまさらの返事が来るまで待ってはくれぬか?」
〔このつり目女のおやじがお前たちの森を奪おうとした張本人だ。つり目女はおやじに、森から手を引けと手紙を書く。返事が来るまで待ってろ〕

 クサリに巻かれたエルフのリリアは、渋面を作りながら言った。

〔信じて待てだと?もし貴様の父親が、我らの森への進軍をやめない場合、貴様はどうするのだ?〕
『エルフの姉ちゃんが、つり目の手紙をおやじが握りつぶしたらどうすんだと聞いてる』

 プリシラはタップからの伝言を、ドリスに伝えた。ドリスは、うむとうなずいてから答えた。

「その時は、わたくしは自らの命をたとう。わたくしの命一つで腹もおさまらないだろうが勘弁してくれ。わたくしは自らの命をかけてお父さまを説得する」

 ドリスの言葉にプリシラは悲鳴をあげた。

「ドリスさま!それはなりません!自らのお命をたつなど!」
 
 ドリスはプリシラに向き直ると、優しげな笑顔で答えた。

「もし、お父さまがわたくしの願いを聞き入れなければ、その時初めて家族を失ったドワーフとエルフの気持ちがわかるであろう。プリシラ、お前は優秀な配達屋だとチコから聞いている。荷物だけではなく、贈った者の心も届けていると。ならばわたくしの心をお父さまに届けてはくれぬか?わたくしの本心がお父さまに届けば、きっとこの森は本来の持ち主に返されるだろう」

 ドリスの決心に、プリシラは片膝をついて深く頭を下げた。

「ドリス王女さま。その仕事、心してお受けいたします」

 プリシラはドリスのしたためた書状を手に、タップに乗って一路王都に飛び立った。

 一平民のプリシラの言葉を、一国の王が聞き入れてもらえるなど、到底思えない。だがプリシラはやらなければいけないのだ。

 プリシラの不安な気持ちが、契約霊獣のタップに伝わったのだろう。

『プリシラ。大丈夫か?』
「うん、タップ。大丈夫とは言いがたいかな?私の行動によって、ドワーフさんとエルフさんの人生も変わってしまうかもしれない。ドリスさまのお命も危うくなってしまうかもしれない」
『なぁに、心配すんな。つり目のおやじが言う事聞かなければ、俺がボコボコにしてやるから』
「うぅん。王さまにそんな事したらまずいかなぁ?」
『なぁ、プリシラ。俺は霊獣だから、よくわからねぇんだがよ。プリシラもつり目のおやじも同じ人間なんだろ?何でプリシラはつり目のおやじをそんなに怖がるんだ?』
「だって、それは、」

 プリシラは言葉を続けようと思ってから、再び口を閉じた。

 プリシラとウィード国王は、平民と王族。プリシラと国王には天と地ほどの差があるのだ。

 だがタップの言っている事ももっともだ。国王はプリシラと同じ人間なのだ。プリシラの不安は少しだけおさまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~

白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。 最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。 しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。 競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。 それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。 あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……? ※他サイトでも掲載中です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

処理中です...