上 下
13 / 175

プリシラの仕事

しおりを挟む
 プリシラはマージ運送会社に就職した。マージが取り仕切る会社は、社に持ち込まれた品物を、甥のトビーが風魔法で運ぶ。

 時には手紙で、または客が直接依頼に来る。その時は、トビーが依頼者の言う場所まで行って、荷物を取ってくる事もある。

 仕事の中で一番多い依頼が手紙だ。勿論この国には郵便制度がある。だが手紙配達は馬車が行う。届くまではかなりの日数がかかる。

 トビーが空を飛んで手紙を届ければ、それだけ連絡が早くなるのだ。

 マージはプリシラに仕事の内容を説明してくれた。この仕事ならばプリシラとタップで行う事が可能そうだ。プリシラがホッとしていると、マージは真剣な顔で言った。

「プリシラ、タップ。これだけは約束して?私たちの仕事は、お客さんの荷物を届ける事なの。だからね、お客さんにどんなに頼まれても、お客さん自身を運ぶ事は絶対にしないでね?」

 タップが大きくなれば、プリシラ以外の人を乗せる事も可能だ。だがもしも客を乗せて事故でも起こせば、取り返しがつかない。

 プリシラはきもにめいじてうなずいた。

 プリシラはまだ研修期間のため、実際に仕事をする事はない。早々に仕事を終わらせて帰って来たトビーがプリシラにせがむ。

「なぁなぁ、プリシラ。約束だぞ?風魔法教えてくれよぉ」

 プリシラはまとわりつくトビーに苦笑しながら微笑んだ。弟がいたらこんな感じなのだろうか。

「ええ、約束だからね。風魔法、教えてあげる」

 トビーは文字通り、空中に飛び上がって喜んだ。

 プリシラとトビーは会社の外に出た。タップは外に出しているイスの上にちょこんと乗っている。どうやらプリシラの指導を見ようとしているようだ。プリシラは照れ臭い気持ちになりながら指導を始めた。

「トビー。最初に断っておくけど、私の風魔法は独学よ?だから私には合っている学び方でも、トビーには合わないかもしれない。だから参考の一つとして聞いてほしいの」

 トビーは頬を真っ赤にさせてうなずいた。プリシラは苦笑してから、小さな木箱をトビーの足元に置いて言った。

「じゃあトビー。この木箱を風魔法で浮かせてみて?」
「えっ?!俺、空を飛ぶ事はできるけど、物なんて浮かせられないよ」
「そんな事ないわ。トビーはあれだけ自由に空を飛べるんだもの。自分が浮くのと変わらないわ?」

 プリシラは足元の木箱に風魔法をかけると、木箱はフワリと宙に浮いた。トビーは手を叩いて喜んでいた。

 プリシラは小さな頃から独学で風魔法の特訓をしていた。その中で確信めいたものが一つあった。風魔法とは、見えない風を形成し操る事だ。

 プリシラが行ってきる木箱の浮遊魔法は、風魔法で木箱をおおいつくして操っている。

 トビーだとて、無意識に風魔法を自身にまとわせて空を飛んでいるのだ。

 プリシラは手のひらに風魔法を発生させ、トビーにわかりやすいように高速回転をさせた。するとプリシラの手のひらに小さな竜巻が起こった。トビーは興味深げに竜巻にみいっている。

 プリシラは微笑んでからトビーに言った。

「トビー。私が発生させた風魔法と、トビーの飛行魔法、どう違うと思う?」
「ええっと。俺の風魔法は、フワッとしてて。プリシラの風魔法はすごく早くてグルグルしている」

 トビーの擬音だらけの感想に、プリシラはくすりと笑ってから答えた。

「いいえ、トビー。トビーの飛行魔法と私の風魔法に何の違いもないの」
「?。そんなわけないだろう。俺のは空を飛んで、プリシラのは竜巻を発生させてる」
「それは結果が違うだけ。根本の風魔法は同じなの」

 プリシラは、手に発生させた小さな竜巻を木箱に投げた。竜巻は木箱を飲み込みグルグルと回転した。やがて回転がおさまると、フワフワと空中に浮いた。

 トビーはクプリシラの魔法をジッと見つめていた。プリシラは木箱にまとわせていた浮遊魔法を、今度は自分にまとわせた。

 プリシラの身体はフワリと空中に浮いた。トビーは驚きの表情で、プリシラを見上げた。プリシラはトビーを見て微笑んだ。

「ね?風魔法は皆同じなの。トビーは風飛行魔法が得意なんだもの。すぐに上達するわ?」

 トビーは頬をピンク色にさせて大きくうなずいた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

自己肯定感の低い私が結婚したら大きな旦那様に溺愛されています

吉沢 月見
ファンタジー
蒼山の王の娘、リンネット。足の悪い私が姉様たちよりも先に嫁ぐことになりました。夫になった紅山の王のコットは力持ちで、とても優しい。 程なくすると姉様方も結婚が決まり、それぞれが近くのお山に嫁ぐことに・・。私たちの間を手紙が行き交う。 蒼山のきょうだい一覧 第一王女、エリー  第二王女、ベルダ  第三王女、サイカ   第四王女、リンネット  王太子、フレディ

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

処理中です...