ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

召喚士養成学校の校長

　九人の霊獣ハンターは拘束され、フレイヤたちは依頼主である召喚士養成学校に帰る事にした。ティナと契約精霊のタップは、その場にいる全員を空中に浮かべた。フレイヤはリリーの手をつないだまま、空中に飛び上がった。

　九人の霊獣ハンターも拘束されたまま空中に飛び上がる。タップの飛行魔法はすごかった。これだけの大人数を危なげなく召喚士養成学校まで連れて行ってくれた。霊獣ハンターたちのアジトに捕らわれていた犬の霊獣、ガゼルの霊獣、アナグマの霊獣はそれぞれ契約者の元に帰って行った。

　フレイヤたちが召喚士養成学校に着くと、依頼主の教頭が駆け寄って来た。ティナとタップ、ライラとリナリアを見てホッと笑顔を浮かべてから、鬼の形相になって言った。

「ティナ、ライラ。よくも私の命令を無視したな後できついお仕置きだ！」

　教頭の剣幕にティナとライラは顔を見合わせて、苦笑しながらうなずいた。きっとティナもライラも教頭が自分たちをものすごく心配してくれた事を知っていたからだろう。

　なおも教頭の説教がガミガミと続く。フレイヤたちがへきえきし始めていると、突然教頭室のドアが開いて、元気な老人が飛び込んで来た。老人はティナとライラを見ると大声で言った。

「おお。ティナ、ライラ！無事じゃったか？！」

　ティナとライラは老人に気づくと、走って老人に抱きついた。まるで仲の良い祖父と孫たちのようだ。フレイヤが教頭を見ると、眉間に寄ったシワを片手でつまんでもんでいた。何故かとてもストレスを感じているようだ。フィンが教頭に質問していた。あの老人は誰かと。教頭はため息をつきながら答えた。

「あの方はこの召喚士養成学校の校長だ」


　フレイヤは驚いた。リリーが言うには、金儲けをする人間に召喚士は向かないのだそうだ。だがあの老人の肩にはリスザルが乗っている。リスザルの霊獣だ。つまりあの老人は召喚士なのだ。この学校の校長は召喚士だったのだ。校長は、嬉しそそうにライラの肩に乗っているリナリアに声をかけた。

「おお、リナリア。また会えて嬉しいぞ？！」
『私もよ、会えて嬉しいわ校長先生』

　フレイヤは思わず笑顔になった。この学校の校長は、元生徒と契約霊獣をとても愛しているのだ。校長は、フレイヤたちに気づくと、近寄って言った。

「お主たちがリナリアを救ってくれた冒険者たちか。ありがとう」

　校長はていねいに頭を下げてくれた。フィンとリリーはとても恐縮していた。校長は顔をあげると、フレイヤを見つめた。すると目を大きく広げて、とても驚いた顔をした。フレイヤは不思議に思った。この校長とフレイヤは初対面だ。だが、校長はフレイヤの事を知っているようだ、何故だろう。そういえば初めて教頭室に入った時、教頭も驚いた顔をしてフレイヤを見ていた事を思い出した。校長は震えた声でフレイヤに言った。

「お主、フレイヤ、か？」

　フレイヤは何故初めて出会う校長が自分の名前を知っているのか不思議に思いながらも、うなずいた。すると校長は、顔をしわくちゃにして泣き笑いの表情をした。そしてひとり言のようにつぶやいた。校長先生、と。

　校長は深い悲しみと優しさかこもった笑顔を浮かべながらフレイヤに言った。

「美しい火の精霊よ。わしの寿命が残っているうちに出会えた事を感謝する。わしは先代の校長から時期校長を任命されて今年で百二十年になるのじゃ。先代の校長は召喚士ではなかった。元召喚士だったのじゃ。元校長の名前は、イヴァン」

　校長の言った名前を聞いて、フレイヤはカミナリにうたれたような衝撃をうけた。何故なら、イヴァンとは、フレイヤが最初に契約した契約者の名前だったからだ。フレイヤはブルブルと震え、いまにも崩れ落ちそうだった。リリーがすかさずフレイヤを支え、心配そうにフレイヤを見上げた。