上 下
46 / 175

依頼人

しおりを挟む
 チコの急な依頼発言に、プリシラたちが困惑していると、テーブルの前にローブをまぶかにかぶった人物があらわれた。その人物は、プリシラたちのテーブルにバンッと大きく手をついて叫んだ。

「チコ!よくもわたくしを散々待たせたな!」

 プリシラたちが驚いて身体を固くしていると、チコはうっとうしそうにフードの人物をにらんで言った。

「うるさいわね。友達との時間を優先させなさいよ。ドリス」
「うぬぬ。紹介料をふんだくっておいてその言い草!チコ、不敬であるぞ!」

 どうやらこのフードの人物が、プリシラとタップの依頼人らしい。プリシラは立ち上がってドリスと呼ばれた人物に座るよう促してから口を開いた。

「お客さま、お待たせして申し訳ありません。チコが申していたのがわたくしどもです。わたくしどもがお客さまを現地にお連れいたします」

 ドリスはプリシラの席にドカリと腰を下ろすと、プリシラのへりくだった態度にやっと溜飲がさがったのか、横柄な態度で答えた。

「うむ、少しは話しのわかるやつだの。わたくしは急いでいる。これから出発しなさい」

 ドリスの発言にプリシラは困ってしまった。プリシラは今夜、マージたちに友達と夕食をとるとだけ伝えていた。これから人を連れて遠くまで飛んでいては帰りが遅くなってしまう。

 プリシラが困っていると、今度はチコが勢いよく立ち上がり、テーブルをドンと叩いた。

「ちょっと、ドリス!私の友達に何て口の聞き方するのよ!それにプリシラにも都合ってものがあるんだから、また後日にしなさいよ!」
「何だと?!人を一週間も待たせて、まだ待てというのか!そもそもチコ、お前の態度が悪いのだ。わたくしはとても高貴な家柄なのだ。この者の態度が正しいのだ」
「はん!ならどこのご令嬢か言ってみなさいよ!どうせどこかの没落貴族の出戻り令嬢なんでしょ?」
「ぐぬぬ。言わせておけば、ぬけぬけと。本来ならば手打ちにしてくれるところだが、わたくしは心が広いのだ。すぐさま出発すればお前の無礼は水に流してやろう」

 チコとドリスのやり取りに、プリシラはだんだん嫌な予感がしてきた。ドリスという女性の態度。命令しなれている不遜な態度からして、どうやら良いところ令嬢のようだ。しかもこの場では身分を明かせないときている。

 プリシラは仕方なく、マージの会社までの同行を提案した。マージに事情を話しておけば心配させないと考えたからだ。

 依頼人はプリシラの提案を受け入れてくれた。プリシラはタップに大きくなってもらうと、タップの背中にまたがり、依頼人に手を差し伸べる。彼女の細い右手を掴むと、勢いよくタップの背中に引っ張りあげた。

 プリシラは依頼人を背後から抱きしめるように固定すると、彼女の腰の細さが際立っていた。

 チコとサラはしきりにプリシラとタップの心配をしていた。チコは依頼人をキッとにらんで言った。

「ドリス、いい事?絶対にプリシラとタップを無事に帰すのよ?変な事に巻き込んだら承知しないからね」

 チコの剣幕を、ドリスはフンと鼻息一つで無視した。横にいたサラも依頼人をにらんで言った。

「私も同じ意見です。貴女が何をしようと勝手ですが、プリシラとタップの安全を最優先に行動してください。さもないと私たちも黙っていませんよ?」

 プリシラは少し驚いた。いつも冷静なサラが依頼人を警戒して怒っているのだ。

「ああ、うるさいのぉ!わかっておる。わたくしが目的地に着いたら、プリシラたちはすぐに解放しよう」

 依頼人はお手上げだといいたげに、両手をあげて答えた。プリシラは苦笑してから友人たちに言った。

「チコ、プッチ、サラ、ティア。私たちは大丈夫よ?じゃあ、またね?」

 プリシラはあいさつを終えると、タップに合図して上空に飛び上がった。

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...