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霊獣チップ
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チップはこの世に生を受けて、二百年以上生きている尊い霊獣だ。見た目は愛らしいシマリスの姿だが、潜在魔力はぼう大だ。そして、チップは誰にも真似できないすごい魔法を使えるのだ。自らの水魔法で水鏡を作り、過去と未来を視る事ができるのだ。この魔法のおかげで、チップはこの世界で自由に暮らしていた。
ある時チップにひとつの考えが浮かんだ。それは人間という種族と契約する事だ。人間はこの世界に少ししかいなかったのだが、百数十年の間にみるみる増えた者たちだ。チップは最初、人間たちをうとましくながめていた。だが人間を観察しているうちに、色々な人間がいる事がわかった。チップたち霊獣が好む心の綺麗な人間。霊獣が嫌悪する心の汚い人間。チップは心の綺麗な人間と触れ合ってみたくなったのだ。
チップが召喚の儀に答えて姿をあらわしてみると、そこには小柄な少女がいた。チップを見てとても驚いた顔をしてから、突然しゃがみこむと、ワンワン泣き出してしまったのだ。これにはチップも驚いた。チップが今まで観察していた召喚の儀は、魔法陣に霊獣が姿をあらわすと、人間が霊獣が好む対価を聞いてくれるのだ。その対価に霊獣が納得すれば、真の名の契約をするのだ。だがこの少女は泣いてばかりでまるでチップに話しかけてこない。もしかするとチップが小さいから不満なのだろうか。それはとんでもない侮辱だ。チップは身体は小さいが、魔力はそんじょそこらの霊獣に引けを取る気はない。
だが泣きじゃくる少女をよく観察していると、どうやらチップがあらわれた事に感極まって泣いているようだ。仕方なくチップは、対価は自分を撫でる事とした。少女はおえつしながらしきりにうなずいた。
少女の名前はエミリヤといった。エミリヤはとても心が綺麗で優しい少女だったが、心に深い悲しみもたずさえていた。エミリヤはチップに出会えた事をたいそう喜んで、そしてチップと少しでも離れると情緒が不安定になってしまった。おそらくエミリヤは、召喚士養成学校の授業で霊獣が嫌悪する心になると、契約を解除してしまうと学んでいるのだろう。エミリヤはしきりに、チップの嫌なところがあったら必ず直すから、どうか側から離れないでとこん願するのだ。
チップはそんなエミリヤが可哀想で可愛くて、絶対にエミリヤと離れたりしないからと安心させるのが常だった。
エミリヤは冒険者になり、チップと共に旅に出た。エミリヤは引っ込み思案な性格だが、チップの魔法もあって、着実に冒険者としてキャリアを積んでいった。チップも冒険の旅が面白く、このままエミリヤが冒険者でいてもいいと思っていた。
だがある人物との出会いがきっかけで、エミリヤは冒険者を辞める事を決意したのだ。その人物は元召喚士の老人だった。よこしまな心が芽生えた事が原因で、契約霊獣から契約を解除されてしまったのだ。老人はしきりにエミリヤに訴えたのだ。霊獣を裏切ってはいけないと。チップからすれば、エミリヤはずっと綺麗な心のままだと思っているから、老人の話を自業自得だと思って聞いていた。だがエミリヤは老人の言葉を重く受け止め、召喚士養成学校の教師になる事にしたのだ。
エミリヤは努力のかいあって召喚士養成学校の教師になった。エミリヤは希望に燃えて一年生の教師になった。だがエミリヤの教師人生の前途は多難だった。グッチといういけ好かないこぞうがエミリヤに反抗したのだ。チップは腹が立ってグッチを水魔法でこらしめてやろうとしたが、エミリヤに止められた。エミリヤは、自分はグッチの教師なのだ。必ずグッチを召喚士に導くといった。しかしグッチは長ずるにつれ、ますます残忍な性格になっていった。この時点でチップはグッチの事を完全に見限っていた。チップにはわかった。グッチは霊獣が嫌悪する心の汚れた人間なのだ。
グッチはエミリヤが気にかけている生徒のフィンの事をしつようにいじめた。エミリヤは必死になってフィンを守りかばった。それがますますグッチを助長させる事になった。この頃になると、チップは不安な気持ちになった。グッチのエミリヤに対する憎悪がとても大きくなっていったからだ。エミリヤは超がつくほどお人好しなので、どんなにグッチがエミリヤを傷つけようとしても、エミリヤはグッチの事を許してしまうのではないかと。もしもグッチがエミリヤに危害を加える事があれば、チップは何が何でも彼女を守るつもりだ。
エミリヤは大人になった今でも夜中にうなされる事があった。エミリヤは泣きながら両親と養父母を呼んでいた。あまりの可哀想な姿に、チップはエミリヤの涙に濡れた頬を鼻でチョンチョンとつついて起こした。エミリヤは高い悲鳴をあげて目を覚ますと、かなぎり声でチップの事を呼ぶのだ。
「チップ!チップ!どこなの?!」
チップはすかさずエミリヤの肩に乗って、エミリヤの頬にすり寄って言うのだ。
『エミリヤ、ここだよ。僕はずっと側にいるよ?』
「ああ、チップ。絶対よ、絶対私の側から離れないでね?」
エミリヤは小さな子供のように泣きながらチップに頬ずりをして、チップの身体を優しく撫でるのだ。このような愛らしい存在を手放すなんて考えられない。チップは、涙の止まらないエミリヤが落ち着くまで優しく約束を繰り返した。
エミリヤはスヤスヤと眠っている。チップは彼女の枕元で飽きる事なく寝顔を見つめていた。チップはエミリヤが寝た後に決まっていつもする事がある。それはエミリヤの次の日の未来を見る事だった。チップは水魔法を発動させて水鏡を作り出した。チップが水鏡の中を覗き込むとそこには、エミリヤの元教え子のフィンが霊獣ブランと共にたすねてくる場面だった。チップは幸せそうに眠るエミリヤに微笑んで言った。
『安心してエミリヤ。明日はきっといい一日だよ』
ある時チップにひとつの考えが浮かんだ。それは人間という種族と契約する事だ。人間はこの世界に少ししかいなかったのだが、百数十年の間にみるみる増えた者たちだ。チップは最初、人間たちをうとましくながめていた。だが人間を観察しているうちに、色々な人間がいる事がわかった。チップたち霊獣が好む心の綺麗な人間。霊獣が嫌悪する心の汚い人間。チップは心の綺麗な人間と触れ合ってみたくなったのだ。
チップが召喚の儀に答えて姿をあらわしてみると、そこには小柄な少女がいた。チップを見てとても驚いた顔をしてから、突然しゃがみこむと、ワンワン泣き出してしまったのだ。これにはチップも驚いた。チップが今まで観察していた召喚の儀は、魔法陣に霊獣が姿をあらわすと、人間が霊獣が好む対価を聞いてくれるのだ。その対価に霊獣が納得すれば、真の名の契約をするのだ。だがこの少女は泣いてばかりでまるでチップに話しかけてこない。もしかするとチップが小さいから不満なのだろうか。それはとんでもない侮辱だ。チップは身体は小さいが、魔力はそんじょそこらの霊獣に引けを取る気はない。
だが泣きじゃくる少女をよく観察していると、どうやらチップがあらわれた事に感極まって泣いているようだ。仕方なくチップは、対価は自分を撫でる事とした。少女はおえつしながらしきりにうなずいた。
少女の名前はエミリヤといった。エミリヤはとても心が綺麗で優しい少女だったが、心に深い悲しみもたずさえていた。エミリヤはチップに出会えた事をたいそう喜んで、そしてチップと少しでも離れると情緒が不安定になってしまった。おそらくエミリヤは、召喚士養成学校の授業で霊獣が嫌悪する心になると、契約を解除してしまうと学んでいるのだろう。エミリヤはしきりに、チップの嫌なところがあったら必ず直すから、どうか側から離れないでとこん願するのだ。
チップはそんなエミリヤが可哀想で可愛くて、絶対にエミリヤと離れたりしないからと安心させるのが常だった。
エミリヤは冒険者になり、チップと共に旅に出た。エミリヤは引っ込み思案な性格だが、チップの魔法もあって、着実に冒険者としてキャリアを積んでいった。チップも冒険の旅が面白く、このままエミリヤが冒険者でいてもいいと思っていた。
だがある人物との出会いがきっかけで、エミリヤは冒険者を辞める事を決意したのだ。その人物は元召喚士の老人だった。よこしまな心が芽生えた事が原因で、契約霊獣から契約を解除されてしまったのだ。老人はしきりにエミリヤに訴えたのだ。霊獣を裏切ってはいけないと。チップからすれば、エミリヤはずっと綺麗な心のままだと思っているから、老人の話を自業自得だと思って聞いていた。だがエミリヤは老人の言葉を重く受け止め、召喚士養成学校の教師になる事にしたのだ。
エミリヤは努力のかいあって召喚士養成学校の教師になった。エミリヤは希望に燃えて一年生の教師になった。だがエミリヤの教師人生の前途は多難だった。グッチといういけ好かないこぞうがエミリヤに反抗したのだ。チップは腹が立ってグッチを水魔法でこらしめてやろうとしたが、エミリヤに止められた。エミリヤは、自分はグッチの教師なのだ。必ずグッチを召喚士に導くといった。しかしグッチは長ずるにつれ、ますます残忍な性格になっていった。この時点でチップはグッチの事を完全に見限っていた。チップにはわかった。グッチは霊獣が嫌悪する心の汚れた人間なのだ。
グッチはエミリヤが気にかけている生徒のフィンの事をしつようにいじめた。エミリヤは必死になってフィンを守りかばった。それがますますグッチを助長させる事になった。この頃になると、チップは不安な気持ちになった。グッチのエミリヤに対する憎悪がとても大きくなっていったからだ。エミリヤは超がつくほどお人好しなので、どんなにグッチがエミリヤを傷つけようとしても、エミリヤはグッチの事を許してしまうのではないかと。もしもグッチがエミリヤに危害を加える事があれば、チップは何が何でも彼女を守るつもりだ。
エミリヤは大人になった今でも夜中にうなされる事があった。エミリヤは泣きながら両親と養父母を呼んでいた。あまりの可哀想な姿に、チップはエミリヤの涙に濡れた頬を鼻でチョンチョンとつついて起こした。エミリヤは高い悲鳴をあげて目を覚ますと、かなぎり声でチップの事を呼ぶのだ。
「チップ!チップ!どこなの?!」
チップはすかさずエミリヤの肩に乗って、エミリヤの頬にすり寄って言うのだ。
『エミリヤ、ここだよ。僕はずっと側にいるよ?』
「ああ、チップ。絶対よ、絶対私の側から離れないでね?」
エミリヤは小さな子供のように泣きながらチップに頬ずりをして、チップの身体を優しく撫でるのだ。このような愛らしい存在を手放すなんて考えられない。チップは、涙の止まらないエミリヤが落ち着くまで優しく約束を繰り返した。
エミリヤはスヤスヤと眠っている。チップは彼女の枕元で飽きる事なく寝顔を見つめていた。チップはエミリヤが寝た後に決まっていつもする事がある。それはエミリヤの次の日の未来を見る事だった。チップは水魔法を発動させて水鏡を作り出した。チップが水鏡の中を覗き込むとそこには、エミリヤの元教え子のフィンが霊獣ブランと共にたすねてくる場面だった。チップは幸せそうに眠るエミリヤに微笑んで言った。
『安心してエミリヤ。明日はきっといい一日だよ』
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