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メイド

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 プリシラとタップは、配達の仕事の合間に時間ができると、デムーロ伯爵の屋敷に向かい、リベリオにメイドの格好に着替えさせてもらい、デムーロ伯爵の妻の部屋の中を捜索した。

 この日リベリオは、ドアの側に立ち、一心不乱に探し物をしているプリシラに話しかけた。

「なぁ、プリシラ。もう諦めたらどうだい?母上は自分が一番だったんだ。父上の事なんて、これっぽっちも愛していなかった。ただ自分のプライドのために生きていたような女なんだよ。俺だって、母上に一度も可愛がられた記憶なんてないしさ」

 プリシラはふと、探し物の手を止めてリベリオを見た。リベリオは小さな子供のような、ふてくされた表情をしていた。プリシラはクスリと笑ってから答えた。

「では、なおのこと証拠を探さなければいけません。リベリオさまのお母さまが、リベリオさまを愛していたという証拠を」
「はあっ?!母上が俺を愛してただって?!そんな事天地がひっくり返ってもありえないね!俺はずっと母上にうとまれて育ったんだ」

 プリシラはそうは思わなかった。デムーロ伯爵の妻は、愛する夫の子供を授かったのだ。我が子の事がどんなに可愛かっただろう。

 だがデムーロ伯爵の妻の愛情は、嫉妬と憎しみとして現れてしまったのだ。これでは誰も幸せにならない。プリシラは気持ちを新たにした。

 プリシラが、どんなものかもわからない証拠探しにほんそうしていると、プリシラの事をチラチラと見てくる一人のメイドがいた。歳の頃は三十代くらいだろうか。プリシラが彼女に視線を向けると、すぐに逃げてしまうのだ。

 プリシラはデムーロ伯爵とリベリオから、妻の部屋に自由に出入りしていい許可を得ている。使用人たちは皆知っているはずたった。

『プリシラ。アイツまたドアの陰から俺たちの事見てるぜ?』

 美しい鏡台の上から、プリシラの仕事を見ていたタップが言った。プリシラは小さくうなずいてから小声で答えた。

「そうね。あの人はきっと私たちに何か言いたいんだわ。今日こそ話しを聞きましょう」

 プリシラは作業に没頭しているように見せかけて、ゆっくりと立ち上がると、素早くきびすを返してドアに走った。それまでプリシラの様子をうかがっていたメイドは、ギョッとした顔になり、慌てて逃げようとした。

「待って!お願い!何か話しがあるんでしょう?」

 メイドはギクリと身体を震わせて止まった。ブツブツと小さく何かを言っている。

「私は何も知りません。私は何も知りません」

 プリシラはブルブル震えているメイドの肩に優しく触れて言った。

「私はデムーロ伯爵さまとリベリオさまからの許可をいただいています。だから何も心配しないで。知っている事を話してくれませんか?」

 メイドはゆっくりとプリシラを振り向いた。その顔は真っ青だった。
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