ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

フィンの想い人

　フレイヤは自身の目の前を歩いている契約者リリーと、その友達のフィン、彼の契約霊獣ブランを慈愛の眼差しで見つめていた。フレイヤは契約者のリリーがとても大好きなのだ。そして友達のフィンとブランの事もとても可愛いと思っている。三人が楽しそうにしていると、フレイヤも嬉しいのだ。

　だがこの仲の良い三人は恋敵とその相手でもあるのだ。リリーとブランはフィンの事が好きなのだ。そしてフィンはおそらく、フレイヤの見立てでは女性に恋をしているようには見えなかった。フレイヤはリリーに幸せになってもらいたい。だがリリーの幸せがブランの不幸になる事も望んではいなかった。

　ブレインの街に行くまでは王都からおよそ4日かかる。フレイヤたちは野宿をしながら足をすすめた。野宿のために火を炊き、夕食をとった後皆で囲んでいる時の事だった。フレイヤはフィンに質問した。

『ねぇフィン？フィンは好きな人っているの？』

　フレイヤの質問に、フィンではなくリリーと白猫のブランがギクリと身体を震わせた。当のフィンはキョトンと首をかしげている。フレイヤは質問を補足した。

『好きな人って言ったって、お友達とかじゃないわよ？恋愛感情って事よ？』

　フィンはしばらく考え込んで口を開いた。

「好きな人。うん、いるよ」

　それを聞いたリリーとブランは、驚がくの表情で固まった。彼女たちに対するフィンの接し方は、とても親切だが恋愛感情ではなかったからだ。リリーとブランは目に見えて青ざめはじめた。フレイヤは苦笑しながらフィンに質問を続けた。

『へぇ？フィンも隅に置けないわねぇるどんな女性なの？』
「うん、とても綺麗な人だったと思う」
『思う？』
「うん。その人に会った時、僕はまだ小さかったからよく覚えていないんだ。それにいつも白い帽子をかぶっていて、顔もよく見えなかったんだ」

　フィンの言葉に、フレイヤは慌てて詳細を聞いた。フィンの話では、どうやらフィンが幼い頃に数回だけ出会った女性のようだ。フィンは幼かったため、彼女の名前も姿もよく思い出せないのだと言っていた。だがフィンは、冒険を続けながら彼女を探したいと考えているらしい。ブランは震える声でフィンに言った。

『ねぇフィン。その人の顔も名前もわからないんじゃ探すのは難しいんじゃないのさ？』

　フィンはブランに微笑んで答えた。

「うん、難しいかもしれない。だけどねブラン。僕はその人に出会ったらきっとわかると思うんだ。だからその人に出会えるまで僕はきっと探し続けるよ」

　フィンはそれだけ言うと、固まって動けないでいるリリーとブランをそのままにして剣の修行に行ってしまった。

　フレイヤは両手をパンパンと叩いて、リリーとブランの意識を戻した。

『はい！お嬢ちゃんたち、注目！フィンに好きな人がいたってなんの不思議もないでしよ？要はあなた達がフィンを振り向かせればいいんだから。それに顔も名前もわからない年上の女の人なんて探しようがないし、見つかったとしても結婚しているかもしれないしね？』

　フレイヤの言葉に、固まっていたリリーとブランがようやく動き出した。

「そ、そうよね？世の中広いんだもの。見つけるのは難しいわよね？」
『そうだわよ！それにフィンが小さい頃に会ったっていうなら、今はもうオバさんだわよ！』

　リリーとブランは元気を取り戻し、言いたい事を言っている。フレイヤはそんなリリーとブランを苦笑しながら愛おしそうに見つめていた。