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デムーロ伯爵の思い
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プリシラとタップは、再びデムーロ伯爵の屋敷でお茶をご馳走になっていた。目的は集金と、デムーロ伯爵に依頼の物を渡すためだ。
デムーロ伯爵は、プリシラにダニエラの日常を聞きたがった。プリシラはできる限りダニエラの近況を話して聞かせた。そして頼まれていたハンカチをポシェットから出した。
ダニエラには、デムーロ伯爵の事を話さず、社長のマージも刺繍のハンカチが欲しいと言っていたので、仕事として依頼したいと話すと、ダニエラはこころよく、無料でハンカチをプレゼントしてくれたのだ。
ハンカチをうやうやしく受け取ったデムーロ伯爵は、息を飲んで固まった。プリシラはデムーロ伯爵の変化に驚いたが黙っていた。
デムーロ伯爵は気を落ち着けてからプリシラに質問した。
「プリシラ、刺繍のがらはそなたが指定したのか?」
「いいえ。刺繍のがらはダニエラさんにお任せしました。どうかしましたか?」
ダニエラが刺繍してくれたハンカチは、水色のハンカチに白いアマリリスが刺繍されていた。
「白いアマリリスはダニエラの好きな花だ。私は昔ダニエラに言ったのだ。二人で暮らしたら、庭に白いアマリリスを植えようと」
もしかするとダニエラは、ハンカチを求めているのは、マージではなくデムーロ伯爵だと気づいて、アマリリスを刺繍してくれたのかもしれない。
プリシラはガマンできずにデムーロ伯爵に言った。
「伯爵さま、恐れながら申し上げます。どうしてダニエラさんと一緒になられないのですか?聞けば奥さまはすでに他界されていると」
デムーロ伯爵は小さくうなってから口を開いた。
「リベリオの奴だな?あのおしゃべりめ。ダニエラとは、別れる時に固く約束したのだ。もう二度と会わないと」
「・・・。それは、亡くなった奥さまを愛しているからという事ですか?」
「愛?私は妻を愛してはいなかった。別れたダニエラの事が頭から離れず、妻には申し訳ない事をしてしまった」
プリシラはデムーロ伯爵の本心が知りたくて、時間をかけて彼の話しを聞き出した。
デムーロ伯爵は次男で、本来ならばデムーロ伯爵家を継がない立場にいた。兄は将来を有望視されていた優秀な魔法使いだった。
その頃のデムーロ伯爵は恋をしていた。屋敷で働いている、美しく優しいメイドのダニエラに。デムーロ伯爵は、伯爵家の将来は兄に任せて、自分は貴族の地位を捨て、ダニエラと平民として暮らす事を望んでいた。
だが兄が事故で死んでしまい、デムーロ伯爵は兄の後を継いで伯爵にならなければならなかった。デムーロ伯爵は泣く泣くダニエラと別れ、兄の婚約者と結婚する事になった。ダニエラは身を引く事に同意し、屋敷を去って行った。
デムーロ伯爵の妻になった女性は、ごう慢でワガママな女性だった。デムーロ伯爵の心の中にはダニエラが居続けているので、妻を愛する事はできなかったが、妻を大切にしようと誓った。
息子のリベリオも生まれ、デムーロ伯爵はそれなりに幸せに暮らしていた。だがある時事件が起きた。デムーロ伯爵が捨てられないでいたダニエラの手紙を妻が見つけてしまったのだ。
プライドの高い妻はこれに激怒した。デムーロ伯爵は、ダニエラとは結婚前に別れてから、一度も会ってはいないと弁解したが、妻の怒りはおさまらなかった。
妻はデムーロ伯爵に辛く当たるようになり、愛していた我が子をうとましがるようになった。デムーロ伯爵家はとても辛い空気に包まれた。
だがその苦しみも終えんを迎えた。妻の死と共に。妻は流行り病にかかり、苦しみながら死んで行った。デムーロ伯爵を呪う言葉を言いながら。
「妻は私を憎悪の眼差しで見ながら言ったのだ。私を永遠に許さないと。私が後添いをもらおうものなら呪ってやると」
デムーロ伯爵は深いため息をはきながら、暗い過去を話してくれた。プリシラは注意深く話しを聞きながら、よく考えて質問した。
「伯爵さまは、奥さまの呪いを恐れているから、ダニエラさんと一緒にならないのですか?」
「いや、そうではない。私は妻に辛い思いをさせてしまった事を後悔しているのだ。妻が不幸のまま亡くなったのに、私だけが幸せになる事など、許されない事だ」
デムーロ伯爵はとても自身に対して厳しい人間のようだ。プリシラは考えた。デムーロ伯爵はそれでいいのかもしれない。だがダニエラはデムーロ伯爵の事をずっと愛しているのだ。プリシラはデムーロ伯爵の妻の気持ちもよく分ったので、つぶやくように言った。
「奥さまは伯爵さまを最期まで愛してらしたのですね」
「妻が私を愛しているだって?!そんなはずはない。妻は私を憎んでいるのだ」
「伯爵さま。私はまだ恋をした事がありません。ですが誰かを愛する気持ちは知っています。私の姉、友達、そして相棒のタップ」
プリシラはひざの上のタップの背中を愛おしげに撫でてから言葉を続けた。
「私は彼らを自分の事以上に愛しています。彼らのためなら自分の命をかけてもいい。奥さまは伯爵さまを心から愛しています。だから、奥さまは伯爵さまが幸せになる事を心の底では望んでいるのです」
デムーロ伯爵はプリシラを見つめ、苦い物が口に入ったような表情になって答えた。
「プリシラ、それは違う。妻は、私を愛してはいない。私の不幸を望んでいるのだ」
「・・・。では、奥さまが伯爵さまを愛している証拠が見つかれば、ダニエラさんと一緒になってくれますか?」
デムーロ伯爵は顔をしかめたまま、勝手にしてくれと小声でつぶやいた。
デムーロ伯爵は、プリシラにダニエラの日常を聞きたがった。プリシラはできる限りダニエラの近況を話して聞かせた。そして頼まれていたハンカチをポシェットから出した。
ダニエラには、デムーロ伯爵の事を話さず、社長のマージも刺繍のハンカチが欲しいと言っていたので、仕事として依頼したいと話すと、ダニエラはこころよく、無料でハンカチをプレゼントしてくれたのだ。
ハンカチをうやうやしく受け取ったデムーロ伯爵は、息を飲んで固まった。プリシラはデムーロ伯爵の変化に驚いたが黙っていた。
デムーロ伯爵は気を落ち着けてからプリシラに質問した。
「プリシラ、刺繍のがらはそなたが指定したのか?」
「いいえ。刺繍のがらはダニエラさんにお任せしました。どうかしましたか?」
ダニエラが刺繍してくれたハンカチは、水色のハンカチに白いアマリリスが刺繍されていた。
「白いアマリリスはダニエラの好きな花だ。私は昔ダニエラに言ったのだ。二人で暮らしたら、庭に白いアマリリスを植えようと」
もしかするとダニエラは、ハンカチを求めているのは、マージではなくデムーロ伯爵だと気づいて、アマリリスを刺繍してくれたのかもしれない。
プリシラはガマンできずにデムーロ伯爵に言った。
「伯爵さま、恐れながら申し上げます。どうしてダニエラさんと一緒になられないのですか?聞けば奥さまはすでに他界されていると」
デムーロ伯爵は小さくうなってから口を開いた。
「リベリオの奴だな?あのおしゃべりめ。ダニエラとは、別れる時に固く約束したのだ。もう二度と会わないと」
「・・・。それは、亡くなった奥さまを愛しているからという事ですか?」
「愛?私は妻を愛してはいなかった。別れたダニエラの事が頭から離れず、妻には申し訳ない事をしてしまった」
プリシラはデムーロ伯爵の本心が知りたくて、時間をかけて彼の話しを聞き出した。
デムーロ伯爵は次男で、本来ならばデムーロ伯爵家を継がない立場にいた。兄は将来を有望視されていた優秀な魔法使いだった。
その頃のデムーロ伯爵は恋をしていた。屋敷で働いている、美しく優しいメイドのダニエラに。デムーロ伯爵は、伯爵家の将来は兄に任せて、自分は貴族の地位を捨て、ダニエラと平民として暮らす事を望んでいた。
だが兄が事故で死んでしまい、デムーロ伯爵は兄の後を継いで伯爵にならなければならなかった。デムーロ伯爵は泣く泣くダニエラと別れ、兄の婚約者と結婚する事になった。ダニエラは身を引く事に同意し、屋敷を去って行った。
デムーロ伯爵の妻になった女性は、ごう慢でワガママな女性だった。デムーロ伯爵の心の中にはダニエラが居続けているので、妻を愛する事はできなかったが、妻を大切にしようと誓った。
息子のリベリオも生まれ、デムーロ伯爵はそれなりに幸せに暮らしていた。だがある時事件が起きた。デムーロ伯爵が捨てられないでいたダニエラの手紙を妻が見つけてしまったのだ。
プライドの高い妻はこれに激怒した。デムーロ伯爵は、ダニエラとは結婚前に別れてから、一度も会ってはいないと弁解したが、妻の怒りはおさまらなかった。
妻はデムーロ伯爵に辛く当たるようになり、愛していた我が子をうとましがるようになった。デムーロ伯爵家はとても辛い空気に包まれた。
だがその苦しみも終えんを迎えた。妻の死と共に。妻は流行り病にかかり、苦しみながら死んで行った。デムーロ伯爵を呪う言葉を言いながら。
「妻は私を憎悪の眼差しで見ながら言ったのだ。私を永遠に許さないと。私が後添いをもらおうものなら呪ってやると」
デムーロ伯爵は深いため息をはきながら、暗い過去を話してくれた。プリシラは注意深く話しを聞きながら、よく考えて質問した。
「伯爵さまは、奥さまの呪いを恐れているから、ダニエラさんと一緒にならないのですか?」
「いや、そうではない。私は妻に辛い思いをさせてしまった事を後悔しているのだ。妻が不幸のまま亡くなったのに、私だけが幸せになる事など、許されない事だ」
デムーロ伯爵はとても自身に対して厳しい人間のようだ。プリシラは考えた。デムーロ伯爵はそれでいいのかもしれない。だがダニエラはデムーロ伯爵の事をずっと愛しているのだ。プリシラはデムーロ伯爵の妻の気持ちもよく分ったので、つぶやくように言った。
「奥さまは伯爵さまを最期まで愛してらしたのですね」
「妻が私を愛しているだって?!そんなはずはない。妻は私を憎んでいるのだ」
「伯爵さま。私はまだ恋をした事がありません。ですが誰かを愛する気持ちは知っています。私の姉、友達、そして相棒のタップ」
プリシラはひざの上のタップの背中を愛おしげに撫でてから言葉を続けた。
「私は彼らを自分の事以上に愛しています。彼らのためなら自分の命をかけてもいい。奥さまは伯爵さまを心から愛しています。だから、奥さまは伯爵さまが幸せになる事を心の底では望んでいるのです」
デムーロ伯爵はプリシラを見つめ、苦い物が口に入ったような表情になって答えた。
「プリシラ、それは違う。妻は、私を愛してはいない。私の不幸を望んでいるのだ」
「・・・。では、奥さまが伯爵さまを愛している証拠が見つかれば、ダニエラさんと一緒になってくれますか?」
デムーロ伯爵は顔をしかめたまま、勝手にしてくれと小声でつぶやいた。
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