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ブランとジェシカ

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 フィンたちはカシルの街に帰り着くと、サクマを自宅に送り届け、重い足取りでジェシカの家に戻った。

 ジェシカとネローはフィンたちをあたたかく迎えてくれた。フィンはためらいがちにジェシカに言った。

「ジェシカ。ごめんなさい。依頼されていたフードの男を捕らえられなかった」

 フィンは霊獣ハンターの組織はとても巨大でつかみどころがないものである事、人間が精霊や霊獣に魅了され続けるかぎり、霊獣ハンターの被害はなくならないのではないかと付け加えた。

 ジェシカは大きくうなずいてから、優しい笑顔で答えた。

「そうね。人間は精霊や霊獣の美しさに常に心惑わされるわ。私たちはこれからも霊獣ハンターから霊獣たちを守る活動をして行くわ。そして、私たちは召喚士の学校も改革して行こうと考えているの」
「召喚士養成学校を?」

 ジェシカの言葉に、フィンは驚いて聞いた。ジェシカはうなずいて話を続けた。

「ええ。現在の召喚士養成学校の運営は、営利目的も多分にあるわ。召喚士になる見込みがない生徒でも、親が金持ちというだけで入学させてしまう。金持ちの子供たちは召喚士の夢をいだくけど、召喚士になれなければ怨みをいだくわ。精霊や霊獣にね」
「そうだね。召喚士になれる見込みのない生徒をずっと学校にとどめておくのはよくない事だね、その生徒にとっても。だけど、だけどねジェシカ。僕は思うんだ。召喚士になれなくて、霊獣ハンターになっても、霊獣や精霊を愛しいと思う気持ちはずっと残っているんじゃないかな?」

 フィンの脳裏に、魔物と契約してしまったフアトと、召喚士になれずに死のうとしたザラの顔が浮かんだ。ジェシカは微笑んで答えた。

「そうね、フィン。私もきっとそう思うわ」

 この日フィンたちは早々に休ませてもらった。ベッドに入ってからもフィンは気が重かった。なぜなら明日、ザラに本当の事を話さなければいけないからだ。フィンは深いため息をつきながら目を閉じた。



 白猫の霊獣ブランは、一回転して美少女の姿になると、ようやく霊獣たちの世話を終えてイスにこしかけたジェシカに話しかけた。

「ねぇねぇジェシカ。話があるのさ」

 ブランはジェシカの腕を引っ張って立たせようとする。ジェシカは微笑んで答えた。

「なあにブラン。ここじゃだめなの?」

 ブランは真剣な顔でうなずいた。ジェシカもうなずいてから席を立った。

 ブランとジェシカは外に出た。空には星が輝いていた。以前ブランがネローと話した夜を思い出す。

 ジェシカはブランの肩にブランケットをかけてくれた。そして自分もブランケットをはおる。ジェシカはブランに優しく聞いた。

「ブラン。寒くない?」

 ブランはフルフルと首を振って寒くないと答えた。ブランとジェシカは、年齢的には同い年くらいだ。だけどジェシカはブランの守護者、ホワイトライオンのリアにどこか似ている。優しい声、穏やかなしぐさ。ブランは自分の方が少し年上なのにもかかわらず、ジェシカに甘えていた。

 ジェシカはブランが話し出すまで待ってくれているようだ。ブランは無意識にくちびるをなめてから、話し出した。

「ジェシカはなんでネローに愛してるって言わないのさ?」

 ブランの言葉に、ジェシカは驚いた顔をしてから、優しい笑顔で言った。

「ブラン、フィンの事で何か心配な事があるの?」

 ブランはギクリとしてだまった。どうやらジェシカには何もかもお見通しのようだ。ブランはしぶしぶ話し出す。

「フィンはアタシの事とても大切にしてくれるのさ。だけど恋愛感情じゃない。アタシはいつかフィンに好きな女の人ができる事が怖いんだわよ」
「そうね。私もフィンの事を見ていて、契約霊獣のブランの事をとても大切にしているのがよくわかるわ。ねぇブラン、もしフィンに愛する女の人が現れたら、貴女はどうするの?」

 ブランはグッと息を飲んだ。そうしないと涙が出そうになってしまうからだ。ブランは、自分の声が震えてしまわないようにゆっくりと答えた。

「わからない。だけど、もしフィンに恋人ができたら、アタシは、アタシはとっても悲しい」

 ブランはそう言い終わると、ポロポロと涙を流した。ジェシカは優しくブランを抱きしめながら言った。

「大丈夫よブラン。ブランとフィンはとてもいいパートナーよ?きっとどんな事だって乗り越えていけるわ?」

 ブランはジェシカの胸に顔をすりつけながら泣いた。ようやくブランの涙が止まった頃、ジェシカは指で、ブランの頬の涙をぬぐいながら言った。

「ブラン。私がネローに愛してると言わないのはね、怖いからよ。私はネローとの今の関係がとても大切なの。もし私がネローに愛してると言った途端、今の関係が変わってしまうかもしれないと思ったら、とても怖いわ。だからね、ブラン。私とネローは契約して、七十年以上も経っているけど、今も不安な事が沢山あるわ。だからブランがフィンに対して不安に思う事があって当然よ?」

 ブランはジェシカの胸に顔を擦り付けながらウンウンとうなずいた。ジェシカは、そんなブランの頭を優しくなでてくれた。ジェシカはブランの耳元に小さな声で言った。

「そうね。私がネローに愛してるって言うとしたら。それは私が老衰で死ぬ時かしら。その時が来たら、私は初めて会った時から貴方の事を愛していたわって言うの」

 ブランはジェシカにしがみつきながらぼんやりと考えた。どんな事があっても、フィンを愛し続けようと。たとえブランの恋が実らなかったとしても。

 


 


 
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