ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

ソフィア

　ガタゴトと馬車が動くたびにソフィアもゆれている。ソフィアは乗り合い馬車に乗っていた。これから、この馬車で終点まで行った無医村の村に行くためだ。

　ソフィアは薬師だった。ソフィアは植物を育てる土魔法が使えた。その魔法で、ソフィアは薬草を作り出し、病人の治療に使っていた。

　ソフィアが診る病人たちは皆貧しくて、治療代が払えない人たちがほとんどだった。だがソフィアは薬草をすぐに作り出す事ができる。ソフィアは対価を受け取らないで病人の治療をしていた。

　馬車の中にはまばらに乗客がいた。ソフィアの目の前には若いカップルがいた。二人とも十六、七才くらいだろうか。娘は目を見張るような美少女だった。見事な銀髪に、オッドアイの瞳。少年もひかえめだが美しい顔立ちをしていた。娘が少年の腕に自分の腕を絡ませて、甘えるように言った。

「フィン。アタシとっても幸せだわよ」
「ブラン。わかったから腕をはなして？」

　少年は何とか少女の腕をはなそうとしている。少年の座っている横には、何故か鳥かごが置いてあった。鳥かごの中には鳩が一羽止まり木に止まっていた。

　座席のはしっこには母娘が座っている。娘はまだ幼くて、機嫌が悪いらしくぐずっていた。母親が小声であやしている。

　ソフィアの座っている座席のはしには、商人らしき中年の男が座っていた。足元には大きな荷物があった。きっと商品なのだろう。

　お昼時の乗り合い馬車にしては乗客が少ない。何故かというと、ここ最近乗り合い馬車を狙った盗賊が出るのだ。だからこのように馬車に乗る者が少ないのだ。

　だがソフィアは定期的に無医村の村に往診に行っているので、どうしてもこの馬車に乗らなければいけないのだ。どうか何事もなく目的地に着いてほしいと強く願った。

　だがソフィアの願いも虚しく、ガタンと馬車が急停止した。まだ次の停留所でもないのにと、ソフィアが不安そうに馬車の運転手を見ると、運転手は両手を上げて固まっていた。

　そしてガラの悪い男が馬車の中に入って来た。おびえるソフィアたち乗客に、ガラの悪い男はせせら笑うように言った。全員馬車を降りろ、と。

　ソフィアたちが震えながら馬車を降りると、そこにはもう二人、ガラの悪い男たちがいた。ソフィアは恐怖のあまりそっとうしそうになった。間違いない、この三人のガラの悪い男たちは、乗り合い馬車を狙った盗賊だ。

　盗賊たちはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、腰にさげていた剣を抜いてソフィアたちに向けた。ソフィアの横にいた商人風の男がひざをついて叫んだ。

「頼む！金は出すから命だけは助けてくれ！」

　三人の盗賊の中で一番年齢がいっていると思われる男が言った。

「いい心がけだ。お前たち、命がおしければ金目の物をすべて出せ」

　商人の男はふところから金の入った袋を取り出し、盗賊に差し出した。盗賊はニヤリと笑ってから、視線をソフィアに向けた。ソフィアは震える手で、肩にさげているカバンから金の入った麻袋を取り出した。盗賊がそれを受け取って、中身を見る。だがニヤニヤとした気味の悪い笑顔で言った。

「お姉さん、これだけじゃあ足らないなぁ。そうだ、お姉さんは美人だから、お姉さんを売れば大金が入る。それでチャラにしよう」

　ソフィアはブルブルと身体が震えて声も出なかった。頭の中に最悪の未来が浮かぶ、ソフィアは人買いに売られてしまうのかもしれないのだ。

　ソフィアの目からポロポロと涙があふれた。盗賊が手に持った剣を持ちかえて、ソフィアの手を掴もうとしたその時、声がした。

「やめろ！その人に触るな！」

　その声の主は、ソフィアの目の前に座っていた若いカップルの一人の少年だった。