あやかし学園

あやかしの恋2

　亜子たちはすぐさま舞台そでに戻り、水性サインペンで、自分たちの顔にシワを書く。急いでいるので上手く書けなかったが、年を取った事がわかればいい。

　亜子たちは再び川で洗濯をしている。だが、先ほどより三十年も時が経過しているのだ。亜子は変わらず美しい清姫に向かって、不安そうに言った。

「お清さん。貴女は何年経っても変わらず綺麗だわ？一体どうなってるの？」

　音子とみなもも続く。

「そうね、あたしたちはこんなにしわくちゃになってしまったのに。お清さんは若い娘のまま」
「旦那の弥吉さんと並ぶと親子みたいだよ」

　亜子たちは気味悪そうに清姫を見た。清姫は悲しそうに下を向いたまま、何も言わなかった。

　場面が変わり、顔がシワだらけになった狐太郎と、美しい清姫が自宅にいた。ドンドンッと戸が強く叩かれて、狐太郎が戸を開けると、顔にシワを書いた山彦、菊花、河太郎が入って来た。狐太郎は驚いて言った。

「こんな夜中にどうしたんですか？皆さん」

　山彦は意地悪そうな目つきで清姫をにらんでから大声で言った。

「どうもこうもあるか！お前の嫁、お清はちっとも年をとらん。きっとあやかしの類いにちげぇねえ！この村に置いておくわけにいかねぇ！」
「そんな！待ってくれ！お清がおめぇたちに何かしたか？！」

　山彦の後ろにいた菊花が意地悪そうな笑みを浮かべて言った。

「弥吉どん。これまでは何もなかったからと言って、これから何もないという保証にはならないのよ？弥吉どんだって、内心気味が悪いんじゃないの？全く姿の変わらないお清さんの事」

　狐太郎の背後に隠れるようにしていた清姫が、ギクリと身体を震わせた。

　それまで山彦たちの後ろにいた河太郎が、狐太郎の前に現れた。狐太郎はすがるように河太郎に言った。

「村長、」
「弥吉よ。わしはお前が小さい頃から知っておる。悪い事は言わん、お清さんと離縁して、彼女にはこの村を出て行ってもらいたい。話しはそれだけじゃ」

　狐太郎は河太郎のそでにすがろうとするが、河太郎はそれを振り切り出て行ってしまった。

　その場に座り込む狐太郎。清姫は彼の背中に優しく手を置いて言った。

「お前さん、村の人たちの言う通りだ。私はこの村を出るよ？今までありがとうね？」

　狐太郎は勢いよく清姫に振り向くと、彼女の手を強く握って言った。

「だめだ、お清。行ってはだめだ！」

　清姫は一瞬、泣き出しそうな顔をしたが、厳しい顔になって言った。

「もう目をお覚ましな！私はね、村人が言う通りのあやかしなんだよ！バケモノなんだ！」

　清姫はそう言うと、顔だけ白ヘビの恐ろしい姿になった。狐太郎はヘビの顔になった清姫をきつく抱きしめて、絞り出すような声で言った。

「知っていた。お前があやかしだって事。だけどそれが何だと言うのだ。お前は私の大事な、たった一人の妻なのだ」
　
　清姫は、もとの美しい娘の姿になり。狐太郎に強く抱きついた。