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大悪党魔法使いセミル

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 セミルたちはオーバン伯爵のさらなる攻撃を恐れて街を去る事になった。セミルは街の男たちと協力して、亡くなった人たちを棺にいれた。そして、大きな空間魔法を作り出し、街の人々と亡くなった人たちの棺を通らせた。

 セミルたちは何度かの空間移動を繰り返してレムーリア国の端っこ、荒涼とした土地に新たなランスの町を作る事にしたのだ。

 セミルは土魔法で沢山の大木を作り出し、家を作る事にした。少なくなったランスの人々たちだけで町を再生させるのは大変だったが、何かに打ち込んでいる方が亡くなった人たちの事を考えてないですんでいたのも事実だった。

 セミルは不毛の土地の改善にも着手した。土魔法で土を作物が育つように。人間は食べなければ生きていけない。そして、町の側には、内戦で亡くなった人たちの墓地を作った。セミルは亡くなった両親の墓に誓った。必ず妹のアロワを守り幸せにすると。

 セミルたちの努力で、新たなランスの町が形になってきた頃、レムーリア国の新国王オーバン国王の使者がやって来て言ったのだ。レムーリア国民の責務として税を支払うようにと。ランスの町にかせられた税金はとても高額なものだった。これはオーバン国王が、ランスの町の人々が謀反を考えないように財力を蓄えないようにさせるためだ。

 セミルはこれに大きく怒った。オーバン国王はセミルの大切な家族を奪い、大切な妹を傷つけただけではあき足らず、やっと元の暮らしを取り戻そうとしていたランスの町の人々からさらに奪うというのか。

 セミルはオーバン国王に、そしてオーバン国王に加担して私服を肥やした貴族たちに復讐すると誓った。セミルは貴族の館から金品を奪った。そして、闇のルートを使って綺麗な金にかえ、ランスの町の人々に配った。これで、オーバン国王がランスの町に多額の税をかけても、ランスの町は税金を払う事ができた。

 ランスの町に、しばらくはつかの間の平和がおとずれた。だが次第にランスの町にガラの悪い冒険者がやってくるようになった。大悪党赤髪のセミルを倒すために。セミルには疑問だった。何故セミルがランスの町にいる事がわかったのだろうか。そこで思い至った、セミルは国家魔法使いになるため書類を提出した。そこに出生地はランスの街と記していた、そして両親の名前も。

 オーバン国王はすぐに思い当たったのだろう。王都に近かったランスの街の人々がこつぜんと消え、レムーリア国の端っこに突然ランスの町ができた。それもすべて国家魔法使いセミルの仕業だと。

 セミルは悩んだ。自分がこのままランスの町にいては、町の人々に迷惑がかかる。だがたった一人の妹アロワから離れる事はためらわれた。アロワは少しずつ正気を取り戻してきたが、とても不安定で、セミルが彼女の側を離れると情緒が不安定になってしまうのだ。

 セミルはランスの町に来るガラの悪い冒険者をコテンパンにして追い出した。だが正義感の強い冒険者はなるべく傷つけず帰したかった。そのため町の人々に協力してもらい、食堂や宿屋にセミルを捕らえようとする冒険者が来たら、睡眠薬で眠らせてもらった。そして、セミルが記憶操作の魔法でセミルとランスの町の記憶を消して帰していた。

 だが今回来た冒険者はまだ少年だった。しかも、とても心の綺麗な少年だった。食堂の店主から、睡眠薬を飲ます事に失敗したと連絡が入り、様子を見に行った。少年は召喚士だった。セミルは思った、これはぶが悪いと。少年は白猫の霊獣を連れていた。霊獣の潜在魔力と人間であるセミルの潜在魔力の差はれき然だ。

 だが一つだけセミルに勝機があるとするならば、少年はまだ幼く召喚士の学校を出たてのようだった。そこをつくしかない。熟練した召喚士になると、召喚士と契約霊獣の連携が確立されて魔法使いのセミルにはうつ手がない。だが、まだ未熟な召喚士ならスキがあるのではないか。

 セミルは少年召喚士と霊獣を町から離れた平地に連れて来た。ここなら町への被害はないだろう。少年召喚士と霊獣はすぐさまセミルに向かって走って来た。まずは霊獣が何の魔法を使うのか把握しなくては。セミルは強力な炎魔法をぶつけた。白猫の霊獣は鉱物防御魔法でセミルの攻撃魔法を防いだ。どうやら白猫の霊獣は土魔法を使うようだ。

 だが少年召喚士と霊獣はただただセミルに向かって走ってくる。少年召喚士は防御一辺倒でちっとも攻撃してこなかった。セミルはいぶかりながらも攻撃し続けた。少年召喚士がもう少しでセミルに近づこうとした時、ようやく霊獣が植物攻撃魔法を使った。何本もの巨大なツルがセミルに襲いかかった。セミルは風魔法で身体を浮かせてツルの攻撃から逃れた。セミルは攻撃をよけながらホッと息をはいた。

 やはり自分の読みは正しかった。少年召喚士は上手く霊獣に指示を出す事ができず、やたらセミルに近づこうとしてくる。これならば少年召喚士と霊獣を引き離し、彼らを傷つけずに制圧する事も可能そうだ。

 セミルが油断した途端、ツタの陰から少年召喚士が飛び出して来た。しかもセミルにこぶしをふり上げていた。セミルはすんでの所で、風防御魔法を発動して少年のこぶしから身を守った。少年召喚士は自らの未熟さを熟知して、自身の体術を高めているのだ。これはまずい、セミルは魔法使いとしては優秀な方だが、体術に関してはからっきしだ。

 セミルの間合いに入られたらまずい。セミルは氷攻撃魔法を少年召喚士に放った。少年は軽やかな身のこなしでセミルの攻撃をよけた。少年から距離を取れればセミルにも勝機がある。少年がさらに間合いをつめる、セミルは再度氷攻撃魔法を少年に放った。だが少年はそれを避けようとしなかった。危ない、と思った瞬間。少年は気味の悪いペンダントに触れた。すると強力な風防御魔法が少年を包み、セミルの攻撃魔法を無効化してしまった。

 しまった、これは罠だったのだ。少年召喚士はすぐさまセミルとの距離をつめ、セミルの左脇腹にこぶしを入れた。セミルは派手に横に吹っ飛んだ。セミルは早く立ち上がろうとした。だが呼吸するたびに左脇腹に激痛が走った。少年はどうやらセミルに対して手加減をしてくれたようだが、肋骨が何本か折れているようだ。

 セミルはすぐさま治癒魔法を開始した。これでは少年召喚士と霊獣を傷つけずにしりぞけるなど無理な事だ。ここは一時退却しなければ。セミルがうずくまりながらスキをうかがっていると、目の前に巨大な土の怪物が現れ、今にもセミルに襲いかかってこようとしていた。セミルは思わずつぶやいた。

「ウソだろぉ」

 白猫の霊獣は土魔法で巨大な土人形を操っているのだ。この少年召喚士と霊獣は、お互い未熟だと理解しているからこそ、個々の力を底上げしているのだ。セミルは危機的状に置かれながらも、この二人はいいコンビだと思った。

 だがのんびりはしていられない。霊獣もまさかセミルをその場で殺そうとはするまい。捕まえて騎士団に突き出すと言っていたから、この巨大な土人形で捕獲するつもりだろう。セミルが逃げるタイミングをうかがっていると、信じられない光景を目にした。

 倒れているセミルの目の前に、小さな人物が仁王立ちに立ちはだかったのだ。セミルには後ろ姿だけでこの人物が誰だかわかった。ランスの町のジャムという少年だ。ジャムの母親は長患いで、セミルはよく煎じ薬を持参しては見舞いに行った。そこで息子のジャムに懐かれてしまったのだ。

 巨大な土人形は今にも小さなジャムを踏みつぶしそうだった。セミルは急いでジャムの元に駆け寄ろうとした。早くジャムの側に行って強力な防御魔法を張らなければ。セミルが起き上がって走り出そうとすると、あまりの脇腹の痛みで、地面につんのめってしまった。

 このままでは小さなジャムが死んでしまう。セミルが絶望的な気持ちで前を見ると、驚くべき事が起きた。少年召喚士が、無ぼうにも巨大な土人形のこぶしを受け止めたのだ。セミルはその瞬間をぼう然と見つめていた。

 

 
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