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フィンの才能

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 バレットはフィンの鋭い瞳にたじろいでしまった。だがフィンの真剣さは確実にバレットに伝わった。バレットはフィンを強くしようと決めた。

 だがそれはとても困難な道のりに思えた。バレットは優秀な剣士だ、そのため相手を見れば相手がどのくらいの剣の使い手であるか瞬時にわかる。そして、この人間がどれだけの剣士になれるかという事も。

 バレットがら見てフィンは、そこそこの剣士にしかならないという事が一目でわかった。それに、フィンには剣士に一番必要なものが備わっていなかった。剣士とは、剣を交えた相手を殺すくらいの気持ちがなければいけないのだ。

 フィンは決定的に人を恨んだり、憎んだりする気持ちが無い。それに、フィン自身は気づいていないのだろうが、フィンは剣が嫌いなのだろう。剣は強い武器だが、相対する相手を傷つける。フィンの剣は相手を傷つけないように、傷つけないようにしているように見える。だからフィンの剣はちっとも上達しないのだ。

 バレットは模擬刀でフィンに徹底的に剣を打ち込んだ。フィンは毎日ボロボロになった。フィンの契約霊獣のブランはシャーシャーと怒っていた。だがフィンは白猫のブランをなだめ、バレットにひたすら剣を打ち込んできた。フィンはがむしゃらに剣を振り回す、バレットはフィンの剣を軽々とさばいていく。

 フィンは剣を武器としてとらえている。だがバレットが持つ剣の意味あいはまるで違う。バレットにとっての剣は、手の延長なのだ。バレットは剣を自由自在に動かす事ができる。フィンにはその事がまだわかっていないのだ。

 バレットは、剣を振りかぶって突進してきたフィンの剣を持つ手を模擬刀ではたいた。するとフィンは手に持った剣を取り落としてしまった。フィンは慌てて剣を拾おうとしたが、そこでハッとした表情になった。バレットはかねてから口を酸っぱくしてフィンに言っている事があった。それは、武器を落した時が一番敵に攻撃されるということだ。おそらくフィンはその事を思い出したのだろう。バレットは、フィンが唯一使える鉱物土魔法は、剣士として大きな強みになると考えていた。何故ならフィンは、いくら剣を落としてもすぐに新しい武器を魔法で作り出す事ができるからだ。

 だがバレットの期待に反して、フィンは新しい武器を出現させるのではなく、そのままバレットの間合いまで距離を詰めてきた。しかもあろうことかフィンは右手の素手でバレットの腹にこぶしを打ち込もうとしていた。バレットは不自然な姿勢に身体を屈めながら、左手でフィンの右手のこぶしを受けようとした。それは自身の腹部を守ろうとしての行動ではない。バレットは鎧を着ている、そんなバレットの腹部をフィンが殴れば、フィンの手がケガをしてしまうからだ。

 バレットはフィンを厳しく指導すると宣言していたが、とっさの行動ではフィンを守ろうとしてしまう。何故ならフィンは、バレットの可愛い可愛い弟なのだから。バレットが身体を屈めた途端、右頬に痛みを感じた。遅れてフィンに殴られたのだと気づいた。

 バレットは幼い頃からずっと戦いの中に身を置いていた男だ。敵から攻撃されれば、すぐに身体が反応してしまう。例え相手が弟のフィンであっても。バレットは左足を軸にして、右頬に受けた攻撃を受け流すと、左手のこぶしで相手に反撃した。フィンは何故かぼう然と立ったままだった。バレットはフィンの右頬に左手のこぶしをめり込ませた。フィンはポーンと吹っ飛んでしまった。

 ハラハラとバレットとフィンの特訓を見つめていた霊獣のブランは急いで倒れたフィンに駆け寄った。バレットはパンターに声をかけた。

「パンター、フィンのケガを見てくれ」

 その場に横になってバレットたちを見ていたパンターは、のっそりと起き上がってフィンの側に近寄ると、チョンと自分の鼻先をフィンにくっつけた。そしてバレットに振り向いて言った。

『フィンは大丈夫だ。殴られて脳が揺れたんだろう。軽い脳しんとうだ』

 パンターはそう言うと、フィンに治癒魔法を施してくれた。パンターはバレットの側に近寄りながら言った。

『バレット、お前も口から血が出ているな。治してやろうか?・・・。バレット、お前何で笑ってるんだ?』

 バレットに近寄って来たパンターは、けげんそうな顔でバレットを見た。バレットはクスクス笑いながら答えた。

「ハハ俺、笑ってたのか」

 バレットはフィンに殴られた右頬を指で撫でた。チクリと痛みを感じた。口のはしが切れていたのだ。バレットはニヤリと笑った。フィンの才能に気づいたからだ。
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