上 下
156 / 298

バレット待機

しおりを挟む
 バレットはドレスのスソをはためかせながら、契約霊獣のパンターに乗り、フィンたちの後を追った。バレットが教わった領主の屋敷にたどり着くと、フィンたちが乗った馬車はすでに屋敷の中に入った後だった。

 バレットとパンターは屋敷の屋根に降り立った。バレットは屋根の上から見渡せる屋敷内を見渡して舌打ちをしてからパンターにたずねた。

「すげぇ強力な結界だ。なぁパンター、破れるか?」
『当たり前だ。結界を破るか?バレット』
「いや、まだだ。フィンからの合図があってからだ」

 バレットは優秀な魔法使いでもあるので、領主の屋敷に強力な結界が張られているのを感知したのだ。この結界内に入るには、結界を発動させている術者が、屋敷内に入る事を許可した者だけだ。

 それに、とバレットは思う。この結界からただよう気配。魔物の魔法。バレットは屋敷内を見下ろしながら、パンターに言った。

「パンター。この結界を張った奴」
『ああ。嫌な臭いがプンプンするぜ、この屋敷の中に魔物がいる。・・・。なぁバレット。なんでそんなヒラヒラ着てるんだ?俺は人間の着るものはよくわからんが、バレットにヒラヒラは似合わないんじゃないか?』
「うるせぇなパンター。俺がどんな服着ようが関係ねぇだろ」
『そうだけどよ。シンシアがヒラヒラ着るなら似合うと思うんだけど、バレットが着ると変な気がするんだよな』

 バレットはもうパンターの言葉は無視する事にした。バレットだとて、このようなヒラヒラで苦しい服を脱いでしまいたい。だが、フィンの合図があったらすぐにフィンの側に行きたいのだ。

 バレットはフィンの事が心配で仕方なかった。バネッサもクララの事が心配でこんな気持ちなのだろうか。バレットがジッと黙っていると、パンターがまた話しかけてきた。

『おいバレット。フィンの合図がくるまでずっとここにいるのか?メシはどうする?』
「ずっとここにいる。メシは食わねぇ」
『なぁバレット。俺は霊獣だからあまりメシを食わなくてもいい。だがバレット、お前は人間だ。ちゃんとメシを食ったほうがいいんじゃないか?』

 バレットはパンターの心配をうるさそうに無視した。バレットにとって食事とは、身体が動かなくならないようにするためのエネルギーでしかない。食事を美味しいと思った事はあまりない。だが、アレックスやリタ、そしてフィンと一緒に食べる食事は美味しいと思う。それは養父のゾラやレオリオやシンシアと食べた食卓を思い出した。

 バレットはフィンの事を思う。霊獣のブランがついてくれているから安全なはずだ。だがどうしても心配してしまう。きっとバネッサも、とらわれている娘たちの家族もこんなに苦しい気持ちなのだろう。

 フィンもクララも。他の娘たちも全員無事に助ける。バレットは心に誓った。ふと思いついて、バレットはパンターに言った。

「パンター。ブランと連絡は取れるか?」

 パンターはしばらく目を閉じてから答えた。

『いいや、ダメだ。この結界が邪魔で連絡できない』

 バレットはそうか、と言って自分の胸元のオニキスのペンダントに触れた。バレットは、フィンの契約霊獣であるブランに通信魔法を持たせている。ブラン、と呼んでみる。だがペンダントから返答はなかった。

 バレットはため息をついてから、ぶるりと身体を震わせた。薄手のドレスで屋根の上にいるから身体が冷えたのだ。それに気づいたパンターがバレットの側に座り込んだ。バレットはパンターにもたれかかり目を閉じた。パンターはとても温かかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

【最強の凸凹魔法士バディ】裏組織魔法士ギルドの渡り鴉~絶対領域と瞬擊の剣姫~

夕姫
ファンタジー
『魔女』それは、この世界に災厄をもたらす存在。ある物語では悪の権化として語られ、また別の物語では人類の守護者として語られることもある。  そしてこの世界における魔女は、前者の方だった。その力は強大で、その昔、国一つを一夜にして滅ぼしたと言われるほどだった。  時は流れ、世界に厄災をもたらすために『魔女』と呼ばれる存在はまた暗躍することになる……。 世に蔓延る悪魔を断罪する特殊悪魔討伐対策組織『レイブン』。そこに在籍する主人公、アデル=バーライト。普段は普通に王立魔法学院に通う学生だ。 そして同じ学院に通う、仕事の相棒の公爵家のお嬢様、あまり感情を表に出さない、淡々としている性格のアリスティア=セブンシーズ。アデルは唯一の身寄りである愛しの妹を養うため、日夜、悪魔を狩っている。 「中に入る前に言っておきます。あなたは守り専門です。前に出ないでください」 「いちいち言わなくてもわかってるよ」 「あとアデル=バーライト。変装か何か知りませんが、その伊達メガネ、ダサいですよ?」 「うるせぇ!余計なお世話だよ!」 そんなやり取りは日常茶飯事。それでもこの二人は若き『レイブン』の魔法士としての実力があったのだ。 悪魔憑きを産み出す魔女『ドール』と呼ばれる人物を狩るため、最強の「剣」と「盾」の魔法士バディが今日も王都を駆け巡る。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜
ファンタジー
第二王子のマリウスが学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付けた相手は人違いだった。では一体自分の婚約者は誰なのか? 困惑するマリウスに「殿下の婚約者は私です」と名乗り出たのは、目も眩まんばかりの美少女ミランダだった。いっぺんに一目惚れしたマリウスは、慌てて婚約破棄を無かったことにしようとするが...

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...