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お得意さま

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 プリシラとタップは、トビーに連れられて、城下町の花屋に来ていた。店先には色とりどりの花であふれかえっていた。花屋の主人はトビーと顔見知りらしく、気さくに声をかけていた。

「よぉ、トビー。いつものだな?後ろのべっぴんさんは誰だい?」
「おじちゃん、この店で今日一番綺麗な花を一輪くれよ。後ろのは新しい従業員のプリシラだ。新人の面倒を見るのは骨が折れるぜ」
「ガキが何言ってるんだ。べっぴんさん、生意気なガキで大変だろう?」

 花屋の主人は、偉そうなトビーに苦笑してから、プリシラに視線を移した。プリシラはトビーに大変世話になっているのは事実なので、素直に答えた。

「いいえ、トビーは私の頼りになる先輩なんですよ?」

 プリシラの返答に、花屋の主人は驚いた顔をして、トビーは自慢げに鼻の下を人差し指でこすった。

 プリシラは片手にタップを抱っこし、片手には見事な黄色のバラを持ちながらトビーに質問した。

「ねぇ、トビー。このバラをお客さんに届けるの?」
「ああ、マージ運送会社の上得意さんの依頼なんだ。ある人に、週に一回一輪の花を送ってほしいって。会社が始まってすぐのお客さんだから、もう半年くらい続けてる。プリシラとタップもだいぶ仕事に慣れたようだから、そろそろお得意さんの仕事を任せようと思ってな?」

 プリシラはふうんとうなずくと、左手に持った黄色いバラを見つめた。花屋の主人は、バラのトゲを取り、切り口には濡らしたわたを巻き、油紙で包んでくれていた。

 プリシラはタップの背に乗り、トビーから教わった家を目指した。場所は城下町からさほど遠くはなく、タップの飛行魔法ならすぐに到着してしまうような距離だった。

 その家は王都に近い村から少し離れた丘の上にあった。赤い屋根の可愛らしいお家だった。プリシラはタップから降りると、元の大きさに戻ったタップを抱っこして、家のドアをノックした。しばらくして女性の声がして、ドアが開いた。

 そこには四十代くらいの美しい女性がいた。女性は、マージ運送会社の者が来るとわかっていたらしく、驚いた顔で言った。

「まぁ、美しいお嬢さんね。今日はトビーでなないのね?」
「はい、最近マージ運送会社に入りしましたプリシラと申します。これからはトビーと交代でお伺いさせていただきます」

 プリシラが黄色いバラを差し出すと、彼女は花が咲いたように微笑んだ。その笑顔が美しくて、プリシラはしばしぼんやりと彼女の笑顔に見とれていた。

 プリシラは直感した。このバラの贈り主は、彼女にとってとても大切な人なのだと。
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