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セミルの決意
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ランスの町を出て行く。その言葉は、セミルの口からスルリと出てきた。もう心の中で決めていた事だ。ランスの町は、町の人々とセミルの努力のかいあってようやく軌道に乗り出したのだ。
セミルは、ランスの町の人たちに薬草作りの手ほどきをしていた。この薬草は、魔法の師匠から教わったよく効く魔法薬の原料になる。この魔法薬は病やケガにより種類がことなる。ランスの町の魔法薬は評判を呼び、貴族からの購入依頼も増えているのだ。定期的な購入者がいれば、国からの多額の税金を払う事ができる。
むしろ今ではセミルの存在が、ランスの町の重荷になっているのだ。セミルはランスの町を存続させるため、貴族の財宝を盗んでしまった。今やセミルを捕らえようと、ランスの町に大勢の冒険者が押し寄せる事になってしまった。セミルはもっと早くランスの町を去るべきだったのだ。
だがセミルには、ランスの町から去りがたいいくつかの事があった。一つは妹のアロワだ。彼女の容態はだいぶ良くなったというものの、たまにだが発作で発狂してしまう事があった。その時にはどうしてもセミルが側にいてやらなくてはいけなかった。それにランスの町には、亡き両親を知る人々もいるのだ。
しかし今回セミルを捕らえようとやって来た少年召喚士のフィンと出会い、やっとふんぎりがついた。セミルが泣き止まないジャムをあやしながら、フィンと話していると、その場には沢山の人々が集まってきた。ランスの町の人々だ。
先頭には、ランスの町の町長が、食堂の店主に支えられながらやって来た。ランスの町の町長には、以前の王都近くにあったランスの街の指導者がなった。だがもうだいぶ高齢になり、誰かに支えられないと歩く事も危なげになっていた。きっと、食堂の店主からセミル捕縛の冒険者の話を聞いて急いで来てくれたのだろう。町長はセミルたちの側までやって来ると、おもむろにひざをつき、あろう事か頭を地面つけて言った。
「若き召喚士どの、どうかセミルをお助けください。セミルはわれらランスの民のために行動してくれているのです」
セミルは焦って町長の頭を上げさせようとした。だが、その場にいた町の人々も皆町長に習い、ひざをついて頭を下げたのだ。セミルは叫び声を上げたい気持ちになった。セミルは元来そんな事をされるガラではない。セミルがやきもきしていると、フィンが町長に向き直って言った。
「頭を上げてください皆さん。僕の方こそ皆さんの話を聞かずにセミルに攻撃してすみませんでした。セミルはあなたたちにとって大切な人なんですね?」
フィンの柔らかな言葉に、町長はホッと息をついて頭を上げてくれた。町の人々もゆっくりと顔を上げる。セミルは頃合いだと思い、ジャムを抱き上げつつ立ち上がった。するとジャムが大きく手を振った。ジャムの視線の先を見ると、ジャムの祖父がいた。セミルはジャムの祖父にジャムをあずけてから、町の人たちに言った。
「皆、聞いてくれ。俺はこの国を出て行く。だからもうおかしな冒険者がこの町に来る事はないだろう」
ランスの町の人たちは、しんと静まりかえっていた。突然一人の女が立ち上がりセミルに駆け寄って来た。セミルの大切な妹アロワだ。アロハは美しい瞳からポロポロと涙を流しながらセミルに抱きついて言った。
「兄さん!いやよ、行っちゃいや。私を一人ぼっちにしないで!」
セミルはアロワを優しく抱きしめてから、つとめて優しい声で言った。
「大丈夫だよアロワ。もしアロワが困った事があったらすぐに帰ってくるからな」
セミルは、妹のアロワとランスの町長に通信用魔法具を手渡している。だからもし何か困った事が起きれば、セミルは空間魔法ですぐにランスの町に戻る事ができるのだ。
セミルとアロワの側に、がっちりとした若者が近寄って来た。彼はゼンと言って、アロワの婚約者だった。ゼンは無愛想でぶっきらぼうだが、とても誠実な若者だ。アロワの過去を聞いた上で嫁に迎えたいと言ってくれたのだ。兄のセミルとしてはとても感謝していた。セミルはアロワを抱きしめたまま、ゼンの目をジッと見ながら言った。
「アロワ。お前にはゼンがついてる」
ゼンは真剣な表情でセミルにうなずいてくれた。
セミルは、ランスの町の人たちに薬草作りの手ほどきをしていた。この薬草は、魔法の師匠から教わったよく効く魔法薬の原料になる。この魔法薬は病やケガにより種類がことなる。ランスの町の魔法薬は評判を呼び、貴族からの購入依頼も増えているのだ。定期的な購入者がいれば、国からの多額の税金を払う事ができる。
むしろ今ではセミルの存在が、ランスの町の重荷になっているのだ。セミルはランスの町を存続させるため、貴族の財宝を盗んでしまった。今やセミルを捕らえようと、ランスの町に大勢の冒険者が押し寄せる事になってしまった。セミルはもっと早くランスの町を去るべきだったのだ。
だがセミルには、ランスの町から去りがたいいくつかの事があった。一つは妹のアロワだ。彼女の容態はだいぶ良くなったというものの、たまにだが発作で発狂してしまう事があった。その時にはどうしてもセミルが側にいてやらなくてはいけなかった。それにランスの町には、亡き両親を知る人々もいるのだ。
しかし今回セミルを捕らえようとやって来た少年召喚士のフィンと出会い、やっとふんぎりがついた。セミルが泣き止まないジャムをあやしながら、フィンと話していると、その場には沢山の人々が集まってきた。ランスの町の人々だ。
先頭には、ランスの町の町長が、食堂の店主に支えられながらやって来た。ランスの町の町長には、以前の王都近くにあったランスの街の指導者がなった。だがもうだいぶ高齢になり、誰かに支えられないと歩く事も危なげになっていた。きっと、食堂の店主からセミル捕縛の冒険者の話を聞いて急いで来てくれたのだろう。町長はセミルたちの側までやって来ると、おもむろにひざをつき、あろう事か頭を地面つけて言った。
「若き召喚士どの、どうかセミルをお助けください。セミルはわれらランスの民のために行動してくれているのです」
セミルは焦って町長の頭を上げさせようとした。だが、その場にいた町の人々も皆町長に習い、ひざをついて頭を下げたのだ。セミルは叫び声を上げたい気持ちになった。セミルは元来そんな事をされるガラではない。セミルがやきもきしていると、フィンが町長に向き直って言った。
「頭を上げてください皆さん。僕の方こそ皆さんの話を聞かずにセミルに攻撃してすみませんでした。セミルはあなたたちにとって大切な人なんですね?」
フィンの柔らかな言葉に、町長はホッと息をついて頭を上げてくれた。町の人々もゆっくりと顔を上げる。セミルは頃合いだと思い、ジャムを抱き上げつつ立ち上がった。するとジャムが大きく手を振った。ジャムの視線の先を見ると、ジャムの祖父がいた。セミルはジャムの祖父にジャムをあずけてから、町の人たちに言った。
「皆、聞いてくれ。俺はこの国を出て行く。だからもうおかしな冒険者がこの町に来る事はないだろう」
ランスの町の人たちは、しんと静まりかえっていた。突然一人の女が立ち上がりセミルに駆け寄って来た。セミルの大切な妹アロワだ。アロハは美しい瞳からポロポロと涙を流しながらセミルに抱きついて言った。
「兄さん!いやよ、行っちゃいや。私を一人ぼっちにしないで!」
セミルはアロワを優しく抱きしめてから、つとめて優しい声で言った。
「大丈夫だよアロワ。もしアロワが困った事があったらすぐに帰ってくるからな」
セミルは、妹のアロワとランスの町長に通信用魔法具を手渡している。だからもし何か困った事が起きれば、セミルは空間魔法ですぐにランスの町に戻る事ができるのだ。
セミルとアロワの側に、がっちりとした若者が近寄って来た。彼はゼンと言って、アロワの婚約者だった。ゼンは無愛想でぶっきらぼうだが、とても誠実な若者だ。アロワの過去を聞いた上で嫁に迎えたいと言ってくれたのだ。兄のセミルとしてはとても感謝していた。セミルはアロワを抱きしめたまま、ゼンの目をジッと見ながら言った。
「アロワ。お前にはゼンがついてる」
ゼンは真剣な表情でセミルにうなずいてくれた。
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