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木こりのトグサ
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フィンはユリスを献身的に看病した。ユリスは子供みたいに手がかかったが、フィンはそれを嫌だとは思わなかった。フィンはずっと一人だったから、弟がいたらこんな感じなのかなと思った。
ユリスがうわ言のようにフィンに言った。
「フィン」
「ユリス。目が覚めた?」
「フィン、僕死ぬのかなぁ?」
「大丈夫だよ、ユリス。人間熱が出たくらいじゃ死なないよ。きっと疲れが出たんだ。ゆっくり休めばすぐによくなるよ?」
ユリスは弱々しく微笑んで目を閉じた。しばらくするとスースーと寝息が聞こえた。
「小僧の具合はどうだ?」
フィンが声のした方に振り向くと、この家の主人が立っていた。フィンは立ち上がって礼を言った。
「はい、ありがとうございます。だいぶ良くなりました。ベッドを占領してしまってごめんなさい」
「それは構わない。この小僧は、お前の弟なのか?」
「いえ、兄弟ではありません。ですがそのようなものです」
ひげ面の男はそうか、と答えた。フィンは気になって男に聞いた。
「おじさん。この辺りに山賊が出るんですか?」
ひげ面の男は顔をしかめて答えた。
「ああ、どうやらそうらしいな。山のふもとの村の奴らが騒いでる。木こりの俺には関係ないがな」
「山賊たちはどんな悪事をしているんでふか?」
「ケチな事ばかりだ。村人の畑を荒らしたり、山に入った村人の荷物を奪ったり」
やはり山賊退治の依頼はそんなにたいした事はなさそうだ。フィンがユリスのために選んだ依頼はレベル1の依頼だった。危険度も少ないが依頼料も少ない。普通の冒険者は選ばない依頼だ。新米冒険者のユリスにちょうどいいと思ったのだ。
二日経ちようやくユリスが元気になった。こころよくフィンたちを助けてくれた男はトグサという木こりだった。木を切り、木材でイスやテーブルなどを作って売っているのだそうだ。ユリスはトグサに親切にしてもらった事がよほど嬉しかったらしく、何かお礼がしたいとしきりに話していた。
そんなユリスをトグサは少し迷惑そうにしていた。その事に気づかないユリスはたえずトグサに質問している。
「トグサさんはお一人で暮らしているんですか?」
「ああ」
「だけど家具や食器類が多いですね?」
フィンは気が気ではなかった。ユリスのぶしつけな質問に、トグサはだいぶ気分を害したようだ。だが一人暮らしのトグサの家の中を見回して、確かに家具が多いとフィンも思った。もしかすると家族と死別したのかもしれない。
どうしてもお礼をしないと気が済まないユリスに根負けしたトグサは、ユリスに使わなくなった道具を直してもらう事にした。トグサは作業場にフィンたちを案内してくれた。
作業場には制作途中のテーブルやイスが所せましと置いてあった。家具の一つ一つにせいちな彫刻がほどこしてある。それを見たユリスはきょうたんの声をあげた。
「すごい!こんな美しい家具があるなんて!この彫刻はすべてトグサさんが手がけたのですか?」
興奮して話すユリスに、トグサはぶっきらぼうにそうだと答えた。ユリスは彫刻の彫りあとをなぜながら言った。
「これはとても高価な品物ですね?」
「高価なもんか。町で売れても二束三文だ」
ユリスの言葉にトグサが反論した。ユリスは驚いて言った。
「それはひどい。町の仲買業者は見る目が無いですね」
ユリスはそう言うとポケットから万年筆と便せんを取り出し、スラスラと何か書きつけた。トグサに紙を渡して言った。
「このような素晴らしい家具なら貴族が喜んで高値をつけるでしょう。トグサさんさえよければ、僕の知り合いの家具の仲買人を紹介します。ユリスの紹介といえばすぐにわかります」
突然のユリスの申し出に、トグサはあいまいにうなずいた。トグサはユリスがシュロム国の王子だとは知らない。もしかするとトグサの人生が変わってしまうかもしれない。
ユリスは棚に積んである飾り箱を見て言った。
「この飾り箱も素晴らしい!なんて細かく美しい彫刻だ。貴族の女性たちが血眼になって欲しがるでしょう。これもトグサさんの作品なんですか?」
「いいや。それは息子が作った」
「へえ、お会いしたいなぁ。今はどこに?」
「知らん!」
やはりトグサには家族がいたのだ。だが息子はもうこの家にいないらしい。
ユリスがうわ言のようにフィンに言った。
「フィン」
「ユリス。目が覚めた?」
「フィン、僕死ぬのかなぁ?」
「大丈夫だよ、ユリス。人間熱が出たくらいじゃ死なないよ。きっと疲れが出たんだ。ゆっくり休めばすぐによくなるよ?」
ユリスは弱々しく微笑んで目を閉じた。しばらくするとスースーと寝息が聞こえた。
「小僧の具合はどうだ?」
フィンが声のした方に振り向くと、この家の主人が立っていた。フィンは立ち上がって礼を言った。
「はい、ありがとうございます。だいぶ良くなりました。ベッドを占領してしまってごめんなさい」
「それは構わない。この小僧は、お前の弟なのか?」
「いえ、兄弟ではありません。ですがそのようなものです」
ひげ面の男はそうか、と答えた。フィンは気になって男に聞いた。
「おじさん。この辺りに山賊が出るんですか?」
ひげ面の男は顔をしかめて答えた。
「ああ、どうやらそうらしいな。山のふもとの村の奴らが騒いでる。木こりの俺には関係ないがな」
「山賊たちはどんな悪事をしているんでふか?」
「ケチな事ばかりだ。村人の畑を荒らしたり、山に入った村人の荷物を奪ったり」
やはり山賊退治の依頼はそんなにたいした事はなさそうだ。フィンがユリスのために選んだ依頼はレベル1の依頼だった。危険度も少ないが依頼料も少ない。普通の冒険者は選ばない依頼だ。新米冒険者のユリスにちょうどいいと思ったのだ。
二日経ちようやくユリスが元気になった。こころよくフィンたちを助けてくれた男はトグサという木こりだった。木を切り、木材でイスやテーブルなどを作って売っているのだそうだ。ユリスはトグサに親切にしてもらった事がよほど嬉しかったらしく、何かお礼がしたいとしきりに話していた。
そんなユリスをトグサは少し迷惑そうにしていた。その事に気づかないユリスはたえずトグサに質問している。
「トグサさんはお一人で暮らしているんですか?」
「ああ」
「だけど家具や食器類が多いですね?」
フィンは気が気ではなかった。ユリスのぶしつけな質問に、トグサはだいぶ気分を害したようだ。だが一人暮らしのトグサの家の中を見回して、確かに家具が多いとフィンも思った。もしかすると家族と死別したのかもしれない。
どうしてもお礼をしないと気が済まないユリスに根負けしたトグサは、ユリスに使わなくなった道具を直してもらう事にした。トグサは作業場にフィンたちを案内してくれた。
作業場には制作途中のテーブルやイスが所せましと置いてあった。家具の一つ一つにせいちな彫刻がほどこしてある。それを見たユリスはきょうたんの声をあげた。
「すごい!こんな美しい家具があるなんて!この彫刻はすべてトグサさんが手がけたのですか?」
興奮して話すユリスに、トグサはぶっきらぼうにそうだと答えた。ユリスは彫刻の彫りあとをなぜながら言った。
「これはとても高価な品物ですね?」
「高価なもんか。町で売れても二束三文だ」
ユリスの言葉にトグサが反論した。ユリスは驚いて言った。
「それはひどい。町の仲買業者は見る目が無いですね」
ユリスはそう言うとポケットから万年筆と便せんを取り出し、スラスラと何か書きつけた。トグサに紙を渡して言った。
「このような素晴らしい家具なら貴族が喜んで高値をつけるでしょう。トグサさんさえよければ、僕の知り合いの家具の仲買人を紹介します。ユリスの紹介といえばすぐにわかります」
突然のユリスの申し出に、トグサはあいまいにうなずいた。トグサはユリスがシュロム国の王子だとは知らない。もしかするとトグサの人生が変わってしまうかもしれない。
ユリスは棚に積んである飾り箱を見て言った。
「この飾り箱も素晴らしい!なんて細かく美しい彫刻だ。貴族の女性たちが血眼になって欲しがるでしょう。これもトグサさんの作品なんですか?」
「いいや。それは息子が作った」
「へえ、お会いしたいなぁ。今はどこに?」
「知らん!」
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