【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん

文字の大きさ
上 下
5 / 13

その⑤ 豆狸、再び巣穴を探す旅に出る

しおりを挟む
翌日の夜、豆狸は狸達に見送られ再び巣穴を探す旅に出る事になりました。


『『『豆狸様、お元気で~!早く新しい巣穴が見つかる事をお祈りしております。』』』

『うむ…お前達も元気でな。』


さて再び歩き出した豆狸…今度は川向こうの山のお寺に住む、従兄の豆狸の所に行く事にしました。


ここからだと遠いので、一番近い川沿いにあるお寺を目指す事にします。


そこは昔からあるお寺で、人間の家がたくさんある場所に近いのですが、従兄の豆狸が住むお寺への安全な近道の側にあって、少しの間休むのにちょうど良いのです。


この辺りは夜中は人通が少なく化けなくても大丈夫そうです。
そのまま鉄の橋を渡り、大きな道の反対側に行くと同じ車がたくさん車が止めてある場所の側に出ます。


そこを囲う柵に沿ってしばらく歩き左側に進むと大きな川があるのです。
昔は越えるのに苦労しました。


今は立派な橋があるので安心です。
橋を渡って暗い川沿いを歩き、古いお寺に着いた頃、夜が明けて朝になりました。


豆狸は人間に見つからないように、夜までお寺の床下に隠れて寝る事にしました。


『やれやれ、流石にここまで来ると疲れるのぅ。
久しぶりにここまで来たが、昔より人間達の家が増えたな…… 』


昔はこの辺りにも狸がいましたが、今はいないようです。
ここには、たくさんの人間が住んでいる大きな建物がいくつも立ち並んでいるので見つからないように急いで駆け抜けます。


しばらく進むとさっきより大きなキラキラした建物が見えてきました。
何やら良い匂いもしてきます。
どうやらこの辺りは、食べ物を売る店がたくさんあるようです。


ついフラフラとそちらの方へ行ってしまいそうになりましたが、人間に見つかってしまったらたいへんです。


豆狸は、ヨダレが垂れそうになるのをがまんしながら、こっそりと進みます。


食べ物屋からは、酔った人間達が出て来てお酒の匂いをさせながら歩いています。


『あゝワシもお酒が呑みたいのう……
この町のお酒は特に美味い。
隣りの寺の和尚と一緒に呑んだのが懐かしい……  』


昔なら葉っぱのお金で買えたものでしたが、今はそんな事をするとたちまち人間に捕まってしまいます。


豆狸は、ため息を吐きながら食べ物屋の脇を通り過ぎました。


『この辺りも昔は田んぼばかりだったのに変われば変わるものじゃな……  』


そうつぶやきながら進んで行くとやっと少しだけ昔の面影のある場所に出ました。


ずっと昔は無かった、大きな道の下の穴をくぐれば、従兄の豆狸が住むお寺まで、もう少しです。


穴を通り抜けてしばらく歩いていると豆狸はある事を思い出しました。


『そういえば昔、この辺りになかなか賢い虎毛の犬がいる家があったのぅ。
あの家の柿は甘くて美味しかった……  』


あそこの親父は呑んべえで、いつだったか狸の剥製を自慢していた事があった。


仲間のかたきとばかりに従兄の豆狸と親父を化かして、お酒をせしめた事は良い思い出である。


さて、ここまで来たら本当に後少し……
夜が明ける前には、従兄が住むお寺に着くだろう。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

陰陽神(いよかん)とポンの不思議な冒険

マシュー
児童書・童話
白狸ポンが、失踪した両親を探すため、黒猫りりと守護神鳳凰と共に、友情、家族、親子の絆を描いた物語。 ☆ジュブナイルファンタジー小説。 ☆本編は1章~4章で完結です。 ☆番外編はポンの両親父カンと母チイの出会いのお話です。 ☆この作品が面白いと思って頂けましたら是非、お気に入り登録&シェアを宜しくお願いします。感想も頂ければ嬉しいです。必ずお返事します。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

子猫マムの冒険

杉 孝子
児童書・童話
 ある小さな町に住む元気な子猫、マムは、家族や友達と幸せに暮らしていました。  しかしある日、偶然見つけた不思議な地図がマムの冒険心をかきたてます。地図には「星の谷」と呼ばれる場所が描かれており、そこには願いをかなえる「星のしずく」があると言われていました。  マムは友達のフクロウのグリムと一緒に、星の谷を目指す旅に出ることを決意します。

柚子の幸せ

砂月ちゃん
児童書・童話
あたし柚子。 寒い日に兄弟と一緒に、箱に入れられて捨てられてたんだって。 でも柚子は今とっても幸せなの♪ だって柚子には……

ことみとライ

雨宮大智
児童書・童話
十才の少女「ことみ」はある日、夢の中で「ライ」というペガサスに会う。ライはことみを「天空の城」へと、連れて行く。天空の城には「創造の泉」があり、ことみのような物語の書き手を待っていたのだった。夢と現実を行き来する「ことみ」の前に、天空の城の女王「エビナス」が現れた⎯⎯。ペガサスのライに導かれて、ことみの冒険が、いま始まる。 【旧筆名:多梨枝伸時代の作品】

ナイショの妖精さん

くまの広珠
児童書・童話
★あの頃のトキメキ、ここにあります★ 【アホっ子JS×ヘタレイケメン 小学生の日常とファンタジーが交錯する「胸キュン」ピュアラブストーリー】 「きみの背中には羽がある」 小六の和泉綾(いずみあや)は、幼いころに、見知らぬだれかから言われた言葉を信じている。 「あたしは妖精の子。いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!」 ある日綾は、大っ嫌いなクラスのボス、中条葉児(なかじょうようじ)といっしょに、近所の里山で本物の妖精を目撃して――。 「きのう見たものはわすれろ。オレもわすれる。オレらはきっと、同じ夢でも見たんだ」 「いいよっ! 協力してくれないなら校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」 「う、うわぁああっ!!  待て、待て、待てぇ~っ !!」 ★ ★ ★ ★ ★ *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *砕けた文体を使用しています。肩の力を抜いてご覧ください。暇つぶしにでもなれば。 *この物語はフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...