98 / 298
ブランの選択
しおりを挟む
ブランは目の前の事を認識するのにしばらく時間がかかった。ブランの横を走っていた、大切な契約者のフィンが、あっと言う間に沢山の針に串刺しにされて倒れてしまったのだ。ブランはうつ伏せに倒れたフィンをぼう然と見つめていた。そして遅れてしぼり出すような悲痛な声をあげた。
『いゃぁ、フィン』
早くフィンに治癒魔法をほどこさなければ、フィンが死んでしまう。だがブランは、そこではたと気づく。フィンの身体中に突き刺さった針をどうすればいいろだろうか、針を抜けば大量の出血が起こるだろう。だがもたもたしていてもフィンは死んでしまう。ブランは思考がまとまらず立ち尽くしていると、火の精霊フレイヤの鋭い声が聞こえた。
『ブラン!私の魔法を使うの!隠しの魔法、フィンを隠して!そうすればフィンの今の状態を保持できるわ!』
ブランはハッとして、前足で倒れたフィンの腕に触れた。そしてフレイヤの隠しの魔法を発動させた。するとフィンは煙のように姿を消してしまった。ブランはそこでホッと息をついたが、自分の現状に気づいておののきもした。ブランは今敵の目の前なのだ。
ブランはゴクリとツバを飲み込みながら、目の前に立ちはだかる魔物に姿を変えたグッチを見上げた。グッチはわざとフィンとブランに隙を見せたのだ。素直なフィンは、まんまとグッチの策略にはまったのだ。これからどうすればいいのだろう。いくらフィンのケガの状態を保持できたとしても、助けられなければ意味がない。ブランがブルブル震えていると、グッチはニヤニヤと笑いながらブランに言った。
「ブラン、人型を取れ」
有無を言わさぬグッチの言動に、ブランは力なくしたがった。ブランはクルリと一回転すると、美しい銀髪の美少女になった。グッチはいやらしく顔をゆがめて言った。
「ブラン、お前は美しい。俺の物になればフィンの命は助けてやろう」
グッチはポケットから何かを取り出して、ブランの側に投げた。ブランが視線を向けると、それは霊獣の魔力を封じる拘束魔法具の首輪だった。ブランはゆっくりとした動作で首輪を拾い身につけた。ブランの魔法は封じられ、元の白猫に戻る事もできなくなった。グッチはブランに近づくと、ブランの頬をひと撫でして満足そうにその場を離れた。グッチの興味はブランからリリーに移ったのだ。
ブランはヨロヨロとその場にしゃがみ込んでしまった。これからどうすればいいのだろう。ブランの願いはただ一つ、フィンの命を助ける事だ。それができるならブランは死んだって構わない。だがどうやってフィンを助ければいいのだろう。フレイヤだとてリリーを人質に取られれば、魔力を封じられてしまうだろう。そこでブランは、自分の左手にはめられたバングルに目を止めた。金のバングルにアクアマリンの宝石がはめ込まれている。このバングルは、フィンの自称兄と主張するバレットからもらった物だ。ブランは、バレットからバングルをもらった経緯をぼんやり思い出していた。
ブランとフィンが、バレットと別れる前に彼からこのバングルを手渡されたのだ。その時フィンはアレックスとどこかに行っていて、ブランはバレットと二人だった。ブランは偉そうなバレットが嫌いだったので、つとめて無視をしていた。そのバレットに声をかけられたのだ。
「ブラン、人間になれ」
命令口調のバレットにブランは顔をしかめた。だがこの憎たらしいバレットはフィンの大切な家族だ。ブランはしぶしぶ人間の姿になった。するとバレットは、無造作にポケットからバングルを取り出し、ブランに手渡した。ブランは、何故バレットが自分にバングルを手渡したのか理由がわからず質問した。
「なんなのさ、これ。アタシに惚れてるの?アクセサリーを贈って気を引こうだなんて無駄だわよ?アタシとフィンは固い愛情で結ばれてんだから」
「何言ってんの?バカ猫。頭湧いてんの?怖いんだけど。これは通信用魔法具だ。フィンに何かあった時に連絡しろ」
「そんなのフィンに渡せばいいじゃないのさ」
「バカ。フィンは自分の心配より、ブラン、お前の心配をするだろう?だからブラン、お前が持っているんだ。フィンに危険が迫ったら、猫の声でも人間の声でもいい、俺を呼べ。いいな」
ブランはゆっくりと意識を現実に戻した。ブランはかすれた声で左手のバングルにつぶやいた。
「お願い、バレット、助けて。フィンを、」
『いゃぁ、フィン』
早くフィンに治癒魔法をほどこさなければ、フィンが死んでしまう。だがブランは、そこではたと気づく。フィンの身体中に突き刺さった針をどうすればいいろだろうか、針を抜けば大量の出血が起こるだろう。だがもたもたしていてもフィンは死んでしまう。ブランは思考がまとまらず立ち尽くしていると、火の精霊フレイヤの鋭い声が聞こえた。
『ブラン!私の魔法を使うの!隠しの魔法、フィンを隠して!そうすればフィンの今の状態を保持できるわ!』
ブランはハッとして、前足で倒れたフィンの腕に触れた。そしてフレイヤの隠しの魔法を発動させた。するとフィンは煙のように姿を消してしまった。ブランはそこでホッと息をついたが、自分の現状に気づいておののきもした。ブランは今敵の目の前なのだ。
ブランはゴクリとツバを飲み込みながら、目の前に立ちはだかる魔物に姿を変えたグッチを見上げた。グッチはわざとフィンとブランに隙を見せたのだ。素直なフィンは、まんまとグッチの策略にはまったのだ。これからどうすればいいのだろう。いくらフィンのケガの状態を保持できたとしても、助けられなければ意味がない。ブランがブルブル震えていると、グッチはニヤニヤと笑いながらブランに言った。
「ブラン、人型を取れ」
有無を言わさぬグッチの言動に、ブランは力なくしたがった。ブランはクルリと一回転すると、美しい銀髪の美少女になった。グッチはいやらしく顔をゆがめて言った。
「ブラン、お前は美しい。俺の物になればフィンの命は助けてやろう」
グッチはポケットから何かを取り出して、ブランの側に投げた。ブランが視線を向けると、それは霊獣の魔力を封じる拘束魔法具の首輪だった。ブランはゆっくりとした動作で首輪を拾い身につけた。ブランの魔法は封じられ、元の白猫に戻る事もできなくなった。グッチはブランに近づくと、ブランの頬をひと撫でして満足そうにその場を離れた。グッチの興味はブランからリリーに移ったのだ。
ブランはヨロヨロとその場にしゃがみ込んでしまった。これからどうすればいいのだろう。ブランの願いはただ一つ、フィンの命を助ける事だ。それができるならブランは死んだって構わない。だがどうやってフィンを助ければいいのだろう。フレイヤだとてリリーを人質に取られれば、魔力を封じられてしまうだろう。そこでブランは、自分の左手にはめられたバングルに目を止めた。金のバングルにアクアマリンの宝石がはめ込まれている。このバングルは、フィンの自称兄と主張するバレットからもらった物だ。ブランは、バレットからバングルをもらった経緯をぼんやり思い出していた。
ブランとフィンが、バレットと別れる前に彼からこのバングルを手渡されたのだ。その時フィンはアレックスとどこかに行っていて、ブランはバレットと二人だった。ブランは偉そうなバレットが嫌いだったので、つとめて無視をしていた。そのバレットに声をかけられたのだ。
「ブラン、人間になれ」
命令口調のバレットにブランは顔をしかめた。だがこの憎たらしいバレットはフィンの大切な家族だ。ブランはしぶしぶ人間の姿になった。するとバレットは、無造作にポケットからバングルを取り出し、ブランに手渡した。ブランは、何故バレットが自分にバングルを手渡したのか理由がわからず質問した。
「なんなのさ、これ。アタシに惚れてるの?アクセサリーを贈って気を引こうだなんて無駄だわよ?アタシとフィンは固い愛情で結ばれてんだから」
「何言ってんの?バカ猫。頭湧いてんの?怖いんだけど。これは通信用魔法具だ。フィンに何かあった時に連絡しろ」
「そんなのフィンに渡せばいいじゃないのさ」
「バカ。フィンは自分の心配より、ブラン、お前の心配をするだろう?だからブラン、お前が持っているんだ。フィンに危険が迫ったら、猫の声でも人間の声でもいい、俺を呼べ。いいな」
ブランはゆっくりと意識を現実に戻した。ブランはかすれた声で左手のバングルにつぶやいた。
「お願い、バレット、助けて。フィンを、」
0
お気に入りに追加
769
あなたにおすすめの小説
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる