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ドミニク

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 武闘大会決勝戦はフィンと青年が勝ち上がった。観覧客たちは大声でまくしたてた。

「必ず勝てよ!ドミニク!テメェに全財産かけたんだからな!」
「そうだドミニク!負けたらしょうちしねぇぞ!」

 ドミニクという名前にフィンは思い当たった。食堂で聞いた名前、ドミニクは強いが決して優勝できない。どういう意味なのだろうか。フィンが考えこんでいると、青年ドミニクがフィンに声をかけた。

「おいガキ!ここは子供の遊び場じゃねぇんだ!早く棄権してママのとこに帰んな!」
「僕は孤児だから母親も帰る場所もないんだ」

 フィンの返す言葉に、ドミニクはこわばった顔をした。きっとフィンに悪い事を言ったと思ったのだろう。ドミニクは見た目よりの優しい男のようだ。フィンはドミニクに言った。

「僕にケガをさせないために言ってくれたんだね?ありがとう。でも僕は一生懸命武闘の練習をしてきた。貴方と戦ってみたいんです」
 
 ドミニクはため息をついてからうなずいた。フィンたちを見ていた受付の男は試合開始を叫んだ。

 フィンとドミニクが構える。フィンは思案した。これまでのドミニクの試合を見て、ドミニクは武闘も強いが何より関節技がすごい。手足を掴まれたら関節技を決められて、負けてしまう。

 フィンは絶対にドミニクに捕まるわけにはいかなかった。フィンは試合開始と同時にドミニクにもうぜんと突進した。ドミニクがフィンの攻撃に備えて構える。

 フィンはドミニクにこぶしが届く距離まで近づいてから、大きくジャンプした。フィンはドミニクを飛び越え、背後に回ると、ドミニクの首に飛びついた。ドミニクの関節技を避けて、締め落とす考えだ。

 フィンがドミニクを締め落とそうとした瞬間、腹に激痛を感じた。ドミニクのヒジがフィンの腹にめり込んだのだ。フィンは痛みのあまり、ドミニクを締め上げていた腕がゆるんだ。

 ドミニクはフィンの腕をつかむと、フィンを背負い投げして、地面に叩きつけた。痛みの衝撃で、フィンはうめいた。ハッと気づくと、ドミニクに右手を取られていた。

 ドミニクの両足がフィンの右腕をはさみこんだ。このままでは腕の関節技をかけられてしまう。フィンはとっさに左手で右手を掴んだ。

 ドミニクは突然フィンの腕を離した。フィンはドミニクから距離を取るため転がり起きた。ドミニクには、前からの攻撃も、後ろからの攻撃も返されてしまう。一体どうすればいいのだろうか。

 フィンは一つの可能性にかけて、ドミニクに向かって走り出した。ドミニクはフィンがどうやって攻撃をしかけるか考えるだろう。正攻法でこぶしとケリでくるか、先ほどのようにジャンプして背後に回るか。

 フィンはドミニクの前に来ると、地面に両手をついて逆立ちした。突然フィンの両足が目の前に来たドミニクは、とっさに横によけた。フィンは逆立ちのままバック転すると、着地したと同時に身体をかがめたまま、低いケリをドミニクにかけた。

 ドミニクはフィンの予想だにしない行動に気を取られ転倒した。フィンはすかさずドミニクに馬乗りになると、こぶしをドミニクの顔に入れた。ドミニクはフィンのこぶしを手で受けた。

「試合終了!フィンの勝ち!」

 突然叫ばれた受付の男の声に、フィンは驚いてしまった。確かにフィンはドミニクより優位な体勢だが、寝技の得意なドミニクにすぐに返されてしまうと思っていた。

 フィンがぼう然としていると、下のドミニクが言った。

「おい、聞こえなかったのか?お前の勝ちだ」
「だって、ドミニク。こんな体勢、すぐに巻き返せるじゃないか?どうして勝負もついてないのに僕の勝ちなのさ?」
「俺はどんな事をしてもこの大会では勝てない」

 フィンはドミニクの言っている言葉の意味はわからなかったが、ドミニクの上からどいた。ドミニクはゆっくりと起き上がると、野次馬の暴言を無視して帰ろうとしていた。フィンはドミニクに言った。

「ドミニク、さっき僕の手の関節を取ろうとした時、何で離したの?あの時関節技を決めていたらドミニクの勝ちだったじゃないか」

 フィンは気づいていたのだ。ドミニクがフィンに手加減をした事を。ドミニクが振り向いてフィンに答えた。

「関節技を外したんじゃねぇよ。お前の手足が短すぎてかけづらかったんだよ」
「短くて悪かったね!これから伸びる予定です!」

 ドミニクは、フンと笑ってから帰って行った。
 

 
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