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後始末

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 捕らわれた盗賊たちは口々に文句を言って騒いだ。

「俺を誰だと思っているのだ!」
「俺たちにこんな事をしておいて、お前たち全員縛り首だぞ!」

 盗賊たちは憎々しげにフィンたち冒険者を罵る。フィンたち以外の冒険者は、盗賊の正体が貴族とは知らされていないので、盗賊たちの強気な態度に違和感を覚えて不安がっているようだ。その騒動を一喝した者がいた。国王への忠義のために盗賊をしていると言った背の高い男だ。

「皆の者、これ以上話すな!静かにしていろ!」

 背の高い男の言葉に、他の盗賊たちはおとなしくなる。アレックスは背の高い盗賊の側にしゃがみこんで言った。

「すまなかった。あんたは俺と真剣勝負をしてくれたのに。俺は魔法を使って、勝負に水を差してしまった」

 背の高い男がアレックスの顔をジッと見てから言った。

「いいや、私はあの時貴殿に斬られて死にたいと思ったのだ。だがそれも叶わなかった。生き恥をさらしてしまった」

 背の高い男はうなだれてしまった。フィンはいたたまれない気持ちになった。貴族でいるという事は、そんなにも面倒くさい事なのだろうか。すると、それまでアレックスの後ろにいたバレットが、背の高い男に言った。

「おい、アンタは忠義のために盗賊になったと言っていたな?それならば何故間違いをおかしている主君の誤りを正さない?忠義と隷属をはきちがえるな」

 バレットの言葉に、背の高い男は目を大きく見開き、そして大声で泣きだした。バレットは他の盗賊たちに大声で話しだした。

「これからお前たち盗賊を、王都ドロアの騎士団長ランハート殿の所に連れて行く。言い訳はそこでしろ!」

 そこで余裕のある態度だった盗賊たちがざわめき出した。どうやら王都の騎士団長という人は、権威に屈しない相手らしい。そうなれば、いくら盗賊たちが貴族であっても刑罰に処されるかもしれない。

 バレットはフィンに頼んで大きな荷車を作ってほしいと言った。フィンはブランに頼んで作ってもらった。盗賊たちは大きな荷車に乗せられた。アレックスは背の高い男に声をかけた。

「あんたの剣は強かった。今度手合わせしてもらいたいくらいだ。もちろん模擬刀でだぜ?」

 厳しい顔を崩さなかった背の高い男の顔に、ほのかに笑顔が浮かんだ。背の高い男はアレックスに聞いた。

「貴殿は不思議な男だ。名を教えてくれるか?」
「俺はアレックス」
「私はベアテル・アーテリーだ。もっとも貴族ではなくなるだろうがな」

 背の高い男、ベアテルは苦笑しながら答えた。アレックスは笑って言った。

「平民だってなってみたらそんなに悪くないぜ?何たって自由がある。ベアテル、あんたは剣が強い。冒険者になるのもいいんじゃないか?」

 ベアテルは驚いた顔をしたが、笑顔でうなずいた。

 バレットは次に、監視のためにいたバルディの部下に指示を出した。ザーバの街に盗まれた宝物を返還するためだ。この時にはバルディの部下たちも、バレットに一目おいているようで、バレットの言葉に素直にしたがっていた。

 長くかかった盗賊の確保の依頼がようやく終わったのだ。
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