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バレットvs.グッチ

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 バレットは剣を構えて魔物もどきのグッチに対じした。グッチはなおも余裕の笑みを浮かべている。自身の魔力に絶大の自信を持っている証拠だ。

 バレットは右手だけで剣を持ち、左手に風攻撃魔法の弾丸を作り出した。左手のひらにリンゴほどの大きさの風のかたまりが出現した。バレットはグッチめがけて風攻撃魔法を放った。だが風攻撃魔法は、グッチに当たる前にグッチの針で無効化されてしまった。バレットはグッチの攻撃魔法を冷静に観察していた。バレットは左手から風攻撃魔法の弾丸を何個も作り出し、グッチに当てた。グッチはそのすべてを針で刺して無効化した。

 どうやらグッチの身体中に生えた針は、攻撃にも防御にも利用できるようだ。それに、針を再生させる時間がとても短い。針を撃ち切っても、すぐに身体中に針が再生されていた。だが、ともバレットは思う。グッチはメグリダと魔物の契約をしたというが、バレットから見れば魔物になりたての感がいなめない。つまりグッチはまだまだ魔物の力を使いこなせていないのだ。

 バレットはため息をつきながらグッチに言った。

「おい、グッチ。何か言い残す事はないか?お前にも家族がいるだろう?お前の死後、家族にその言葉を伝えてやってもいい」

 グッチは一瞬キョトンとした顔をした。その表情が子供じみていて、バレットは胸が痛んだ。だがグッチはすぐにいやらしい笑顔を浮かべて、バレットをあざ笑った。

「ははっ!何とお優しい事だ。その言葉そっくりお前に返す。弟のフィンに何か言う事があるか?ああ、お前を殺した後フィンにも後を追わせるから地獄で再会するといい」

 グッチはそう言うと、バレットめがけて沢山の針を放った。バレットは自身の全身に風魔法をまとい、速度を上げた。そして、自身に襲いかかる針の攻撃を剣で確実になぎ払った。バレットは楽々とグッチの間合いに入った。グッチはバレットの顔を驚がくの表情で見ていた。バレットはグッチの胴体めがけて剣を振った。グッチの身体は二つに分かれた。グッチは上半身と下半身に分かれ倒れた。だが魔物の力を持っているので、すぐには死なない。グッチは自身の現状が理解できないのか、怒りの咆哮をあげていた。

「何故だ?!そんなバカな!この俺が低俗な人間なんかに」

 バレットは哀れみの目でグッチを見下ろして言った。

「小僧、世の中には強え奴は山ほどいるんだよ。さぁ、約束だメグリダの事を話せ」
「黙れ!メグリダさまの事を話すわけないだろう!」

 バレットは炎魔法で、グッチの下半身を燃やした。グッチは雄叫びの声をあげた。

「貴様ぁ、何をしやがる!」
「お前はもうすぐ死ぬんだ。足なんかいらないだろう?」

 そこでグッチにも事の重大さがわかったのだろう。グッチは慌てて叫んだ。

「ま、待て。助けてくれ。メグリダさまは、突然現れて、俺に力を授けて消えちまったんだ。その後どうしたかは知らない。王都近くの森で出会ったんだ。俺が話せる事はそれだけだ」

 グッチはみじめったらしく涙と鼻水を流しながらこん願した。バレットは深いため息をついて答えた。

「グッチ、お前は魔物としてはまがい物だ。本物の魔物なら再生も可能だろうが、お前では無理だ。もうすぐお前は死ぬ」

 グッチの顔が恐怖と絶望にゆがむ。グッチはあらゆる汚い言葉を吐き続けた。そして最後に泣きながら呟くように言った。

「・・・父さん」

 それきりグッチはこと切れた。グッチが死ぬと共に、身体に変化が起きた。灰色で全身針だらけの身体が、元の人間の身体に戻った。バレットはため息をついてから、グッチの上半身を持ち上げ、下半身の方に持っていった。魔法で下半身の火傷を治癒させ、別れ別れになった身体をくっつけた。そして土魔法で豪華な棺を作り、中にグッチの遺体をおさめた。土魔法でグッチのボロボロの衣服を立派なものに変えてやる。バレットは最後に、グッチの見開いた目を手で閉じてやった。

 バレットの横にパンターがやって来た。バレットはパンターには振り向かずに言った。

「フィンは?」
『ケガは治した。いずれ目を覚ます』
「ありがとう」
『このガキの死体をどうするんだ?』
「グッチは最後に父親を呼んだ。父親の所に連れて行く」
『いいじゃねぇかバレット。こんなクソガキ狼のエサにでもすれば』

 バレットはそこで初めてパンターに向き直り、寂しそうに笑って言った。

「パンター。人間の一生はとても短い。だが、それでも必死に生きているんだ」

 パンターはフンッと鼻を鳴らしてから言った。

『そのガキを親の家まで連れてってやる』

 バレットは微笑んでありがとう、と言った。

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