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ザーバの街

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 フィンはバレットたちと共にザーバの街を訪れていた。バレットはザーバの街の人々に話を聞きたいといった。バルディの話だけでは納得できないらしい。ザーバの街は商業が盛んで、とても豊かな街だった。この街の人々には裕福な者が多いそうだ。

 フィンは白猫のブランを肩に乗せ興味深げにザーバの街を見ていた。ザーバの街の商店はとても賑わっていた。いせいのいいかけ声と共に店主が客を呼びこんでいる。見てみるとフルーツを売る店だった。品物を見るが、フィンが見た事のないフルーツばかりだった。フィンの肩に乗ったブランも興味深げに見入っている。フィンの後ろにいたアレックスも店の商品を見て言った。

「おおナツメだ。おっちゃん十五個ちょうだい」

 アレックスの注文に、店主はニコニコ笑って紙袋に、赤い小さな実をつめてくれた。アレックスとフィンを見た店主が、ぼっちゃんにオマケだよと言って赤い実をさらに三つ入れてくれた。どうやらアレックスとフィンは親子に見られたようだ。アレックスは苦笑しながら礼を言って金を払った。

 アレックスは歩きながらフィンとブランの口にナツメの実をいれてくれた。甘ずっぱくて美味しかった。ブランも気に入ったようだ。アレックスが、ナツメの実は干してドライフルーツにしても美味しいのだと教えてくれた。

 しばらくすると聞き込みをしていたバレットが戻って来た。どうやら盗賊団の被害にあった豪商の家の場所を聞いてきたらしい。フィンたちはその豪商の家に向かう事にした。アレックスはバレットの口にもナツメを入れてやった。バレットはすっぱいと言って、顔をしかめた。その顔が子供みたいでアレックスとフィンは笑った。

 盗賊団の被害にあった豪商の館はとても豪華な作りだった。フィンたちは使用人にうながされて主人の書斎に案内された。主人は六十歳くらいのかっぷくのいい男で、フィンたちをこころよく自身の座るソファの向かいに座らせてくれた。バレットがレオリオの後継者という事実は効果絶大のようだ。すかさずメイドがお茶を運んでくる。バレットは着席したと同時に主人に質問した。

「ご主人、貴方はギィス盗賊団の被害に三回もあっているとうかがいました。そして、このザーバの街の裕福な家はどこも盗賊団の被害にあっている。何故冒険者協会にギィス盗賊団とうばつの依頼をしないのですか?」

 にこやかだった豪商の男の顔がにわかにくもり、口をつぐんでしまった。バレットはしばらく館の主人の返答を待ったが、返事がないので言葉を続けた。

「言いにくいのであれば私が話します。貴方はイエスの時はうなずいて、ノーの時は首をふってください。このザーバの街の裕福な商人たちは皆ギィス盗賊団の被害に合っているが、騎士団にも冒険者協会にも被害の報告はしていない」

 豪商の男は苦しそうに顔をゆがめながらうなずく。バレットは注意深く豪商の男の顔を見てから質問を続けた。

「貴方はギィス盗賊団がどのような集団なのか知っている。その上でどうしようもないと思って、甘んじて被害を受けている」

 豪商の男は、ハッとした表情になってからうなずいた。フィンは不思議でならなかった。何故この街の商人たちは、盗賊団の被害に苦しみながら助けを求めないのだろうか。バレットはさらに続けた。

「ギィス盗賊団の正体は、この国の王オーバン国王とゆかりのある貴族たちだからだ」

 バレットの言葉にフィンはびっくりした。盗賊になるような人間は、皆素行の悪い奴らだと思っていた。それなのに、バレットは盗賊団の連中は貴族だというのだ。平民のフィンは、国王や貴族はとても偉い人たちだという認識しかなかった。だからバレットの言った言葉をすぐに信じる事ができなかった。

 豪商の男はブルブルと震えながらゆっくりとうなずいた。バレットは豪商の男を真剣な目でみつめながら言った。

「ご主人、私は勇者レオリオの意思を継いでいきたいのです。レオリオがこのザーバの街にいたら、きっとギィス盗賊団を倒すというはずです。どうか貴方たちザーバの街の人々にも立ち上がっていただきたい」

 豪商の男はハッとした表情になり、バレットに深々と頭を下げてしぼり出すような声で言った。

「どうかこの街を助けてください」

 バレットは、アレックスとフィンの目を交互に見てから、うなずいた。
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