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交渉
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プリシラが泣きながらドワーフのとなりにしゃがみ込むと、ドワーフは驚いた顔をしてタップに何か言った。
〔霊獣よ、人間の娘はなぜ泣いているのだ?〕
〔おっさんの息子が死んで、エルフの姉ちゃんの弟が死んだと聞いたら泣き出した。自分の姉が死んだらと考えて悲しいんだと〕
〔・・・。そうか〕
ドワーフはタップと二、三会話してから、エルフの女性に向かって口を開いた。
〔リリア。最初はわしもお前と同じ思いだった。だが、この人間の娘に出会って考えが変わったのだ。わしは人間どもの捕虜になり、剣で斬り殺されるところだった。わしは死など恐れなかった。わしと息子が死んで、残った妻と娘が奮起して、人間を皆殺しにすればいいと考えていた。だが、そんなわしを、この娘が身をていして助けたのだ。自分の命を投げ出してまで〕
〔・・・。なぜ、敵である人間の娘が貴様を助けたのだ?〕
〔人間の娘は、わしが死んだら家族と友が悲しむと言ったのだ。わしはその時思ったのだ。当初の志しは、わしらの森を守る事だった。だが家族や仲間が殺され、目的が変わってしまったのではないか。愛する者を奪った人間が憎い。人間に復讐しなければ、と。なぁ、リリア。お前の弟は、心優しい男だったな?〕
〔・・・。ああ、この森を愛し、森に住むすべての生き物を愛していた。だからトラムは、この森を守るために立ち上がったのだ〕
〔ああ、わしの息子もそうだ。自分が生まれ育った森をとても愛していた。なぁ、リリア。わしらが、わしらの子供たちが、生きてこの森でこれからも暮らしていけるのなら、人間たちの提案を受け入れてみてはどうだろうか〕
エルフの女性は、ドワーフの説得に心がゆれているようだ。ドワーフはタップに何か言った。タップはプリシラを見上げて言った。
『なぁ、プリシラ。エルフの姉ちゃんに何か言いたい事あるか?』
「タップ、通訳してくれるの?」
『おお、任しとけ!』
プリシラはタップに礼を言ってから、エルフの女性に向きなおって口を開いた。
「エルフさん。貴女の弟さんを死なせてしまって、本当にごめんなさい。謝ってすむ事ではないのは理解しています。私にも姉がいます。私の唯一の家族です。もし姉が殺されてしまったら、私は悲しくて、頭がどうにかなってしまうと思います。だけど、私は思うんです。もし姉ではなくて、私が誰かに殺されてしまったら、と。姉は悲しみのあまり、私を殺した相手を殺そうとするでしょう。でも、私の望みは仇をうってもらう事ではありません。私は姉に幸せに生きてもらいたいのです。私が死んで、嘆き悲しんでくれるのは、嬉しくて悲しい。姉がそれだけ私の事を愛してくれている証拠だから。私が死んだら、涙を流して愛していると言ってくれるだけで充分なんです。エルフさんが弟さんを亡くして悲しいのも、ドワーフさんが息子さんを亡くして悲しいのも、それは弟さんと息子さんが貴方たちをとても愛しているからなのだと思います。だから、弟さんと息子さんは、貴方たちが幸せになる事を望んでいるのだと思います」
〔エルフの姉ちゃん。あんたの弟を人間が殺してしまって悪かった。謝ってすむ事じゃねぇけどよ。プリシラにも姉がいる。悪魔みえてぇに怖ぇ魔女だ。そいつが殺されたら、プリシラは気が狂うほど悲しい。だけどもし、プリシラが誰かに殺されたら。まぁ、プリシラはこの俺が守るから死なせねぇけどよ。例えばの話し、プリシラが殺されたら、悪魔姉ちゃんは、プリシラを殺した相手を八つ裂きにするだろう。だけどプリシラはそれを望んでなんかいねぇ。悪魔姉ちゃんに幸せになってほしいんだと。エルフの姉ちゃんとドワーフのおっさんが、弟と息子の死を悲しむのは、それだけ弟と息子があんたたちを愛しているからなんだ。だから、あんたたちは幸せにならなきゃいけねぇんだと。どうだ!俺の契約者はすげぇ奴だろ?!〕
タップはプリシラの言葉を通訳してくれたようだ。エルフの女性は困惑したようにプリシラを見つめて言った。
〔人間の娘。なぜ、他種族である我らに心をかける?〕
プリシラは腕の中のタップを見た。タップが通訳してくれる。
『プリシラはなぜ、ドワーフとエルフの事を心配するのかって?』
プリシラは不思議に思ってエルフの女性を見つめて答えた。
「当然ですよ。だって私たちは、愛する家族と友達がいます。ドワーフさんとエルフさんにも愛する人たちがいます。私たちは同じ心を持っています。私たちはきっと、心を通わせる事ができます」
プリシラは確信を持って断言した。息子を失って嘆き悲しむドワーフ。弟を失って復讐に燃えるエルフ。愛する者を失って悲しみ、いきどおる心は人間と同じだ。だから人間とドワーフとエルフは分かり合えるはずだ。
『当たり前だ。人間にも愛する家族と友達がいる。お前たちにだっているだろ?だから分かり合える』
美しいエルフの顔が歪んだ。宝石のような青い瞳からポロポロと涙がこぼれた。
〔我々の負けだ。降伏する〕
〔霊獣よ、人間の娘はなぜ泣いているのだ?〕
〔おっさんの息子が死んで、エルフの姉ちゃんの弟が死んだと聞いたら泣き出した。自分の姉が死んだらと考えて悲しいんだと〕
〔・・・。そうか〕
ドワーフはタップと二、三会話してから、エルフの女性に向かって口を開いた。
〔リリア。最初はわしもお前と同じ思いだった。だが、この人間の娘に出会って考えが変わったのだ。わしは人間どもの捕虜になり、剣で斬り殺されるところだった。わしは死など恐れなかった。わしと息子が死んで、残った妻と娘が奮起して、人間を皆殺しにすればいいと考えていた。だが、そんなわしを、この娘が身をていして助けたのだ。自分の命を投げ出してまで〕
〔・・・。なぜ、敵である人間の娘が貴様を助けたのだ?〕
〔人間の娘は、わしが死んだら家族と友が悲しむと言ったのだ。わしはその時思ったのだ。当初の志しは、わしらの森を守る事だった。だが家族や仲間が殺され、目的が変わってしまったのではないか。愛する者を奪った人間が憎い。人間に復讐しなければ、と。なぁ、リリア。お前の弟は、心優しい男だったな?〕
〔・・・。ああ、この森を愛し、森に住むすべての生き物を愛していた。だからトラムは、この森を守るために立ち上がったのだ〕
〔ああ、わしの息子もそうだ。自分が生まれ育った森をとても愛していた。なぁ、リリア。わしらが、わしらの子供たちが、生きてこの森でこれからも暮らしていけるのなら、人間たちの提案を受け入れてみてはどうだろうか〕
エルフの女性は、ドワーフの説得に心がゆれているようだ。ドワーフはタップに何か言った。タップはプリシラを見上げて言った。
『なぁ、プリシラ。エルフの姉ちゃんに何か言いたい事あるか?』
「タップ、通訳してくれるの?」
『おお、任しとけ!』
プリシラはタップに礼を言ってから、エルフの女性に向きなおって口を開いた。
「エルフさん。貴女の弟さんを死なせてしまって、本当にごめんなさい。謝ってすむ事ではないのは理解しています。私にも姉がいます。私の唯一の家族です。もし姉が殺されてしまったら、私は悲しくて、頭がどうにかなってしまうと思います。だけど、私は思うんです。もし姉ではなくて、私が誰かに殺されてしまったら、と。姉は悲しみのあまり、私を殺した相手を殺そうとするでしょう。でも、私の望みは仇をうってもらう事ではありません。私は姉に幸せに生きてもらいたいのです。私が死んで、嘆き悲しんでくれるのは、嬉しくて悲しい。姉がそれだけ私の事を愛してくれている証拠だから。私が死んだら、涙を流して愛していると言ってくれるだけで充分なんです。エルフさんが弟さんを亡くして悲しいのも、ドワーフさんが息子さんを亡くして悲しいのも、それは弟さんと息子さんが貴方たちをとても愛しているからなのだと思います。だから、弟さんと息子さんは、貴方たちが幸せになる事を望んでいるのだと思います」
〔エルフの姉ちゃん。あんたの弟を人間が殺してしまって悪かった。謝ってすむ事じゃねぇけどよ。プリシラにも姉がいる。悪魔みえてぇに怖ぇ魔女だ。そいつが殺されたら、プリシラは気が狂うほど悲しい。だけどもし、プリシラが誰かに殺されたら。まぁ、プリシラはこの俺が守るから死なせねぇけどよ。例えばの話し、プリシラが殺されたら、悪魔姉ちゃんは、プリシラを殺した相手を八つ裂きにするだろう。だけどプリシラはそれを望んでなんかいねぇ。悪魔姉ちゃんに幸せになってほしいんだと。エルフの姉ちゃんとドワーフのおっさんが、弟と息子の死を悲しむのは、それだけ弟と息子があんたたちを愛しているからなんだ。だから、あんたたちは幸せにならなきゃいけねぇんだと。どうだ!俺の契約者はすげぇ奴だろ?!〕
タップはプリシラの言葉を通訳してくれたようだ。エルフの女性は困惑したようにプリシラを見つめて言った。
〔人間の娘。なぜ、他種族である我らに心をかける?〕
プリシラは腕の中のタップを見た。タップが通訳してくれる。
『プリシラはなぜ、ドワーフとエルフの事を心配するのかって?』
プリシラは不思議に思ってエルフの女性を見つめて答えた。
「当然ですよ。だって私たちは、愛する家族と友達がいます。ドワーフさんとエルフさんにも愛する人たちがいます。私たちは同じ心を持っています。私たちはきっと、心を通わせる事ができます」
プリシラは確信を持って断言した。息子を失って嘆き悲しむドワーフ。弟を失って復讐に燃えるエルフ。愛する者を失って悲しみ、いきどおる心は人間と同じだ。だから人間とドワーフとエルフは分かり合えるはずだ。
『当たり前だ。人間にも愛する家族と友達がいる。お前たちにだっているだろ?だから分かり合える』
美しいエルフの顔が歪んだ。宝石のような青い瞳からポロポロと涙がこぼれた。
〔我々の負けだ。降伏する〕
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