上 下
3 / 5

束の間の平和な旅

しおりを挟む
「黄島、九州は初めてなんだろ?」
土地勘を知らなさそうな黄島の様子を見てきて、黒岩は、あることを提案した。
「俺、出身は宮崎なんだ。これから、宮崎と鹿児島の旅ってのは、どうだ?」
黄島は、野々宮や青山がいた頃でさえ、平和な旅など出掛けたことがなかったので、思いがけなかった。
「南の九州もいいぞ?ドライブで、3日間くらいで、どうだ?」
「あ、じゃあ、黒岩に任せるよ。」
黄島は、黒岩に委ねて、旅に出ることにした。

束の間の旅の休息。宮崎へ到着するまでは、鬼軍団の出現もなく、平和に車を走らせた。
途中、青島神社や鵜戸神宮を訪れ、黒岩と黄島は、お互いの幸せを願いながら、パワースポット巡りを楽しんだ。
「黄島、楽しいか?」
ドライブの間、運転する黒岩が、黄島に尋ねた。
「お宮参りなんか、経験したことなかった。平和であることが、こんなに幸せなんて…。」
黄島は、かつて悪党として活動していたことが、自分でも想像できないようなことを口にしていた。そして、黒岩といる時は、自分が悪党であったことをすっかり忘れていた。

その後二人は、宮崎や鹿児島の街を訪れ、観光や食事を楽しみながら、桜島へ向かっていた。その途中、黄島は、ふと門司港で見かけた鬼軍団の手下と思われる姿を見つけた。
(何か、作戦が進んでいるのか?まさか…。)
「どうした、黄島?」
鬼軍団に気づかない黒岩は、顔を強ばらせる黄島を気にかけることがあったが、
「いや、何でもない。」
黄島のたわいない答えに、あまり深く考えることはなかった。

しかし、桜島へ到着すると、黄島の微かな予感が的中した。鬼軍団は、今まで作戦に組み込んでいなかった、巨大兵器を使っての作戦を桜島で試行しようとしていた。
「黒岩!今、君のいる近くで、鬼軍団の反応があった。今までの奴らの作戦とは、大きく違うようだ。注意してくれ!」
黒岩は、司令官の指示に耳を傾けながら、近づく敵の気配を感じた。そして、黒岩の背後から、鬼軍団の手下が近づいた。
「危ない!」
危機を感じた黄島は、ブレスレットの力でイエローギャングの戦闘スーツに身を包み、黒岩を庇った。そして、黄島の背中を、手下の刀で切り裂かれた。
「うっ!」
「黄島!?バクソウチェンジ!」
黒岩は、ブラック二号に変身して、鬼軍団の攻撃に応戦した。黄島も、背中に大きな傷を負いながらも、イエローギャングの姿で闘った。しかし、傷の痛みに、手下から刃を向けられた。
「危ない!バクソウブラスター!」
ブラック二号は、武器で手下を翻弄させ、黄島を抱えて、安全な場所へ逃げた。

「黄島、大丈夫か?」
黒岩は、逃げた場所で、黄島の様態を気にかけた。
「今は、大丈夫だ。でも、次に黒岩を攻撃する奴が出たら、俺は、命懸けで黒岩を守る。」
黒岩は、黄島の言葉を聞いて、黄島が命を捨てようとしていると察した。
「司令官の話だと、鬼軍団の作戦は、今までの作戦と大きく違っているらしい。だから、出来れば、俺は黄島を巻き込みたくないんだ。」
黒岩は、黄島の安全を第一に願った。しかし、
「俺、本当は、あの悪党たちと同じ立場のはずなのに、不思議なんだ。初めて、命懸けで誰かを守りたいと思った。黒岩たちの作戦を阻む奴がいるなら、俺は、死んでも黒岩たちを守り通す。」
と、黄島は言葉を返した。

黒岩は、黄島から受け取った、ギャングスターの巨大兵器の様子を伺うため、鹿児島市内の五つ星戦隊の支部に顔を出し、システムプログラムを調べた。病院で手当を受けた黄島も、黒岩の様子を伺った。
「強化メダルとギャングロボのシステムを調べて、どうするんだ?」
「鬼軍団が、最終作戦に乗り出そうとしているみたいなんだ。」
黒岩が話すには、鬼軍団としての最後の手段である、巨大兵器への作戦に乗り出したことで、鬼軍団の侵略が本格的になることを懸念しているとのことだった。
「…鬼軍団にとっても、命を懸けた作戦に出たってことか。」
黄島は、この時、自分の身を犠牲にして、鬼軍団の巨大メカへ突進する作戦を思いついた。しかし、黒岩に心配をかけると思い、そのことは、誰にも話さなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アサノっち的戦隊シリーズ・札幌戦隊カムイレンジャー

アサノっち
ファンタジー
北海道の神秘なる存在・カムイの力を浴びた五人の戦士。彼らは、地獄の世界から復活した妖怪を倒すために、カムイレンジャーとなって戦う。しかし、倒すだけでは、妖怪は消滅しないことを知る。妖怪を消滅させるための手とは?そして、カムイレンジャーは、平和な札幌の街を取り戻せるのか?

アサノっち的戦隊シリーズ・東京支配組織ギャングスター

アサノっち
ファンタジー
悪の組織「ギャングスター」は、東京を支配しようと立ち上がる。それに立ち向かう「東京戦隊チューブマン」。東京では、悪VS正義の壮絶な闘いが繰り広げられていた。

アサノっち的戦隊シリーズスペシャル・地下鉄戦隊メトロレンジャー~ギャングスターの最期~

アサノっち
ファンタジー
ナニワレンジャーとカムイレンジャーが登場!東京を支配したギャングスター。そのギャングスターが、大阪と札幌を狙う!果たして、ナニワレンジャーとカムイレンジャーの運命は?そして、ギャングスターの最期は?

アサノっち的戦隊シリーズ・大阪戦隊ナニワレンジャー

アサノっち
ファンタジー
地底から、突如現れたワニ軍団。御堂筋たちは、天王寺長官に集められ、ナニワレンジャーとなって、大阪の街を守ることを決める。果たして、ナニワレンジャーは、ワニ軍団を倒すことが出来るのか?

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...