俺が初めて好きになったひとは吸血鬼でした

盛平

文字の大きさ
上 下
54 / 82

響の怒り

しおりを挟む
 響は目の前の光景が理解できなかった。大切なジュリアが血まみれになって座りこんでいたからだ。その横には憎っくきエグモントが立っていた。響は怒りのあまり叫んだ。

「貴様ぁ!よくもジュリアを傷つけたな!」

 ジュリアは響を見て叫んだ。

「響!逃げなさい!私は大丈夫だから!」

 怒りで頭に血がのぼった響にはジュリアの声は聞こえていなかった。目の前のエグモントを倒して、ジュリアを助け出す事しか頭になかった。

 響はエグモントに向かって走った。エグモントははりつけた笑みを浮かべて右手を振るような仕草をした。次の瞬間、響は何かによって跳ね飛ばされた。

 響はボールのように何度がリバンドして止まった。何かがおかしい。響はとても小さくなってしまった気がした。

 すぐに起きあがろうとしたのに身体を動かす事ができない。遠くにジュリアが見えた。ジュリアが絶叫した。

「キャァ!響!」

 響はジュリアの側に行きたかった。側に行って大丈夫だと安心させてあげたかった。だが響はジュリアのもとに行けなかった。何故なら響の首は斬られ、頭と胴体が分かれてしまったからだ。

 響の頭部に辰治が近づいて言った。

「響。お前生きているのか?」
「当たり前だろう!辰治!俺の頭をエグモントに投げてくれ!奴の首に噛みついてやる!そのすきにジュリアを連れて逃げてくれ!」
「はぁ?何言ってんだよ響。そんな事できるわけねぇだろ!」
「辰治!お前はジュリアに救われただろ!ジュリアの眷属でもあるはずだ!主人を助けろ!」

 頭部だけの響と辰治がもめていると、ジュリアの鋭い声が聞こえた。

「辰治!響を連れて逃げなさい!」

 辰治はギクリと身体を震わせると、響の胴体を担ぎ上げ、響の頭部をボールのように脇に抱えて走りだした。
  
 響の胴体はバタバタと暴れ、頭部は激しく叫び続けた。

「辰治!バカ!ジュリアの所に戻れ!」
「バカはお前だ響!俺たちが束になったってご主人さまに勝てねぇ。姐さんは大丈夫だ。弱い俺たちが正面からご主人さまに立ち向かったってすぐに殺されるのがオチだ。弱い俺たちがご主人さまと戦うなら頭を使わなければだめだ」

 響は辰治に正論で諭されたが、ジュリアを置いて逃げた自分を許せなかった。何とかして辰治をジュリアの元に向かわせたかった。響は自分の頭を抱えている辰治の手に噛みついた。

「イッテェ!何しやがんだ響!」
「辰治!早く俺の首と胴体をくっつけろ!すぐにジュリアの所に戻る!」

 辰治は舌打ちしてから響の胴体を下ろして頭を持ち上げて言った。

「なんか傷口に砂がついちゃってるけどそのままくっつけていい?」
「嫌だよ!どっかで洗ってくれよ!」
「首だけでしゃべるなよ。気持ち悪いなぁ。平将門かお前は」
「気持ち悪いって何だよ!俺たち仲間だろ?!お前だって首もげたらこうなるよ!」
「俺はそんなになったら死にますぅ!おかしいのは響ですぅ」

 響と響の頭を持ち上げた辰治はくだらない言い合いを続けた。辰治は再び響の胴体を抱え、響の首を持ち水場に急いでくれた。人気のない公園に到着すると、辰治は響の首の傷口を水道で洗ってくれる。辰治はブツブツ文句を言いながらも丁寧に洗ってくれた。

「こんなところ警察に見られたら俺逮捕されちまうよ」
「大丈夫だよ、マジックの練習してるって言えば」
「響、言ったよな。首のまましゃべるなって」

 辰治は響の胴体に首をくっつけてくれた。響は礼を言って両手で首を固定する。深呼吸をして回復を早めた。しばらくしてしっかりと首がつながった。

 響は辰治に振り向いて言った。

「辰治、お前人間の時はヤクザをやっていって言ってたよな?なぁ、そのツテで武器を手に入れられないか?」
「はぁ?俺が組にいたのは三十年前の話しだぞ?」
「武器の隠し場所とか知らないのか?」
「隠し場所って、まさか盗むつもりか?!まてよ、うぅん。まぁ、当てがないでもないか」

 辰治はそう言って一人うなずいた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

『ゴーゴン(仮題)』

名前も知らない兵士
ホラー
 高校卒業後にモデルを目指して上京した私は、芸能事務所が借り上げた1LDKのマンションに居住していた。すでに契約を結び若年で不自由ない住処があるのは恵まれていた。何とか生活が落ち着いて、一年が過ぎた頃だろうか……またアイツがやってきた……  その日、私は頭部にかすかな蠢き(うごめき)を覚えて目を覚ました。 「……やっぱり何か頭の方で動いてる」  モデル業を営む私ことカンダは、頭部に居住する二頭の蛇と生きている。 成長した蛇は私を蝕み、彼らが起きている時、私はどうしようもない衝動に駆られてしまう。 生活に限界を感じ始めた頃、私は同級生と再会する。 同級生の彼は、小学生の時、ソレを見てしまった人だった。 私は今の生活がおびやかされると思い、彼を蛇の餌食にすることに決める。

処理中です...