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リベリオの気持ち

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「はい、デムーロ伯爵さま。今月のお手紙です。お父さまへのお返事は一週間後、私たちが受け取ってお父さまのところに持って行きます」

 プリシラが笑顔で手渡す分厚い手紙を、リベリオは顔をしかめて受け取った。リベリオの父、元デムーロ伯爵は、息子に伯爵の仕事を押し付けて愛する女性のところに行ってしまった。だが月に一回長い長い手紙をリベリオによこしてくる。

 伯爵家の仕事はとどこおりこなくこなせているか。この件はどうなっている。あの件はどうなっている。早急に返事をよこせとうるさい。そんなに伯爵家の仕事が気になるのなら、たまに帰ってきて自分で仕事をすればいいのに。

 リベリオがふてくされた顔をしていると、モルモットを抱いたプリシラは頭を下げて帰ろうとしている。慌てて彼女を呼び止めてお茶に招待した。

 プリシラの来る日は決まっているので、いつも彼女の喜びそうなお菓子と、モルモットの好む果物を用意して待っているのだ。ついでに子憎らしいトビーというガキの土産用の菓子も用意してある。

 父親からの手紙はおっくうだが、こうやって大好きなプリシラと過ごせる機会をもうけられるのは、父親に感謝している。

 プリシラは優雅な仕草で紅茶を一口飲んでから、父親である元デムーロ伯爵の話しをしようとするのを慌てて止める。

「色ボケ親父の話しなんて聞きたくないよ。プリシラ、君の話しが聞きたいな?」
「?。私の話しですか?とりたてて申し上げるような事もありませんが」

 これでは会話が続かない。リベリオは以前から心配していた事があった。プリシラは自らの手で、上得意であった父の依頼を反故にしてしまったのだ。月に数回花を届けるだけで高額の報酬を支払っていたのだ。プリシラは会社の社長に怒られたのではないか心配していたのだ。プリシラは笑って答えた。

「あら、伯爵さま。そんな心配はないですよ?社長のマージさんも、トビーもイヴァンさまとダニエラさんが幸せになってくれてとても喜んでいますよ?」

 リベリオはぼう然として、しばらく口が聞けなかった。なんて善良で商売の下手な人たちなのだろう。これではすぐに会社が潰れてしまわないか心配になる。プリシラは笑顔で言葉を続けた。

「心配いただかなくても大丈夫ですよ?イヴァンさまから伯爵さまへの月一回のお手紙と、伯爵さまからイヴァンさまへのお手紙のお返事を持って行くので、高額な報酬をいただく事になっております。もちろん代金は伯爵さまからいただきます」
「も、もちろんだ!ぜひ払わせてくれ!」

 月二回だけでもいい。プリシラと会えるなら金なんて惜しくない。リベリオはチラリとプリシラをみあげた。プリシラは優しい笑顔を返してくれる。リベリオは彼女の笑顔の美しさにしばしぼんやりしてしまった。

 困った事に、プリシラへの恋心を意識してからというもの、プリシラの事がまともに見れず、会話もろくに続かないのだ。

 自分はプリシラと、以前はどんな風に会話していたのだろうか。会話が続かないのに、プリシラとのお茶会は終わりにしたくない。プリシラは不思議そうにリベリオを見て言った。

「伯爵さま、どうかされたんですか?」
「・・・。その、伯爵っていうのやめてくれよ。俺は好きで伯爵になったわけじゃないんだから。親父のワガママで仕方なくやってるだけなの!」
「はい、リベリオさま」

 プリシラはとびきりの笑顔で微笑んだ。リベリオはぼんやりと彼女を見つめ、つい弱音を吐いてしまった。

「なぁ、プリシラ。俺は伯爵としてこれからやっていけるのかな?」
「はい。リベリオさまは優秀な魔法使いでいらっしゃいます。それに、ご両親からたくさんの愛情を受けて育ちました。愛されて育った方は正しい道に進む道しるべを持っています。リベリオさまならきっと立派な伯爵になられると信じております」

 不思議だ。プリシラのあたたかで優しい言葉が、リベリオのギスギスとした不安な心に染み渡るようだ。

 リベリオは父からの催促の手紙の返事を必ず書くと約束して、次のお茶会の予定日を決めた。


 

 
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