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フィンの潜入
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フィンはグラブの町の三人の娘たちと共に馬車にゆられながら領主の屋敷へ向かった。道すがら、フィンは娘たちの様子をうかがっていた。
娘たちは一様に下を向いていた。きっとこれからどうなるのか不安なのだろう。フィンは小声でブラン、と呼んだ。フィンの手に柔らかな猫の前足が乗っかった。姿隠しの魔法で姿を消したブランだ。ブランは小さな声で答えた。
『大丈夫よ、フィン。側にいるわ』
ブランの存在に、フィンは心があたたかくなるのがわかった。
どれくらい馬車に乗ったのだろうか。ガタンと馬車が大きく揺れてから、停止した。フィンたちは執事に促され、馬車の外に出た。目の前にはとても大きな屋敷がそびえ立っていた。ここが領主の屋敷なのだ。
フィンと三人の娘たちはある部屋に通された。そこには沢山のドレスがかけられている衣装部屋のようだった。その部屋には中年の女性がいて、彼女はフィンたちににこやかに話しかけた。
「さぁお嬢さんたち。ここにあるドレス、どれでも好きなものを着ていいのよ?」
中年女性の言葉に、不安げだった娘たちはキャアッと歓声をあげ、ドレスを選び出した。女の子は皆綺麗なドレスが好きなようだ。フィンがボオッとつっ立っていると、女性が話しかけてきた。
「さぁ貴女はどんなドレスがいいかしら?」
フィンは笑顔を引きつらせながらしどろもどろに言った。
「あ、あの。ぼ、僕じゃなくて私、このドレスか気に入っているんです。母のかたみなので」
フィンがそういうと、中年女性は一瞬悲しそうな顔をしてから笑顔になって言った。
「そうね。そのドレス貴女にとてもよく似合ってる」
フィンはあいまいにうなずいた。フィンがドレスを脱いだら男だという事がばれてしまう。フィンは気を取り直して中年女性に質問した。
「あの、私の友達が一月前にここに来ているはずなんだけど、会えないでしょうか?」
中年女性は心底困った顔をしてから、意を決したように言った。
「お友達の名前は?」
「クララ」
中年女性は三人の娘たちにドレスを選んでいるように言いつけると、フィンをうながして部屋を出た。
フィンは中年女性に連れられてある部屋のドアの前に立った。中年女性は、クララに会ったら先ほどの部屋に戻ってくるようにといいつけて、元の部屋に帰って行った。
フィンはゴクリとツバを飲み込んでからドアを開けた。部屋の中は若い娘たちでごった返していた。娘たちに悲壮感はまるでなく、皆思い思いに好きな事をしていた。本を読んでいる娘、お菓子を食べている娘、友達同士でおしゃべりしている娘たち。フィンは気を取り直して、ドアの側のソファに座り本を読んでいる娘に話しかけた。
「ねぇ。クララに会いたいんだけど」
娘は本から顔をあげて、コクリとうなずいて立ち上がった。そして娘たちがたむろしている中に入って行き、一人の娘を連れてきた。はっきりした顔の美少女だった。バネッサに似ている。彼女がクララなのだろう。クララはフィンの顔を不思議そうに見つめた。フィンはクララに話しかけた。
「君がクララ?」
「?。ええ、そうよ。貴女誰?」
「僕はフィン。君のお姉さんに頼まれたんだ。君を連れて帰ってほしいって」
「お姉ちゃん」
クララの顔が悲しみにゆがんだ。フィンは言葉を続ける。
「クララ。落ち着いて聞いて?このまま君たちがここにいたら危ないんだ。だからここから逃げよう」
だがクララは、フィンの言葉に首をかしげて答えた。
「ここはとってもいい所よ。自分の好きな事、何をしていてもいいの」
フィンは不安になった。クララは死んでしまった娘たちの話を聞いているはずである。それなのに何故こんなにも落ち着いていられるのだろうか。フィンが疑問を口にすると、クララはあっけらかんと答えた。
「あの死んじゃった可哀想な子たちは、有害なガス漏れ事故で死んじゃったんですって。でも管理を徹底したから、もう安心して暮らせるって屋敷の人が言っていたわ」
「ねぇクララ。おかしいと思わない?君たちは何にも働かないで好きな事だけしていて、領主にどんなメリットがあるの?」
「一回だけお勤めをすればいいんたって」
「お勤め?」
「ええ。ここに来た女の子たちは一ヶ月間好きな事をして過ごしてから、その後領主さまの所に行くの。そのお勤めが終わったら家に帰っていいって言われたわ」
「・・・。そのお勤めってどんな事するの?」
「わからないわ。でもそんなに難しくないって」
フィンはますます不安になってクララに聞いた。
「クララたちのお勤めはいつなの?」
「明日よ」
フィンはゴクリとツバを飲み込んだ。おそらくこのままでは明日クララたちは死んでしまうだろう。
娘たちは一様に下を向いていた。きっとこれからどうなるのか不安なのだろう。フィンは小声でブラン、と呼んだ。フィンの手に柔らかな猫の前足が乗っかった。姿隠しの魔法で姿を消したブランだ。ブランは小さな声で答えた。
『大丈夫よ、フィン。側にいるわ』
ブランの存在に、フィンは心があたたかくなるのがわかった。
どれくらい馬車に乗ったのだろうか。ガタンと馬車が大きく揺れてから、停止した。フィンたちは執事に促され、馬車の外に出た。目の前にはとても大きな屋敷がそびえ立っていた。ここが領主の屋敷なのだ。
フィンと三人の娘たちはある部屋に通された。そこには沢山のドレスがかけられている衣装部屋のようだった。その部屋には中年の女性がいて、彼女はフィンたちににこやかに話しかけた。
「さぁお嬢さんたち。ここにあるドレス、どれでも好きなものを着ていいのよ?」
中年女性の言葉に、不安げだった娘たちはキャアッと歓声をあげ、ドレスを選び出した。女の子は皆綺麗なドレスが好きなようだ。フィンがボオッとつっ立っていると、女性が話しかけてきた。
「さぁ貴女はどんなドレスがいいかしら?」
フィンは笑顔を引きつらせながらしどろもどろに言った。
「あ、あの。ぼ、僕じゃなくて私、このドレスか気に入っているんです。母のかたみなので」
フィンがそういうと、中年女性は一瞬悲しそうな顔をしてから笑顔になって言った。
「そうね。そのドレス貴女にとてもよく似合ってる」
フィンはあいまいにうなずいた。フィンがドレスを脱いだら男だという事がばれてしまう。フィンは気を取り直して中年女性に質問した。
「あの、私の友達が一月前にここに来ているはずなんだけど、会えないでしょうか?」
中年女性は心底困った顔をしてから、意を決したように言った。
「お友達の名前は?」
「クララ」
中年女性は三人の娘たちにドレスを選んでいるように言いつけると、フィンをうながして部屋を出た。
フィンは中年女性に連れられてある部屋のドアの前に立った。中年女性は、クララに会ったら先ほどの部屋に戻ってくるようにといいつけて、元の部屋に帰って行った。
フィンはゴクリとツバを飲み込んでからドアを開けた。部屋の中は若い娘たちでごった返していた。娘たちに悲壮感はまるでなく、皆思い思いに好きな事をしていた。本を読んでいる娘、お菓子を食べている娘、友達同士でおしゃべりしている娘たち。フィンは気を取り直して、ドアの側のソファに座り本を読んでいる娘に話しかけた。
「ねぇ。クララに会いたいんだけど」
娘は本から顔をあげて、コクリとうなずいて立ち上がった。そして娘たちがたむろしている中に入って行き、一人の娘を連れてきた。はっきりした顔の美少女だった。バネッサに似ている。彼女がクララなのだろう。クララはフィンの顔を不思議そうに見つめた。フィンはクララに話しかけた。
「君がクララ?」
「?。ええ、そうよ。貴女誰?」
「僕はフィン。君のお姉さんに頼まれたんだ。君を連れて帰ってほしいって」
「お姉ちゃん」
クララの顔が悲しみにゆがんだ。フィンは言葉を続ける。
「クララ。落ち着いて聞いて?このまま君たちがここにいたら危ないんだ。だからここから逃げよう」
だがクララは、フィンの言葉に首をかしげて答えた。
「ここはとってもいい所よ。自分の好きな事、何をしていてもいいの」
フィンは不安になった。クララは死んでしまった娘たちの話を聞いているはずである。それなのに何故こんなにも落ち着いていられるのだろうか。フィンが疑問を口にすると、クララはあっけらかんと答えた。
「あの死んじゃった可哀想な子たちは、有害なガス漏れ事故で死んじゃったんですって。でも管理を徹底したから、もう安心して暮らせるって屋敷の人が言っていたわ」
「ねぇクララ。おかしいと思わない?君たちは何にも働かないで好きな事だけしていて、領主にどんなメリットがあるの?」
「一回だけお勤めをすればいいんたって」
「お勤め?」
「ええ。ここに来た女の子たちは一ヶ月間好きな事をして過ごしてから、その後領主さまの所に行くの。そのお勤めが終わったら家に帰っていいって言われたわ」
「・・・。そのお勤めってどんな事するの?」
「わからないわ。でもそんなに難しくないって」
フィンはますます不安になってクララに聞いた。
「クララたちのお勤めはいつなの?」
「明日よ」
フィンはゴクリとツバを飲み込んだ。おそらくこのままでは明日クララたちは死んでしまうだろう。
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