ひよっこ召喚師モフモフの霊獣に溺愛される

盛平

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根城に潜入

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 胸に抱いた白猫のブランの体温が、フィンのドキドキとした心音をなだめてくれた。今フィンは、ブランの姿隠しの魔法で周りからは見えない状態だ。だがブランから離れてしまえばフィンは姿が見えてしまう。おそらくフィンたちの前を歩いていると思われるバレットとアレックスの姿は見えない。盗賊団の館はどんどん近くなっていく、フィンは不安で仕方なかった。ブランがフィンに言った。

『大丈夫よフィン。あたしがバレットとアレックスの匂いを嗅ぎ分けられるから、バレットたちの後をついていけるわ』

 フィンはコクリとうなずいた。盗賊団の館の扉が一人でに開く。おそらくバレットが開けたのだろう。フィンは慌てて扉の中に入った。古びた館の中はとても綺麗だった。長く続いている廊下から光が漏れている。人がいるのだ。フィンはブランを抱きしめながら息を殺して光の見える場所に近づいた。光の漏れるドアの中を覗くと、そこは豪華な調度品にあふれた部屋だった。そこには六人の男たちが思い思いの場所に座り、酒を飲んでいた。おそらく盗賊団の者たちなんだろう。男たちの身なりは、金に困っているとは思えないほど立派なものだった。酒を飲んでいた男が上機嫌で言った。

「それにしても愉快な毎日だぜ。豪商の家に押し入って金目の物を持って行くのが仕事なんだからなぁ」
「ああ、だが人に暴力をふるえないのは残念だ。せっかく斬れ味のいい剣を持っているのに。それに美しい女がいればさらっていきたい」

 上機嫌な男に同調して、別な男も言った。その言葉に、酒を飲んでいないらしい別な男が言った。

「俺たちのやっている事は、あの方のためなのだ。忠義の行為をはき違えるな。人を殺し、女をさらっては文字通り盗賊になってしまうのだぞ」

 この酒を飲んでいない男は、この強盗行為を忠義ととらえているようだ。だが別な男が小馬鹿にしたように言う。

「あの方、ああ偉大なオーバン国王陛下!あの方のために俺たちは強盗のまね事をしているのだ、何とミジメな事か!」
「おい!あの方の名を軽々しく口にするな!」
「何度でも言ってやるさ!俺たちは爵位も継げない厄介者の貴族だからな!」

 フィンはドアの隙間から貴族の男たちの会話を聞いていた。盗賊行為を楽しむ者、忠義のために行う者、不満を持つ者それぞれのようだ。フィンの肩を誰かが叩いた。きっとバレットかアレックスだろう。フィンはゆっくりとドアから離れた。 

 廊下には数カ所のドアがあった。ドアは一人でに開いて行く、バレットが開けているようだ。部屋の中を覗くと、高いびきをかいている男がベッドで寝ていた。きっとこの男も貴族で、盗賊の仕事をしているのだろう。部屋で寝ている男は四人、酒を飲んでいる場所にいたのは六人。おそらくギィス盗賊団は十人なのだろう。フィンはゆっくりと足音を立てないように盗賊団の館から外に出た。思わずフゥッとつめていた息を吐いた。するとブランが姿隠しの魔法を解いたようだ。続いてバレットとアレックスの姿も現れた。

 バレットはフィンたちをうながして、館の裏手に行った。するとそこには大きな蔵があった。きっとザーバの街の豪商から奪った金品が入っているのだろう。バレットは蔵の鍵を確認してからフィンたちを手まねきしてその場を離れた。

 バルディたちが野営している場所に戻りながら、フィンはバレットに質問した。

「ギィス盗賊団の貴族の人たちは、そんなに悪い人たちではないみたいだね」
「まあな。特に酒を飲んでいなかったあの背の高い貴族はオーバン国王への忠義心から強盗をやっているようだな」
「バレット、どうするの?」
「ああ、盗賊団の奴らは皆無傷で確保する。それをやるのは野営に残っているバカ共だ」
「えっ、トントたちもやるの?」
「しょうがねぇだろ。あいつら仕事して報酬もらわなきゃ暴れ出すぜ。盗賊よりもタチが悪い」

 フィンとバレットの話を聞いていたアレックスが言葉をはさむ。

「まぁ、そう言ってくれるならバレット。奴らも話してみれば案外いい奴らだぜ?」
「お人好しもたいがいにしろよアレックス。あいつらは金に困って罪をおかしたんだ」
「そうだな、あいつらは困っていたんだ。困っている奴らは皆冒険者になろうとする。一攫千金の夢だ。だが現実は甘くない、冒険者登録は十五歳以上になれば誰でも登録できる。だが必ずしも冒険者の依頼を遂行して報酬を受け取れるわけじゃない」

 アレックスの言葉にバレットは黙ってしまった。この話はアレックスがフィンに話してくれた事だ。フィンが冒険者として任務をこなせるのは、ブランという強大な魔力を持った霊獣がいてくれるからだ。フィン一人ではきっと何もできないはずた。フィンは漠然とした不安を感じずにはいられなかった。
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