上 下
40 / 82

辰治の日常

しおりを挟む
 辰治は三日に一度の吸血を行なっているので、基本腹は空かない。だがたまに恋しくなるのだ。人間だった頃の食事が。

 辰治は仕事をして金を稼ぐ事ができないので、無一文だ。人間の食事が食べたい時は、まず淋しそうで人生に疲れている人間を探す。

 夕方の繁華街をうろつけばそんな人間は沢山歩いている。目の前に下を向いて歩いているサラリーマンがいた。五十歳くらいだろうか、スーツはくたびれていて顔色も悪い。

 辰治はこの男に決めた。辰治は男に向かって駆け寄って言った。

「先輩!先輩じゃないっすか?!お久しぶりです!」

 もちろん相手のサラリーマンはけげんな顔をする。辰治とは初対面だからだ。辰治はサラリーマンの目を見て、暗示をかける。

 俺はお前が可愛がっていた元後輩。サラリーマンの顔は途端に笑顔になって言った。

「辰治じゃねぇか!この野郎、ちっとも連絡よこさないで」
「へへ、すみません」
「まぁ、いいや。どうせ腹空いてんだろ?」
「はい!ごちそうになります!」
「たくっ!調子いいんだからよぉ」

 辰治はサラリーマンと一緒に牛丼屋に入った。サラリーマンは辰治に遠慮せずに食え言ってくれるので、牛肉の大盛りに生卵をつけた。

 サラリーマンは牛皿をつまみにビールを飲んで話していた。話しの内容は、会社の上司のグチ、家族が冷たい事への悲哀だった。

 辰治は牛丼を噛み締めながら、うんうんとあいずちをうっていた。サラリーマンは次第に陽気になり、家へ帰って行った。

 辰治は手を振ってサラリーマンを見送った。人間は、心の中にたまっている事を他人に話すだけでも気持ちが楽になるものだ。食事をおごってもらったのだ、これくらいはサービスだ。

 腹もくちたのでねぐらに帰ろうとすると、嫌な事に主人であるエグモントからの呼び出しがあった。

 辰治は舌打ちして足を早めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハッピーガール

床間四郎
ホラー
少女の願いはただひとつ、みんなが幸せになってほしい。しかしこの世界はそこまで単純ではなくて……

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたの願いを叶えましょう

栗須帳(くりす・とばり)
ホラー
謎のお姉さんは、自分のことを悪魔と言った。 お姉さんは俺と契約したいと言った。悪魔との契約と言えば当然、代償は魂だ。 でもお姉さんの契約は少し違った。 何と、魂の分割払いだったのだ。 全7話。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...