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プリシラの恋愛
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プリシラはリベリオの屋敷からの帰り道、大きくなった霊獣のタップの背中に乗りながらひとり言のように言った。
「私もいずれ、イヴァンさまとダニエラさんみたいに燃えるような恋をするのかしら?」
『燃える?火魔法に当たるって事か?』
「燃える、じゃなくて、燃えるような!実際に燃えたら大変じゃない」
プリシラはタップの適当な返事に答えてから考えた。イヴァンの息子リベリオは、とても女遊びが激しいのだという。事実、プリシラもリベリオと出会った当初の頃は、ひたすら歯の浮くようなセリフを並べたてられていた。
貴女は野に咲くバラのように美しい、だとか。貴女の瞳にうつる権利を俺にください、だとか。
だが最近では、リベリオはプリシラにおかしな言動をしなくなった。きっと田舎娘をからかう事に飽きたのだろう。
リベリオはプリシラに伯爵としての不安をもらすようになった。その姿は、誠実な青年としていて、プリシラは好感が持てた。
リベリオはこれまで遊んできた女たちと、本気の恋をした事はなかったのだろうか。本気の恋と偽りの恋はどう違うのだろうか。プリシラは恋をした事がなかったので、イヴァンの恋とリベリオの恋の区別がよくわからなかった。
プリシラがぼんやり考えていると、タップが声をかけてきた。
『プリシラが惚れたはれた言う前によぉ、悪魔姉ちゃんを何とかした方がいいんじゃねぇか?』
「何でそこにお姉ちゃんが出てくるのよ?お姉ちゃんは関係ないじゃない」
『大ありだぜ。もしプリシラに男ができてみろ、悪魔姉ちゃん大暴れするぜ?通信魔法具で聞いてみろよ』
タップは姉のエスメラルダに早く連絡を入れろとせっつく。プリシラは仕方なく胸元のサファイアのペンダントに声をかけた。
「ねぇ、お姉ちゃん。今大丈夫?」
「プリシラ。どうしたの?」
「ううん。たいした事じゃないんだけどね?もし私に恋人ができたら、お姉ちゃんどう思うかなって」
エスメラルダの返答に少しの間があったかと思うと、突如大声がした。
「何ですってぇ?!プリシラをたぶらかした男がいるというのね?!どんな男なの!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて。例えばの話しよ?」
「プリシラ。この件はしっかり話しましょう。お姉ちゃん今からそっちに行くわ」
プリシラは焦って、今は空中だと伝えようとしたが、通信は一方的に切られてしまった。
空を飛んでいるタップの目の前に、真っ黒い空間の出入り口が出現した。中からは、優雅な動作で姉のエスメラルダが出てきた。エスメラルダは、まるで地上と同じように、空中を歩いていた。風浮遊魔法だ。プリシラは姉が空間の出入り口から落っこちなくて良かったと安心した。
その直後、エスメラルダの顔を見て悲鳴をあげた。
「ひぇぇ、お姉ちゃん。顔に血が!ケガしたの?!」
「大丈夫よプリシラ。これは敵の返り血よ。だけど安心しなさい。敵は虫の息だけど生きているわ。悪い人間でも殺さないでというプリシラのお願いだからね」
プリシラはホッと胸を撫でおろしてから、ポシェットから白いハンカチを出して、美しい姉の頬の返り血をふいて言った。
「お姉ちゃん、ありがとう。私のお願いを聞いてくれて。わがままだって思うけど、だけどお姉ちゃんの身の安全が第一だからね?ケガだけはしないでね?」
エスメラルダは何故か顔を真っ赤にして、ハンカチでふいている手をつかんで答えた。
「だ、大丈夫よ!プリシラのハンカチが汚れちゃうわ?お姉ちゃんはなんたって強いんだから。プリシラは心配しなくていいの」
「うん」
「そ、そうよ。プリシラをかどわかした男の事を言いなさい?どんな男なの?」
「だからぁ、例えばの話しよ。そんな男の人いないわ」
「そんなセリフはね、プリシラが恋人にしてもいいかもという男が現れなければ出ない言葉よ?」
プリシラはギクリとした。何故か脳裏にリベリオの顔が浮かんだ。プリシラはブンブンと顔を振った。プリシラの不審な挙動を見たエスメラルダは怖い顔で言った。
「やっぱり、気になる男ができたのね?どこのどいつよ?プリシラに相応しい男は、お姉ちゃんと互角の強さでないと認めないわよ」
「ちょっと、お姉ちゃん!最強の魔女のお姉ちゃんにかなう男の人なんてそこら辺にいるわけないじゃない!」
「そうよ!だからその男がプリシラに相応しいか、確認させなさい!」
「だから、本当にいないんだってば!」
「本当なの?!毛玉正直に言いなさい?プリシラに悪い虫はついていないの?」
激怒するエスメラルダに対して、タップは嬉しそうにニヤニヤしながら答えた。
『えっへへ。まぁ、そうなんじゃねぇの?』
「ちょっと毛玉!アンタ何笑ってんのよ!何か知ってるんでしょ!白状しなさいよ!」
姉のエスメラルダは霊獣語がわからないので、タップがプイプイ鳴いているだけにしか聞こえないだろう。だがエスメラルダとタップはそれなりに正しい会話ができているようだ。プリシラは姉とタップを会話を聞きながら言った。
「お姉ちゃんとタップは仲良しね?」
エスメラルダはギロリとプリシラをにらみ、タップは一生懸命プリシラを振り向きながら叫んだ。
「仲良くなんかないわよ!」
『仲良くなんかねぇよ!』
二人の言葉は見事にシンクロした。
「私もいずれ、イヴァンさまとダニエラさんみたいに燃えるような恋をするのかしら?」
『燃える?火魔法に当たるって事か?』
「燃える、じゃなくて、燃えるような!実際に燃えたら大変じゃない」
プリシラはタップの適当な返事に答えてから考えた。イヴァンの息子リベリオは、とても女遊びが激しいのだという。事実、プリシラもリベリオと出会った当初の頃は、ひたすら歯の浮くようなセリフを並べたてられていた。
貴女は野に咲くバラのように美しい、だとか。貴女の瞳にうつる権利を俺にください、だとか。
だが最近では、リベリオはプリシラにおかしな言動をしなくなった。きっと田舎娘をからかう事に飽きたのだろう。
リベリオはプリシラに伯爵としての不安をもらすようになった。その姿は、誠実な青年としていて、プリシラは好感が持てた。
リベリオはこれまで遊んできた女たちと、本気の恋をした事はなかったのだろうか。本気の恋と偽りの恋はどう違うのだろうか。プリシラは恋をした事がなかったので、イヴァンの恋とリベリオの恋の区別がよくわからなかった。
プリシラがぼんやり考えていると、タップが声をかけてきた。
『プリシラが惚れたはれた言う前によぉ、悪魔姉ちゃんを何とかした方がいいんじゃねぇか?』
「何でそこにお姉ちゃんが出てくるのよ?お姉ちゃんは関係ないじゃない」
『大ありだぜ。もしプリシラに男ができてみろ、悪魔姉ちゃん大暴れするぜ?通信魔法具で聞いてみろよ』
タップは姉のエスメラルダに早く連絡を入れろとせっつく。プリシラは仕方なく胸元のサファイアのペンダントに声をかけた。
「ねぇ、お姉ちゃん。今大丈夫?」
「プリシラ。どうしたの?」
「ううん。たいした事じゃないんだけどね?もし私に恋人ができたら、お姉ちゃんどう思うかなって」
エスメラルダの返答に少しの間があったかと思うと、突如大声がした。
「何ですってぇ?!プリシラをたぶらかした男がいるというのね?!どんな男なの!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて。例えばの話しよ?」
「プリシラ。この件はしっかり話しましょう。お姉ちゃん今からそっちに行くわ」
プリシラは焦って、今は空中だと伝えようとしたが、通信は一方的に切られてしまった。
空を飛んでいるタップの目の前に、真っ黒い空間の出入り口が出現した。中からは、優雅な動作で姉のエスメラルダが出てきた。エスメラルダは、まるで地上と同じように、空中を歩いていた。風浮遊魔法だ。プリシラは姉が空間の出入り口から落っこちなくて良かったと安心した。
その直後、エスメラルダの顔を見て悲鳴をあげた。
「ひぇぇ、お姉ちゃん。顔に血が!ケガしたの?!」
「大丈夫よプリシラ。これは敵の返り血よ。だけど安心しなさい。敵は虫の息だけど生きているわ。悪い人間でも殺さないでというプリシラのお願いだからね」
プリシラはホッと胸を撫でおろしてから、ポシェットから白いハンカチを出して、美しい姉の頬の返り血をふいて言った。
「お姉ちゃん、ありがとう。私のお願いを聞いてくれて。わがままだって思うけど、だけどお姉ちゃんの身の安全が第一だからね?ケガだけはしないでね?」
エスメラルダは何故か顔を真っ赤にして、ハンカチでふいている手をつかんで答えた。
「だ、大丈夫よ!プリシラのハンカチが汚れちゃうわ?お姉ちゃんはなんたって強いんだから。プリシラは心配しなくていいの」
「うん」
「そ、そうよ。プリシラをかどわかした男の事を言いなさい?どんな男なの?」
「だからぁ、例えばの話しよ。そんな男の人いないわ」
「そんなセリフはね、プリシラが恋人にしてもいいかもという男が現れなければ出ない言葉よ?」
プリシラはギクリとした。何故か脳裏にリベリオの顔が浮かんだ。プリシラはブンブンと顔を振った。プリシラの不審な挙動を見たエスメラルダは怖い顔で言った。
「やっぱり、気になる男ができたのね?どこのどいつよ?プリシラに相応しい男は、お姉ちゃんと互角の強さでないと認めないわよ」
「ちょっと、お姉ちゃん!最強の魔女のお姉ちゃんにかなう男の人なんてそこら辺にいるわけないじゃない!」
「そうよ!だからその男がプリシラに相応しいか、確認させなさい!」
「だから、本当にいないんだってば!」
「本当なの?!毛玉正直に言いなさい?プリシラに悪い虫はついていないの?」
激怒するエスメラルダに対して、タップは嬉しそうにニヤニヤしながら答えた。
『えっへへ。まぁ、そうなんじゃねぇの?』
「ちょっと毛玉!アンタ何笑ってんのよ!何か知ってるんでしょ!白状しなさいよ!」
姉のエスメラルダは霊獣語がわからないので、タップがプイプイ鳴いているだけにしか聞こえないだろう。だがエスメラルダとタップはそれなりに正しい会話ができているようだ。プリシラは姉とタップを会話を聞きながら言った。
「お姉ちゃんとタップは仲良しね?」
エスメラルダはギロリとプリシラをにらみ、タップは一生懸命プリシラを振り向きながら叫んだ。
「仲良くなんかないわよ!」
『仲良くなんかねぇよ!』
二人の言葉は見事にシンクロした。
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