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新人司書フィンの日常

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 司書の仕事は目まぐるしく、あっという間にお昼になった。フィンはザラと一緒に食堂に行き、昼食をとった。フィンのランチは、ジェシカの手作りのハムとチーズとトマトとレタスが入ったボリュームたっぷりのサンドイッチだった。ザラは食堂でオーダーしたシチューとバケットを食べながら言った。

「そうか、フィンはおばさんの所にやっかいになっているんだね?」
「うん。召喚士になれなかった時はしばらく何もしたくなかったけど、おばさんに人外語図書館につとめたらどうかってすすめられて」
「そうだね。僕も、召喚士になれなかった時は、死んでしまいたいって思った」

 ザラの言葉に、フィンはヒュッと息を飲んだ。フィンがあまりにも非そうな顔をしていたからだろう。ザラは苦笑しながら、今はもうそんな事考えてないと答えた。

 フィンは、自分もそうだと思った。フィンは小さな頃から召喚士になるためだけに心血を注いできた。もしブランと契約できていなければ、フィンは抜けがらになってしまっていただろう。

 フィンはザラに嘘をつかなければいけない事がとても苦痛だった。フィンはこれまで嘘をついた事があまりなかった。嘘をつく事は悪い事という考えもあったし、何より嘘をつこうとすると顔に出てしまうのだ。フィンはジェシカのサンドイッチにかぶりついた。きっととても美味しいサンドイッチのはずなのに、味はよくわからなかった。

 フィンはザラの指導のもと、貸し出された本の返却をしてその日の業務を終えた。フィンはヘトヘトになりながらジェシカの家まで帰り着いた。

 ジェシカたちはフィンの事をあたたかく迎えてくれた。白猫のブランがフィンの胸に飛び込んできた。フィンはブランをキャッチして抱き上げる。ブランはフィンを見上げながら聞いた。

『フィン、結果はどうだったのさ?』
「うん、司書の仕事って大変だね。仕事を覚えるのが難しかったよ」

 フィンがそう答えると、ブランたちは困った顔でフィンを見つめた。そこでフィンはハッとした。自分は司書になるために人外語図書館に行ったわけではなかった。フードの男の手がかりを探すために潜入したのだ。フィンが固まっていると、ジェシカが明るい声で言った。

「フィンは今日初日だったんだもの。さぁ今夜はゆっくり休んでちょうだい」
「でもジェシカ、保護団体の仕事もあるでしょ?僕も手伝います」

 フィンが人外語図書館に潜入している間、ブランとリリーとフレイヤは霊獣保護団体の手伝いをしていたのだ。だがジェシカはフィンの顔を見ながら言った。

「いいえフィン。今日はもう休みなさい?貴方ひどい顔よ?」

 フィンはジェシカにうながされ、客間の寝室に行った。その後ろを白猫のブランがついて行く。フィンはベッドに倒れ込んでマクラに顔をうずめた。どうやら自分で思っていた以上に精神が疲労していたようだ。

 マクラ元にブランが飛び乗り、優しく声で言った。

『フィン。お疲れさま、ゆっくり休むんだわよ』

 フィンは小さな声でうん、と言ってから、思い出したようにブランに質問した。

「ねぇブラン。今日僕を指導してくれたザラという人は、とても親切でいい人だったんだ。だけど召喚士になれなかったんだ。僕はザラみたいな人は召喚士になれそうだと思ったのに。どうしてザラは霊獣か精霊と契約できなかったんだろう?」

 ブランは、フィンの疑問には答えないで優しい声で言った。

『フィン。もう目をつぶって?貴方には休息が必要よ?』

 フィンはブランの言う通り目をつぶった。するとすぐに眠りがおとずれた。
 

 

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