111 / 298
修行
しおりを挟む
その日からフィンの修行が始まった。フィンはバレットから体術を学んだ。バレットは剣だけではなく体術もずば抜けて強かった。フィンはバレットに何度もこぶしを打ち込むが、一手も打ち込む事ができなかった。バレットは鎧を脱いでくれているので、フィンのこぶしとけりがバレットの身体に当たっても、フィンのこぶしが砕ける事は無い。だがバレットの鍛え上げられた身体は鉄のように硬く、たまにフィンのこぶしがバレットの腹に当たっても、フィンの手首の方が変な方向に捻られてしまってとても痛かった。
体術の稽古の次は何本もの木の丸太を立てて、その丸太を人に見立ててこぶしとけりを打ち込む練習だ。バレットが言うには、フィンの手と足は、まだ人を殴ったりけったりするようになっていないのだそうだ。先ずはこぶしを作らなければいけない。丸太を叩くたび、フィンのこぶしは血で赤くなった。フィンは激しい手の痛みでくちびるを噛みしめた。
何故自分はこんなにも強くなりたいと思ったのだろうか。それは、自分を罰したかったからに他ならない。フィンはグッチの事が大嫌いだった。しつように自分に暴力をふるい、ぐろうした。グッチが召喚の儀で精霊とも霊獣とも契約できなかったと知った時、フィンはいい気味だと思った。ごう慢なグッチがもっと苦しめばいいとさえ思った。
だが死んでしまえばいい、とまでは思わなかったはずだ。だがグッチは死んだ。魔物との契約という最悪の選択をして。グッチの死を目の当たりにしてフィンは激しくうろたえた。そして後悔の念にさいなまれた。フィンはグッチを倒す事ができたはずだった。それなのにフィンはグッチを逃してしまった。もしもグッチを負かした時にしっかりと捕縛して騎士団に送り届けていれば、グッチは死ななかったはずだ。
フィンは自分を傷つける事でしょく罪をしたかったのだ。フィンはひたすら丸太を叩き続けた。もはや痛みも感じなくなっている。フィンの手からはボタボタと鮮血がしたたった。
『フィン。それくらいにしたら?』
柔らかな声にフィンはハッとして足元を見ると、フィンの契約霊獣のブランが優しげな瞳で見上げていた。フィンは身体の力が抜けて、その場に座りこんだ。ブランはフィンのひざに前足を乗せて、フィンの手を見せろとうながす。フィンはその通りにした。ブランは治癒魔法でフィンの血まみれの手を治してくれた。フィンは微笑んでブランに礼を言った。
「ありがとうブラン」
ブランは慈愛に満ちた表情を崩さず言った。
『グチャグチャにからまった思考の糸をほぐすのに、がむしゃらになるのも悪い事じゃないわ。でも、でもね。フィンもアタシもまだまだヒヨッコなのよ?失敗して、挫折して、絶望するのは当たり前なのよ?これからゆっくりと進んで行けばいいじゃないのさ』
ブランの柔らかな声は、フィンの耳に心地よかった。フィンとブランは真の名の契約をした事により心がつながっている。そのためフィンの気持ちはブランに伝わるのだ。フィンの焦りとしょうそう感はブランには痛いほどわかるのだろう。
フィンにはまだ時間がある。霊獣のブランと契約した事により普通の人間よりもゆっくりと歳を取るだろう。だがグッチは死んでしまった。フィンと同い年のグッチは生き急いで死んでしまったのだ。フィンはこれまで生きてきて初めて近しい人間の死に直面したのだ。
人は必ず死ぬ。それはフィンだとて充分わかっている事だ。だがフィンは、グッチの死にとてもショックを受けていた。死とは、突然今いる世界から切り離されるという事だ。フィンは死というものを恐怖した。それは自身が死ぬという恐怖ももちろんある。しかしそれよりも怖い事は、フィンの大切な人たちが死んでしまったらという恐怖だった。
体術の稽古の次は何本もの木の丸太を立てて、その丸太を人に見立ててこぶしとけりを打ち込む練習だ。バレットが言うには、フィンの手と足は、まだ人を殴ったりけったりするようになっていないのだそうだ。先ずはこぶしを作らなければいけない。丸太を叩くたび、フィンのこぶしは血で赤くなった。フィンは激しい手の痛みでくちびるを噛みしめた。
何故自分はこんなにも強くなりたいと思ったのだろうか。それは、自分を罰したかったからに他ならない。フィンはグッチの事が大嫌いだった。しつように自分に暴力をふるい、ぐろうした。グッチが召喚の儀で精霊とも霊獣とも契約できなかったと知った時、フィンはいい気味だと思った。ごう慢なグッチがもっと苦しめばいいとさえ思った。
だが死んでしまえばいい、とまでは思わなかったはずだ。だがグッチは死んだ。魔物との契約という最悪の選択をして。グッチの死を目の当たりにしてフィンは激しくうろたえた。そして後悔の念にさいなまれた。フィンはグッチを倒す事ができたはずだった。それなのにフィンはグッチを逃してしまった。もしもグッチを負かした時にしっかりと捕縛して騎士団に送り届けていれば、グッチは死ななかったはずだ。
フィンは自分を傷つける事でしょく罪をしたかったのだ。フィンはひたすら丸太を叩き続けた。もはや痛みも感じなくなっている。フィンの手からはボタボタと鮮血がしたたった。
『フィン。それくらいにしたら?』
柔らかな声にフィンはハッとして足元を見ると、フィンの契約霊獣のブランが優しげな瞳で見上げていた。フィンは身体の力が抜けて、その場に座りこんだ。ブランはフィンのひざに前足を乗せて、フィンの手を見せろとうながす。フィンはその通りにした。ブランは治癒魔法でフィンの血まみれの手を治してくれた。フィンは微笑んでブランに礼を言った。
「ありがとうブラン」
ブランは慈愛に満ちた表情を崩さず言った。
『グチャグチャにからまった思考の糸をほぐすのに、がむしゃらになるのも悪い事じゃないわ。でも、でもね。フィンもアタシもまだまだヒヨッコなのよ?失敗して、挫折して、絶望するのは当たり前なのよ?これからゆっくりと進んで行けばいいじゃないのさ』
ブランの柔らかな声は、フィンの耳に心地よかった。フィンとブランは真の名の契約をした事により心がつながっている。そのためフィンの気持ちはブランに伝わるのだ。フィンの焦りとしょうそう感はブランには痛いほどわかるのだろう。
フィンにはまだ時間がある。霊獣のブランと契約した事により普通の人間よりもゆっくりと歳を取るだろう。だがグッチは死んでしまった。フィンと同い年のグッチは生き急いで死んでしまったのだ。フィンはこれまで生きてきて初めて近しい人間の死に直面したのだ。
人は必ず死ぬ。それはフィンだとて充分わかっている事だ。だがフィンは、グッチの死にとてもショックを受けていた。死とは、突然今いる世界から切り離されるという事だ。フィンは死というものを恐怖した。それは自身が死ぬという恐怖ももちろんある。しかしそれよりも怖い事は、フィンの大切な人たちが死んでしまったらという恐怖だった。
0
お気に入りに追加
769
あなたにおすすめの小説
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる