最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平

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デムーロ伯爵

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 プリシラとタップが仕事から帰ると、マージに頼まれ事をした。お得意さんの所に集金に行ってほしいというのだ。

 お得意さんとは、ダニエラに花を贈っている貴族の事だ。プリシラはマージに住所を聞くと、タップの背中に乗って貴族の屋敷へと飛んだ。

 そこは王都にある大きな屋敷だった。プリシラはおじけづきながら、屋敷のドアをノックすると、年老いた執事が出て来た。

 プリシラは執事から金を受け取るのかと思っていたら、何と室内に通され、しかもお得意さん本人が直々に支払いをするというのだ。

 タップを抱いたプリシラは、豪華な応接間に通された。フカフカのソファーに座らされ落ち着かなかった。幼い頃のプリシラは、子爵令嬢として豪華な家具を使って生活していた。だが両親に家を追い出されてから、とても質素な学生生活を送っていた。

 そのため豪華な部屋に入ると、ソワソワしてしまうのだ。タップは豪華な部屋が珍しいのか、小さな翼でパタパタと部屋中を飛び回っていた。

『プリシラ!見てみろこれ、面白れぇぞ!りんごやブドウがくっついてらぁ』

 タップは豪華な飾り壺が気に入ったようだ。その壺には鳥や花、果物までがまるで本物のように装飾されていた。おそらくプリシラが一生働いても買えないような高価な品物なのだろう。

 プリシラは、タップが壺を倒してしまうのではないかと気が気ではなかった。案の定タップが壺の周りをパタパタ飛んでいると、モフモフのお尻が壺に当たった。

 壺はグラグラと不安定にゆれたかと思うと、棚からゴロリと落下した。プリシラは慌てて壺に風浮遊魔法を使用した。壺は床に落ちる直前、落下を止めた。

 プリシラがフウッと安どのため息をつくと、ガチャリとドアが開き、五十代くらいの立派な男性が入って来た。彼がお得意さんなのだろう。

 男性は、プリシラが必死に壺を落とさないように空中に浮かせているのを、驚いた顔で見てから、笑って言った。

「ほう、これは魔法なのだな。実に面白い」

 プリシラはお得意さんとの最悪の出会いに冷や汗をかきながら、何とか壺を棚に戻し、タップを呼んで抱っこをすると、男性に向かって深々と頭を下げて言った。

「大切な壺を落としそうになってしまい、大変申し訳ありませんでした。マージ運送会社がまいりましたプリシラと申します」

 男性は軽くうなずくと、プリシラにソファーに腰かけるよううながし、自分も向いのソファーに腰かけてから口を開いた。

「私はこの屋敷の主、デムーロ伯爵だ。今日はトビーではないのだな?」

 プリシラはピシリと身体をこわばらせた。目の前の貴族は何と伯爵だったのだ。元貴族のプリシラであっても、爵位のくらいの高さがどれほど重要なのかわかっていた。

 本来ならばプリシラはデムーロ伯爵と口を聞く事すら許されないのだ。プリシラは返答できずにあぶら汗をダラダラ流していると、デムーロ伯爵は苦笑して、楽にするようにと声をかけてくれた。

 デムーロ伯爵はどうやら気さくな方らしい。プリシラはフウッと小さく息を吐くと、小さな声で答えた。

「申し訳ありません。トビーはまだ仕事に出ておりまして、代わりにわたくしがまいりました。今度からトビーがうかがうようにいたします」
「いや、よいのだ。そなたとトビー、交互に来てもらいたいのだ」

 時を見計らったように、ガチャリと応接間のドアが開き、メイドがうやうやしくお茶のワゴンを押して入って来た。

 どうやらプリシラにお茶をご馳走してくれるようだ。プリシラとしては、お金だけもらって早く帰りたかったのだが、デムーロ伯爵は当然のようにプリシラに紅茶と焼き菓子をすすめた。

 デムーロ伯爵は、なんとタップにもご馳走してくれたのだ。デムーロ伯爵は、腕の中のネズミは何を食べるのか聞いてくれた。

 タップはりんごりんごとうるさい。プリシラは思考がまとまらず、思わずりんごと答えてしまった。デムーロ伯爵はうなずくと、メイドに何事か命じた。しばらくすると、カットされたりんごやナシが豪華な皿に乗せられて運ばれて来た。

 タップは我が物顔でテーブルに飛び乗ると、シャクシャクと嬉しそうにりんごとナシを食べていた。

 プリシラも香り高い紅茶をいただいたが、味がよくわからなかった。

 
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